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勇者、笑顔で毒を浄化する

 身の丈およそ190センチ程度、勇者様より一回り大きな身体つきの女性。見事なまでに黒く美しい髪をたなびかせてその女性は私たちを見据えていた。


 ストレートに膝下まで伸ばしたその髪は見事なまでに真っ黒で、全身を覆い尽くす漆黒のマントがそれを強調する。


 太陽の陽すら拒絶するかの如くその黒は色褪せず、まるで世界に溶け込むことすら拒否している様でした。その瞳もまた闇を思わせる漆黒の黒一色。



 闇を抱く瞳に睨まれて私は思わずゾクッと背筋が凍り付く感覚を植え付けられてしまった。私たちと黒き美貌の持ち主はそう言った雰囲気の中で言葉を交えていく。



 最初に口を開いたのはオリビアだった。



 彼女は軽蔑の眼差しを包み隠す事なく口調を荒立てていた。



「シンシア、今すぐ毒を解除しなさい」

「小鳥がピーピーと囀って、見苦しいと思わないのですか?」



 シンシアと呼ばれた美女が面倒くさそうに髪をかきあげてオリビアを見下す異性を崩さない。



「エーレは貴女の部下、貴女も上役なら部下の命を軽んじる事がどれほどの愚か理解している筈です!!」

「部下? はて、オリビアはおかしな事を言う。私の目には壊れたオモチャしか映っていませんよ? オモチャならばその命尽きるまで持ち主を楽しませるのが課せられた使命でしょうに」



 そう吐き捨てるシンシアは腕を組んでから大きくため息を吐く。彼女に豊満な胸がそう言った仕草から強調されるも、私には彼女から一才の色香を感じなかった。



 負け惜しみでは無い。



 これはシンシアに対する私の明確な拒絶の心だ。

 丸みを帯びた輪郭に目立ちがハッキリとした幼げなウサギ顔の美人ながら妖艶さを兼ね備えたキュートな顔立ちに妖艶さを覗かせる美女。見た目だけならば完璧な美貌と言って差し支えないでしょう。



 そんな絶世美女から溢れんばかりに悍ましさを感じさせる空気が流れ出る。



 そんな風に考える私はシンシアと目が合ってしまった。彼女は私を見るなり途端に表情を変える、これまでの悍ましさが嘘の様に払拭されて明るい笑顔を浮かばせていった。


 するとそんなシンシアの反応をどう感じたのか、勇者様が後ろから私を抱きしめてくれました。「貴女には渡しません」とでも言いたげ真剣な眼差しで私を包み込んでくれた。そしてシンシアを拒絶する私に代わって彼女と言葉を交えて下さったのです。



「はっはっは、感情が豊かな女性ですねえ。ここまでチャーニングな方は滅多にお目にかかれませんよ」

「ジュピトリスの女王アルテミス・メサイアですね。うーん、やはり素晴らしい素材ですねえ、魔王様が夢中になられる理由がよく理解出来ると言うものです」

「アルテミスは誰にも渡しません。それからエーレちゃんの方もどうにかして頂けませんか? 彼女、あなたの毒に蝕まれているのでしょう?」

「さあ? 何処かで拾い食いでもして食中毒になったのでは?」

「んなわきゃねえだろうが!! 食中毒で吐血して溜まるか!!」

「ディアナ、貴女も煩いですねえ」

「テメエの能力が毒だってのは魔王軍にいた奴なら誰だって知ってる!! 魔王軍幹部第三席、副長補佐のシンシア・マルガレータ・マタハリー、人を小バカにすんのも大概にしやがれ!!」



 ディアナが込み上げる怒りを放つ。

 彼女の怒りは湧き出る流水の如くドンドンと全身に溜まっていく。溜まった怒りが許容量を超えるとディアナの全身からあふれ返って、怒声となってシンシアに向けて放たれた。


 しかし当のシンシアはと言えばディアナの感情を興味無しと言わんばかりに適当に受け流す。絶世の美女がつまらなさそうに指で耳を穿りながら愚痴を吐き捨てていった。



「だったら私に小バカにされない程度に強くおなりなさい。弱い自分を棚に上げて強い私のせいにするとは、生きてて恥ずかしく無いのですか?」

「テメエ……!!」

「ディアナ、貴女は治療を優先させなさい」

「オリビア、けどよー……」

「勇者様もアルテミスたちの安全を優先して下さい」



 オリビアは勇者様の返事を待たずして飛び出した。


 彼女は分かっていたのでしょう。

 勇者様はお優しい、それ故に返事を待てばどの様な答えが返ってくるかなど容易に想像が付くと言うものだ。先日のハーシェルの街での戦闘と状況は一緒、勇者様が私たちを守って下さって、オリビアが身を削る。



