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Love Hungry Tiger 〜命懸けの水中狙撃戦〜

 目下に広がる水場。


 私たちは全員で周囲を警戒しつつ敵の動きを待った。

 すると時折銃声が鳴っては私たちを狙ってくる。銃弾の威力は勇者様の能力によって出現した葉っぱの前に平伏す。この中にいる限りは安全と言うことが分かって私はホッと胸を撫で下ろした。


 しかし地上と私たちとの距離はおおよそ五百メートル、敵の攻撃手段は言うまでもなく狙撃な訳で。この敵に対して私たち五人の中で敵対心を剥き出しにする者がいた。



 無論、狙撃を得意とするスカーレットである。



 彼女はいつも大切に担いで持ち歩く愛銃用の容器を広げてせっせと戦闘の準備を進めていた。スカーレットはいつもボトルアクション式の狙撃銃では無く、別の銃を取り出した。



 その形状の特異さに私は思わずスカーレットに質問を投げかけてしまう。



「スカーレット、それも狙撃銃なのですか?」

「そっすよー。これはガス式のロングストロークピストン方式、簡単に言えば水中戦用の狙撃銃っす。見た目は突撃銃みたいっすけどね」

「初めて見ました、そんな狙撃銃があるのですね」

「水圧抵抗を減らすために弾丸回転のジャイロ効果を抑えてるんすよ。弾丸も特殊でサイズは5.66ミリっすけど形状はどちらかと言えばダーツに近いっすね」



 スカーレットはスラスラと狙撃銃の説明をしてくれた。


 流石は狙撃の名手と呼ばれるだけの事はある。

 そう素直に感心する私でしたが、ディアナとオリビアはそうでは無いらしい。二人は不安そうに表情を曇らせていく。ディアナたちはスカーレットがこの狙撃銃の準備を進める事の意味をしっかりと把握出来ていたのだ。



 そして敵の正体も薄々と勘付いていた様で二人はスカーレットに話しかけていく。



「スカーレット、敵はマーレだぜ? いけんのか?」

「多分いけるっす、て言うかウチしかいけないっす」

「確かその狙撃銃は射程が……」

「オリビアの言う事は良く分かってるっすよー。でもウチの視力があればなんとかなると思うっす。ドンと任せるっす、大船に乗ったつもりで待ってるっすよ。勇者様ー、出来たら葉っぱの盾が欲しいっすう」



 スカーレットが服を引っ張って強請ると勇者様は二つ返事で応じる。この二人のやり取りは側から見ると本当に祖父と孫の関係に見えてしまう。


 まあ今の勇者様はお若い姿だから兄弟と言っても通じる気はしますけど。



「はっはっは、今回は水中と言うことで私はアルテミスの守りを固めておきましょう。心苦しいところですがスカーレットちゃんにお任せします。盾は四枚で足りますか?」

「助かるっすー、おいっちにさんし。水に飛び込む時は準備運動が大事っす、ごーろくしっちはち」



 ストレッチを終えたスカーレットはポンポンと衣服を脱いでいく。


 まるで子供、と言うよりも彼女は幼い顔立ち故にそう言った仕草が本当に可愛らしく感じてしまう。それでも彼女は実年齢が二十代後半な訳で。私はスカーレットが脱ぎ捨てた衣服を拾っては折り畳んでいく。


 なんと表現すべきか。


 勇者様から受け取って盾をまるでビート板を扱うかの如く脇に抱えて、両目にはスナイパーゴーグルをスカーレットは装着した。



 うーん、どう考えても夏休みにプールに遊びに行く子供にしか見えません。


 そして私はそんな子供の世話に追われるお母さんと言ったところか。



 私は一抹の不安を感じてスカーレットに声を掛けた。

 すると彼女は太陽の様に眩い笑顔を撒き散らして水の中へと飛び込んで行ってしまった。私は未だにスカーレットが魔王軍のと幹部だとは思えないのです。狙撃手と言うことで目の前で闘う姿を見た事がない故の違和感を払拭出来ずにいるのだ。



「スカーレット、本当に大丈夫なのですか?」

「アルテミスは心配性っすねー。大丈夫っす、ウチはキリンとホワイトタイガーの獣人だから視力と泳ぎには自信があるっすから」

「そう言う話では無いのですが……」

「大丈夫っすよー、それから服を畳んでくれてありがとうございます。……じゃあ、そろそろ行くっすよー、ローリングハッパー!!」



 スカーレットは謎の掛け声を残していった。



 まるで飛び込み選手の如く華麗に回転しながら落下して、ドボン!! と音を立てて水中へと姿を消した。私に対して愛くるしく頭を下げて「ありがとう」とお礼を口にしてくれたスカーレット。


