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Crazy Fusion 〜1+2=ゼロ〜

 父を殺した事と見ず知らずの少女を背後から襲う事のどちらがマシか? それを問われたら俺は絶対に答えを出せない自信がある。


 今日と言う日ほど俺は心を怒りに支配された事は無い。そしてテュラムと言う男に更に憎悪を深めてしまった。目を閉じるとあのクソ野郎がほくそ笑む顔が思い浮かぶ。



 お前は、お前だけは絶対に許さない。



 俺にこんな少女に手をかけさせるなど、全身にふざけるなと叫ぶ俺の心の声が響き渡っていくのだ。そしてジダンダの視線が重なると俺はどう育ったたら、どうやって教育したらこんな歪んだ精神を持った子供に成り果てるのかと怒りが込み上げる。


 俺は銃を振り下ろしながらジダンダに謝罪の言葉を口にした。



「遊んでやれなくてごめん」



 そして俺は目を閉じて銃を振り抜いた、ブンと素振りの音が聞こえる。俺は少女を殴りつけた鈍い音が聞こえるとばかり思っていた。だが、その予想に反して俺の手には感触は無く、何も感じなかったのだ。


 ふとどう言う事かと疑問に思って俺は閉じた目を恐る恐る開けていく。まるでテストの答案を返却された時のように結果の確認のために少しずつ目を開けた。そして目の前にジダンダの姿が確認されず俺は一気に目を見開いて周囲を確認した。


 なんて事はない、ジダンダはバランスを崩していたのだ。それも失った足の切断面から大量に出血した事で立ちくらみをしたようだ。ジダンダは「あれれ?」と言いながら己の体の異変に気付いてシダンダは額に手を当てる。


 己の攻撃が空振りしたと言うのに俺は不覚にもホッと胸を撫で下ろしてしまっていた。



「テュラム、テュラム……、テュラム!! テュラムテュラムテュラム!!」



 この少女の後ろに見え隠れする元凶の名を連呼して俺は怒りで表情を歪めていた。それこそこの場にオリビアやシオンがいたら絶対に顔を逸らしていたであろうほどの怒りを含ませた顔は鏡で確認しなくても手に取るように分かる。


 次の瞬間、ジダンダが力無く呟いた言葉に俺は大粒の涙を零して振り下ろした銃を再び振り上げた。その手にジワリと残る汗など気にする事なく俺は銃口を力一杯握りしめて振り上げたのだ。



「あ、あれれ? 私、もう遊べないの?」

「……ごめんね、友達は天国で作ってくれ」



 俺は嘘を吐いた、俺のやろうとしている事は天国にすら行かせてあげられないのだから。振り抜いた俺の銃がジダンダの頭を殴打する、ガンと鈍い音が響くが拳で直に殴らないだけまだマシだと感じるが、やはり子供を殴る罪悪感は最悪だ。


 心臓を抉られような気分になって俺は思わず胸を鷲掴みにしそうになった、だがそう言った己の咄嗟の反応の全てに待ったをかけて俺はジダンダの様子を伺った。己が手をかけた少女がどうなったか、俺自身の問題としてそれを知る責任がある。


 個人的な戦いや戦争なんて関係ない、やはり子供に手をかける事は想像上に後味が悪い。ジダンダは表情を苦痛で歪めながら動きをピタリと止めた、肩に手を添えて俺を見上げる様に覗き込む。


 止めろ、そんな目で俺を見るな。


 俺は一瞬だけ視線をジダンダから逸らした、俺の罪悪感、それが原因の全てだ。だがそう言った一瞬の過ちは俺に更なる後悔を突きつけてくる。ジダンダがその隙に目の前から姿を消したのだ。


 俺は周囲を見渡してジダンダを追った。だがなんて事はない、彼女は逃げたのでは無く出血で思うように身動きが取れなくなったらしく、その場にへたりこんでいたのだ。ペタリとそれこそ彼女の最初の印象、人形のようにペタリと血を流しながらただ地べたに座り込む。


 そんな様子だった。


 「ふう」とため息を吐く。このため息は安心、嫌悪そして決意など様々な感情がブレンドされた結果のもので、その張本人である俺自身にも良く分からないものだった。だがそれを知る必要もないと俺は両手を突き出してジダンダにスキルを使用した。


 母から受け継いだ『封印』のスキルでジダンダとの決着を付ける。確かにこの方法ならば俺も罪悪感は軽減される。俺は母に感謝をしつつジダンダに別れを告げてスキルを発動した。


 ジダンダはただ純粋な目で俺を覗き込んで、俺の送った言葉とは無関係の言葉を返してきた。



「今は静かにおやすみ」

「『私たち』は二人で一つ、……ウノ、一緒に遊ぼうよ!!」



 両足を失い全身に力が入らない、そして今まさに封印されようとしているにも関わらずジダンダは満面の笑みを浮かべて大声を上げて『誰か』に話しかけている。そんな予想だにしない状況だが俺は今更何があろうと変わらない。


 俺は確信を持ってスキルの発動を進めた。だが、やはりイレギュラーはいつの時も起こり得るもので、俺はそれに気付いてふと視線を右に移す。その先で淡い光が漏れ出してたかと思えば、そこに今まで無かった筈の人の姿があったのだ。


