Meaning of Guilt 〜貴方さえいれば私に恐れるものはない〜
「我が主人だあ!!」
攻撃体勢に入った敵を目の前にすれば大抵は身構えるか距離を取るか、とにかく身の危険の回避を第一優先にする場面の筈だ。だがジダンダはそう言った思考回路がまともに働かないらしく、俺に抱きつくために追いかけてきた。
子供らしく満面の笑みで俺をギュッと抱きしめていくる。
顔立ちが変わり美しさが前面に押し出されても、やはり子供だと思う。「えへへー」と声を漏らして抱きつく様子に俺は何度目かの罪悪感を感じていた。
だが今回だけは流石に決着を付けねばとノータイムでショットガンのトリガーを引いた。ゼロ距離射撃で散弾がジダンダの腹部に命中する。銃口を腹部に押し当てて爆音が鳴り響く、いかに実弾の威力が通じなくとも流石にゼロ距離ともなれば怯む程度には効果があるだろうと思っていた。
そして思惑通りにジダンダは表情を苦痛で歪めて俺から手を離して落下していく、俺は上から彼女の姿を見下ろして眉を潜めながら心に苦痛を感じていた。
更に追撃をすべくショットガンをロケットランチャーに変えて、これをトドメの一撃としてジダンダとの戦いに決着を付ける腹づもりだったのだ。照準を合わせるべく照準器を覗き込むと、そこにはこのピンチの最中にも関わらずジダンダがクッキーを頬張っている姿が映っていた。
まるで壊れたようにお菓子を頬張るその姿は滑稽にしか思えず、俺は引き金を引く指が一瞬だけ躊躇ってしまった。それでもやはりと、俺はブンブンと顔を振って己に気合を入れ直して再び照準器を覗き込んだ。
俺はこの一瞬の躊躇いがこの戦いの最大の分岐点になろうとは知りもせずにロケットランチャーを発射させた。周囲に張り巡らせた糸に効力を反発から切断に変更している、ロケットランチャーの爆発でジダンダを後方に吹っ飛ばせば彼女をゆで卵のようにオーラ糸でバラバラに出来る。
残酷な事をしてごめんと、俺は目を瞑って爆発を待った。
だが待てども待てども爆音は鳴り響かない、俺はどう言う事かと疑問に思って目を開けるとそこにはロケット弾を鷲掴みにしているジダンダの姿があったのだ。ギリギリと歯を食いしばって両手で俺のロケット弾に抵抗する彼女の姿は異常だった。
よく見れば彼女の容姿に僅かに変化が見られた、眼球は黒く瞳は赤みを帯びている。何よりも全身から無数の血管が浮かび上がっているのだ。突如の変貌に俺は驚愕するも、その変化に一つだけ心当たりが思い浮かび瞬時に冷静さを取り戻した。
そしてその心当たりを言葉に漏らすとジダンダ自身が間髪入れずに肯定をしてくれた。
「クッキーか」
「美味しいものには毒があるんです!! でもでもー、ご心配は無用です、時間が経てば元に戻りますから!!」
「……そう言う問題かよ」
そこからは早かった。
俺はロケットランチャーをリロードして間髪入れずにトリガーをー引いた。するとジダンダが掴みかかっているロケット弾にヒットして二つ分の爆発がジダンダを包み込んでいく。俺は舞い上がる爆風を手で払い除けながらジッと爆発の中心部を観察した。
どうやらジダンダはダメージを追ってくれたらしく真っ逆さまに落下を始めたのだ。このまま落下すればジダンダの全身を細切れに切断出来る。そうすれば俺の勝ちは確定だ、俺はグッと拳を握りしめて戦いの終焉を心待ちにしていた。
子供をこの手で殺す事に悔いは無くとも、やはり後ろめたさは払拭出来ないもので俺は目を逸らしそうになる。だが先ほど目を逸らした事でジダンダの後遺症に気付けなかったと学んだばかりなのだから、俺は落下の瞬間を見守ろうとした。
そう、見守ろうとしたのだ。
そう決意して俺がジダンダを観察していると下から大きく跳躍してくる人物がいた。
跳躍したのはシオンだった。