 やはり彼女には闘いと言う行為そのものが似合わない気がする。


 唯一、盾と一緒に抱えていた水中用狙撃銃がリアルに闘いを連想させるが、それでも銃器そのものが天真爛漫な彼女の印象には似合わない。私はもはや姿を確認出来ないスカーレットが無事に帰ってくる事を祈るほか、することが無くなってしまったのだ。


 ハラハラと胸に両手を当てて私は不安を声にして漏らしてしまう。



「敵は人魚マーメイド……でしょうか」

「流石に当たりはついたかよ」

「今回の強襲は幹部の第四席、人魚のエーレ・プラトニック。ただ水中戦のプロと言うだけでなく自らの手でバトルフィールドを準備出来る厄介な相手です」

「はっはっは、真の恐ろしいのはこうも連続で強襲を受けたこと。彼方にはこっちの動きが筒抜けの様です」



 状況を総評した勇者様の言葉は事態の深刻さを示すものだった。


 それでもやはりと言うべきか今はスカーレットの無事な帰還を祈ることしか私には出来ない。またしても私は己の無力さを痛感させられるのだった。勇者様がそんな私の考えを先回りしたのか、私の肩に優しく手を置いてくれた。



「はっはっは、今はスカーレットちゃんを信じるしかありません。私も援護の手段を検討しますから」

「はい、ありがとうございます」



 しかしそれでも底の見えない水場を見ていると不安は募っていくのだ。


 スカーレットが飛び込んだ時に跳ねた飛沫は徐々に鎮まっていく。



…………




(うーん、やっぱり視界は最悪っすね)



 スカーレットは水中に飛び込んでキョロキョロと周囲を見渡してみた。


 水中はとにかく視界が悪い。

 それ故に水中戦の狙撃は通常は三十メートルが限界であり、それだけの距離が有れば狙撃は成立すると言うものだ。無論、敵にとってもそれは同じ条件となる。


 つまり水中での戦闘は如何に敵の居る方向を素早く悟るかが肝となる。


 それでも相手は人魚な訳で、水中での身のこなしは相手が上。それはホワイトタイガーの血を引くスカーレットでも追い付けない領域の話。元々タイガーは水中で獲物を狩るが、それでも最低限の潜水しかしない。



 いや、出来ないのだ。



 厳密には水を好んでいるわけでは無い、と言うべきでしょうか。しかしスカーレットはキリンとしての視力の良さと、獣人としてスカーレットに備わった五感の鋭さでそれらを補填する事が出来る。



 彼女はゴポゴポとバタ足で水中を進みながら周囲を探っていく。



(……やっぱり水中は嫌いっす。出来ればこんな事やりたくなかったっすよーーー、でも……)



 獣人は本能に従いがち。

 他種族と比較して圧倒的な身体の威力を誇りながら、そう言った我慢を苦手とする彼らの代表的な種族性がそれである。訓練とは本来は精神的かつ肉体的に負荷をかけるもの、獣人は我慢が苦手だからそう言った負荷を嫌う。



 だから得意分野のみを伸ばしていく。



 ですがスカーレットにはそれを差し引いてでも達成したいと願うモノがある。



(絶対にミロフラウスともう一度会うっす。勇者様たちと一緒のいたいっす、……世話好きでお人好しなアルテミスを絶対に守ってみせるっすよ。そして無事に戻って頭を撫でて貰うっす)



 スカーレットは誰よりも愛情に飢えている。

 彼女の系統、ホワイトタイガーとは本来はベンガルトラの白変種、つまり遺伝情報の欠損によって生まれるアルビノである。そう言った自然の中ではイレギュラーな遺伝を受け継いだ彼女は種族内でも浮いた存在だったのです。


 彼女は生まれた瞬間に迫害を受ける運命を背負ってしまった。


 私には到底想像出来ない過酷な運命をスカーレットは背負ってしまったのです。


 誰にも愛されず、見向きもして貰えない。

 そう言った環境が彼女の心を孤独で蝕んでいった。そんな時、彼女の前に現れたのがミロフラウスだと言う。それ以降、彼女はミロフラウスに心酔する事のなる。彼と一緒にいればディアナにオリビアと言った気の許せる仲間を得る事ができた。



 彼の命令に従って勇者様や私と出会う事が出来た。



 彼女にとって出会いこそが本能、仲間全てが何よりも優先すべきことなのです。彼女は今、仲間を失いたく無いと言う本能が水中と言う負荷に優っているのだ。



 スカーレットはそう言った想いを胸に抱きながら水中を進んでいく。



(……前方二百メートル先に大きな気配がする。エーレ、見つけたっすよ)



 敵の気配を語感だけで察知したスカーレットはその場から更に深く深く水中の底を目指して潜水していくのだった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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