 と言うかシオン? 先ほど俺が送った思念に反応しなかったシオンが姿を現したのだ。そして彼女の変化に気付き俺はシオンを怪訝な顔でジッと見た。



「コスプレしたシオンが子供をイジメてる?」

「違わい!!」



 シオンも俺の姿に気付いたようで声に反応して俺へ即座にツッコミを入れてきた。だけど俺のこの反応は仕方がないんじゃないか? 何しろシオンは背中に蝶のような羽を生やしながら小さな子供にマウントを取って一方的に殴りつけているのだから。


 俺は幼馴染の暴挙に「はあ」と頭を抱えてそれに至った状況を確認した。



「その姿はどうしちゃったの?」

「後で説明するわよ!! アンタ、それよりもそのガキはどう言う事!?」

「ガキってジダンダの事?」



 シオンからしたら俺も子供をイジメているように見えるのだろう。そう思って俺もまたシオンと同様に「後で説明する」と言葉を返したが、どうやら質問の意図が違ったようで彼女は自身がマウントを取っている子供を指差しながら俺の誤解を解こうとするのだ。


 俺はこれは何かあるな、と理解して彼女の言葉を受け止めた。



「このガキもジダンダって言うの!? このガキと瓜二つじゃん!!」



 シオンがマウントを緩めると子供の顔が露わになる。その顔を確認して俺は空いた口を己の意思で閉じれないほどに驚いてしまった。空いた口が塞がらないと言う表現はこんな状況なのだろうか? と俺は僅かな時間だけ考え込んで、そしてこれから起こる更なるイレギュラーに対して俺とシオンは瞬時に動く。


 互いに敵から距離を取って隣り合う位置に跳躍したのだ。


 着地を果たすと俺はジダンダをジッと観察した。俺に封印される寸前だったジダンダが光を放っていた。そして同様にシオンがマウントを取っていた方にジダンダも同様に光を放っている。二人は手を伸ばして互いに手を求め合っている。


 そして俺とシオンを無視して会話を始めた。



「ウノ!!」

「デューエ!!」



 二人はどちらからともなく惹かれ合うように姿を重ねていく。そして更なる眩い光を帯びて重なり合っていく。俺は強引にこのイレギュラーの答えを出そうと言葉を吐き出した。



「融合?」



 その答えに採点をしてきたのは誰でもなくシダンダたちだった。



「私はルルパスパー・ジダンダ・ウノ!! テュラム様の手のよって生み出された人造竜人の一号!!」

「同じくドゥーエ!! 竜人社会の産業革命が生んだゼロから命を生み出す遺伝を持たぬ生命、存在そのものが神に対する挑戦!!」



 父が珍しく怒りを露にしていた。


 相変わらずオナラで歯軋りするほどの怒りを伝えてくるが、それでも普段とは違い父は殺気を放っている。こんな父は見た事がないと母までもが慌て出すのだ。


 とは言え俺も同じ感情を抱いており、父を諌める気などない。俺は己でも分かるほどに心の中に怒りが迸った。


 これまでに俺の感情は幾重にも色が塗りたぐられた抽象画の様に複雑さを極めて来た。俺はそれではまだ足りないと言わんばかりに怒りの色を上書きしていく。テュラムは父の命も軽んじた奴だったから今更かも知れないが、それでもこんな年端もいかない子供までも弄ぶのかと表現のしようもないほどに激情に駆られていた。


 隣り合うシオンも同じだったらしく彼女の方からギリギリと歯が割れてしまうのでは? と心配してしまう程の歯軋り音が聞こえる。


 分かる、その気持ちは良く分かる。


 だからこそ俺たちはどちらからとも無く手を握り合った。

 そしてどうすれば良いかも分からない状態を前にして俺たちはただジダンダたちの融合を待つ。それ以外にやる事が思いつかないのだ、仮に俺がジダンダに飛び込んで何かが変わるのならそうもしよう。


 ただ呆然と立ち尽くすしかない、それほどに目の前に広がる光景は手の付けようがないのだ。俺たちの目の前は眩い光が解き放たれていた。


 次第に光が消えていく。

 俺とシオンはグッと腰を落としていつでも飛び出せる体勢を取った。握り合った手をソッと離してジダンダの方を睨み付ける。すると二人だったジダンダが先ほどまでとは僅かに違った雰囲気を醸し出して立っていた。


 相変わらず歪んだ笑みを浮かべながら俺に向かって声をかけてくるのだ。



「これでまた遊べますね?」



 俺は握りしめていた銃を人差し指でクルッと回してグリップを握り直した。今のジダンダには気絶や封印などでは生ぬるいと感じて気を引き締め直したのだ。これは決着は互いの命の取り合いでしかあり得ないと、そう直感して俺はジダンダを殺すと決意した心の現れだ。


 ごめんと心の中で謝ると両親が俺に声をかけてくる。父は「悔いるでないぞ?」と俺に念を押してくるが、それは違う。俺は悔いを残さないためにこの子を殺すと決めたのだ。


 ここで放置すればジダンダは不幸を撒き散らすだけの存在となる、そう確信して俺は彼女の願望を否定しながら銃口を突き付けた。



「遊びじゃないんだよ、これは殺し合いだ」



 俺とジダンダの第二ラウンドが開始する事となったのだ。

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執筆の糧になりますので、どうぞよろしくお願いします。

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