俺はどうして彼女が今更になって戦闘に介入してくるのかと「え?」と間抜けな声を漏らして驚いた。すると彼女はニヤリと「バカね」とでも言いたげに俺に笑いかけながらその答えを叫んでいた。
「アンタが殺す事ないじゃん。今回は私が殺すわ!!」
そう言ってシオンは俺のオーラ糸を外側から切り刻んで落下するジダンダに一直線に向かっていく。シオンは一体何を言っているのかと俺は理解する事が出来ず俺も彼女に叫んでいた。
「シオンがやる意味こそ見当たんないだろ!!」
「ミロフラウスが苦しそうな顔してるからじゃん。普段はスケベなくせに……そんなギャップがアンタの良いところなんだけどね」
「そんな事はどうでも良いから止めろおおおおおおお!!」
俺は吐き出せるだけの大声でシオンを制止しようとしたが、それでも彼女は手を止めずに鞘から刀を抜いて斬撃を放ってしまった。そしてそれらがジダンダを細切れに切り刻んでしまった。
バラバラにされながらもジダンダは視線を俺に向けており、欲しいものを親に強請る子供にように必死に手をの伸ばして俺に一言だけ残してドサドサと音を立てて落下した。俺は空中でただ雄叫びを上げて己のやり切れなさを発散させるのだった。
「次も……遊んでね?」
「うおおおおおおおおおおおお!! 次なんてあるのかよおおおお!!」
シオンは刀にこびり付いた血を振り払ってからキンと音を鳴らして納刀した。彼女の顔に最後の間際にジダンダが残した涙が当たる。シオンはそれを親指で拭ってそのまま俺に拳を突き上げていた。
なんだよ、その笑顔は。
どうしてジダンダを殺したシオンが笑顔で、殺さなかった俺の方が泣いてるんだよ。これじゃあまるで俺がピエロじゃないか、俺はスキルを全て解除して地面に綺麗に着地した。
顔を上げられず俯きながら俺は小さく呟くようにシオンに話しかけた。
頭を抱えながらブツブツとまるで文句を言うかのようなその態度は側から見れば非常に宜しくない。俺はしっかりとジダンダを殺す覚悟を決めた筈なのに、それがまさか守ると誓った幼馴染に逆に守られてしまうとは本当にピエロだよ。
「……どうして斬ったの?」
「言ったじゃん、アンタが苦しそうにしてるからって」
「何だよ、それ」
俺に歩み寄ってくるシオンの気配に気付く、それと同時に足音も聞こえる。そして彼女の足音が消えた途端に俺は頭が真っ白になってしまった。発する言葉も思い浮かばず、シオンにどうやって顔向けするかも分からない。そうやって申し訳なさから佇む俺の背中をシオンはいつもの笑顔を向けてバンバンと勢い良く叩いてくる。
シオンがあまりにも強く叩くものだから俺は思わず咳き込んでしまい、「何すんだよ」と文句を言ったが彼女は俺の文句など無視して笑い飛ばしてくるのだ。
気が付けば俺は「はあ」とため息を吐いて己とシオンに降りかかる危機が払拭された事を実感した。時刻はすっかりと夕暮れで俺は「ニシシ」と満面の笑みを浮かべる幼馴染と隣り合って夕陽を眺めていた。
「シオンには苦労をかけるよ」
するとシオンは両手を広げてキラキラした目で目の前に広がる光景を噛み締めていた。クルリと振り返って俺のお礼などどうでも良いと言わんばかりにその感想を叫んでいた。
「世界って広いんだね!! 見るもの全てが新鮮で感動のしっ放しよ!!」
「殺し合いの後に口にする言葉じゃ言葉じゃないじゃん」
「終わったから良いじゃない。私は満足してるんだから気にしたらダメ」
俺はなし崩し的に納得することしか出来ず、ガシガシと頭を掻いた。シオンの笑顔は夕陽と比較にならない程に眩しさを感じた。その笑顔に後ろめたさを感じつつおれは再び深くため息を吐く。
この幼馴染が隣にいる限り俺はずっと俺でいられる、そう直感しながらも俺は更に強くあろうと心の中で誓う。
俺とシオンは竜人の襲撃に一段落して互いに笑顔を零すのだった。
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