 勇者様はそれを良しとされない性格だから。


 責任感がお強い方だから。



 だからオリビアは飛び出していったのでしょう。

 彼女はシンシアに抱いた己の怒りをぶつけたがっている。その証拠にオリビアは血が滴る程に力強く拳を握りしめて私たちを置き去りにしてのだ。


 この状況になって勇者様は若干困った様に眉を顰めていた。


 そしてポツリと私にだけ聞こえる声で弱音を吐かれた。



「うーん、女性には闘って欲しくない、傷付いて欲しくない。これは私のエゴなんでしょうかねえ……」

「栄一様、闘いに身を投じる女性は確実におります。それが事実ですのでエゴでは無く侮辱の類かと」

「はっはっは、アルテミスは手厳しいですねえ。では私はオリビアさんに頼まれた通り、貴女たちを全力で守るとしましょうか」

「私は戦姫、侵略や略奪と言った行為を闘いで否定する者です。……出来るならば闘いは最終手段としたいところではありますが」

「はっはっは、肝に銘じましょう。では……」



 勇者様がイケメンの状態で微笑みを深めていく。


 またしても神々しいまでに光を放って私たちを包み込んでいった。

 眩しい……、これまで幾度となくこの状況になったから慣れてはきたものに、それでも目を瞑って光を遮らねばならないほどに眩しいのだ。



 当然ディアナも眩しさを感じる訳で。


 この光は治療を優先させる彼女には邪魔でしか無い。



 誰もがそう思うだろう。

 ですが私たちは見誤っていたのです、この光はただ女性をメロメロにするだけの代物では無かったのだ。それをエーレの示す反応を持って私たちは思い知る事となる。


 その驚愕すべき効力はエーレの治療に専念するディアナの口から述べられる事となった。



「……嘘だろ? エーレの体から……毒が浄化された?」

「はっはっは、病は気から。大事なのはスマイルです」



 勇者様の光り輝く笑顔がエーレの症状を和らげてしまった。


 先ほどまで毒に苦しみながら脂汗を掻いていたエーレだったが、勇者様の笑顔を浴びて症状が落ち着き出したのだ。その苦しみから解放されてエーレは静かに吐息を立てて眠りに着いた。



 これにはその場の全員が驚きの色を隠せなかった。


 元から勇者様は規格外の方だとは知っていたけど、それでも治療のスペシャリストであるディアナには特に衝撃的だったらしい。彼女は「は?」と呟きながらその顎が地面を突かんとする勢いで落としてしまう。


 いえ、どうやらディアナは立ったまま気を失ってしまったらしい。


 そのディアナの様子を憐れんだのか、スカーレットが彼女の代わりとでも言いたげに勇者様へ突きつけられた事実を問いただす。スカーレットは彼女らしくその小柄な体で大袈裟にジェスチャーを混じえていった。



「勇者様、今のピカピカーッて光がエーレの毒を取り除いてくれたっすか?」

「はっはっは、昔から毒は毒を持って制すと申しまして」

「今のは毒なんっすか?」

「うーん、どう言う訳か私が笑うと皆さんが鼻血を出してしまったり気絶させる気がしましてねえ。それで色々と考えたのですが、もしや私の笑顔は毒を含んでいるのでは? 思い至った次第です」



 勇者様は顎に手を添えて考え込む様にそう仰った。

 まるで何処ぞの名探偵の如く自ら思い悩んだ謎を解き明かしていく。その勇者様にスカーレットは目をキラキラと輝かせて「流石は勇者様っす!!」と言葉を返す。



 ですがそれは違います。



 勇者様は確実に思い違いをなさっている。周囲が鼻血を垂らしたり気を失うのは勇者様が魅力的すぎて手当たり次第フェロモンを撒き散らすからです。にも関わらずご本人はその事実に気付いていないご様子。



 やっべー。


 どうやら私も今の勇者様の笑顔に充てられて鼻血を出してしまいました。



 ディアナの気絶もおそらく驚いたからでは無く勇者様の笑顔に充てられたからなのでしょう。私はそんなディアナに同情しつつ、スカーレットと無邪気に笑い合う勇者様に鼻血を拭きながら話しかけていった。


 そもそも勇者様は解毒の手段をお持ちなら、わざわざシンシアに能力の解除を頼む必要がないと思ったからだ。



「栄一……様あ? つかぬことをお伺いしますけど……宜しいでしょうか?」

「はっはっは、アルテミスの美しさと言う毒の解毒方法は分かりませんよ?」



 これは素直に感謝の言葉を述べた方が良いのでしょうか?



「ありがとうございます? では無くて、どうして最初から今の方法で解毒を試されなかったのですか?」

「はっはっは、さっきも言いましたがこの方法は後遺症が確認されていましてねえ。少しばかり躊躇いました。ですのでスマートに彼方の女性に解除して欲しかったのですよ」

「……後遺症ですか?」

「はい、鼻血と気絶です」



 おっふう。


 それは後遺症ではありません。

 勇者様のフェロモンが強烈すぎて周囲の女性がメロメロになっているだけです。しかし勇者様は相変わらずとろける様な笑顔を携えて言葉を紡いでいく。


 うーん、この状態は真剣にシンシアと闘ってくれているオリビアに悪い気がしてきました。



 でも役得だからいっか?



「エーレちゃんもそうですがハーシェルで出会った小人のマドモアゼルたちも毒の媒体にされていた様ですねえ」

「毒の媒体?」

「はい、媒体です。つまり元から彼方の女性の能力に感染したいたのですよ。そして彼女たちは知らずのうちに毒を撒き散らす感染源の役割を与えられていたと言う事でしょうねえ」



 勇者様の衝撃の一言に私は言葉を失ってしまうのだった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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