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Encounter Brought in by Fate 〜戦場の花嫁が残したもの〜

 血塗れの少女が倒れている。


 側から聞けばとても人聞きのいい言葉ではないでしょう。しかしメティスは確実に勇者様に落とされてしいました。と言うのも勇者様は気を失ったメティスへトドメだと言わんばかりにご自身の能力で無数のバラをプレゼントしたからだ。



 アレも強烈でした。



 メティスは勇者様のフェロモンで心を取り戻せた訳ですが、その結果が現状に繋がる訳で。完全に気絶した彼女は勇者様の膝の上で吐息を立てている。


 私は欲深くもそんなメティスを羨ましいと思ってしまう。



「……勇者様の膝枕、はあ」

「アルテミス、テメエは添い寝して貰ったんだろ? んだよ今更、その気の抜けた態度は」

「くっそ羨ましいです」

「ウチはまた頭を撫でて欲しいっす」



 スカーレットが揃って私たち四人はその光景を目に焼き付ける様に凝視していた。イケメンと化した勇者様は吐息を立てるメティスを愛でる様な視線を向ける。


 その光景が何と絵になる事か。


 勇者様の振る舞いはまるで神話の世界の様だった。


 現実離れした光景が目の前に広がって私は少しの間、時間の経過そのものを忘れてしまっていた。しかし、それでも時間とは確実に前進するもので、メティスが目を覚ます事で私たちはそれを実感する事となった。



 私たち四人はそれに気付くと小走りで勇者様の元へ走り出す。


 寝ぼけ眼のメティスは目を擦りながら、己の現状を確認する作業を開始しました。



「う、う……ん。私は負けちゃったの? ……あれ? 鼻血が出てる?」



 どうやらメティスは混乱しているらしい。

 彼女は気を失った経緯を覚えていないのか、鼻を擦ったその手にこびり付いた血を不思議そうにマジマジと観察している。メティスは彼女自身の心を機械に改造したディアナは言った。


 しかし今の私の目に映るメティスは年相応の可愛らしさを感じさせる。


 ドワーフ故の年頃の娘らしからぬ筋肉質な肉体以外は何処にでもいそうな年頃の女の子で、その仕草が微笑ましかった。


 私はその様子にホッと胸を撫で下ろして、体を屈めて目線を彼女と同じ高さにした。するとメティスは私に気付いてオズオズと申し訳なさそうな仕草を見せる。



 そんな彼女の態度に私は思わず笑みをこぼしてしまい、ゆっくりと話しかけてみた。



「メティスですね。私はジュピトリスの女王、アルテミス・メサイアと言います。貴女にどうしても聞きたい事があるのです」

「……ジャンヌさんの事?」

「そうです。ジャンヌは私の側近、同時に私の心の支えでもありました。彼女の能力を持つ貴女ならその最期もご存じかと思いまして。私は彼女の最期をどうして知りたいのです」

「私もあの人から貴女の事を聞きました。あの人から貴女以外に錫杖の事を教えて貰って……どうしても会ってみたいと思ったんです。だってジャンヌさんたら死ぬ寸前なのに嬉しそうに貴女の事を自慢するんですよ? そう思わない方がおかしいでしょ?」



 メティスはまだ意識が朦朧としているのか後ろでニコニコと微笑みかける勇者様の存在に気付かない様子で淡々と語り出した。私の質問に対する答えや彼女がジャンヌの能力を使えるか理由など多くを語ってくれた。



 これは敢えて勇者様の存在は教え無い方がいいでしょう。



 何しろそれを教えたらメティスはまたフェロモンに充てられて気絶してしまいそうだから。また鼻血を噴射でもされた日には彼女は大量出血が原因で本当に死んでしまうと思うです。




 やはり勇者様は恐ろしい。




 そんな風に敢えて情報を伏せる私にメティスは何処か嬉しそうな表情を覗かせてきた。ならば私も彼女の笑顔に応えて優しく微笑み返す事にしよう。そう心に決めて私はメティスの話に耳を傾けていった。



 メティスは同族を殺した罪に苛まれて自らの心も機械に改造したそうだ。しかしそれでも完全に罪の意識は消えず、ただ誰とも関わらず、会話せず。一人無気力に淡々と生きることとなった。


 そんなある日、彼女の前に魔王を名乗る者が現れて彼女に交換条件持ちかけたそうだ。その交換条件こそ、メティスに願いを叶える代わりに魔王軍のために働くと言うもので、魔王は彼女の天才的な頭脳を求めたと言う。


 無気力ながらもメティスは心の奥底で同族をどうにかして元のドワーフに戻したいと考えていた。一人きりと言うのはやはり少女には辛かったらしく、例え復活後に同族に殺されようとも構わない、彼女はそう決意した。



 それ故に、更なる技術を求めてメティスが魔王に突きつけた条件こそ研究施設を準備する事だったそうだ。


 しかしそんな純粋な少女が邪悪が蔓延る魔王軍の中で上手くやっていける筈も無く、ディアナやオリビア等とは剃りが合わず、それでも彼女には絶対的な目的がある。



 だからメティスは一人黙々と研究を続けていった。



 人を殺す武器を魔王に献上する傍らで彼女はそれこそ命を削る想いでドワーフたちの復活を望んで技術を積み上げていったそうだ。



 そんな折、一人の人間が魔王城へ赴いた。

 

 その人間は魔王に一騎討ちを挑んできたのだ。


 それが当時、ジュピトリスで騎士団長を務めるジャンヌ・ド・ワーフだった。

 彼女は何とか魔王に一矢報いるも、瀕死の重傷を負ってしまい撤退を余儀なくされた。一騎討ちを挑みながら、まだ死ねないと言ってジャンヌは必死に魔王城からの脱出を図ったと言う。



 そこでメティスはジャンヌと運命の出会いを果たす。

 ジャンヌの必死な様子に機械の心ながらも何かを感じ取ったメティスは彼女に事情を聞いて、ジャンヌからメティス自身と同じ覚悟を感じたと言う。


 大切な人のため、まだ死ぬわけにはいかないと言って見苦しくも生きながらえようとするジャンヌにメティスは次第に心惹かれていった。気が付けばメティスはジャンヌを彼女の施設に匿っていたと言うのだ。


 だが、運命とは残酷なもので元々重症だったジャンヌはメティスとの出会いから僅か一週間で絶命したと言う。



 メティスはまたしても大切な人を失い、心に決定的な傷を負う事となった。


 そしてジャンヌは死の淵でメティスに願いを請うたのだ。



 それがジャンヌのペイントスキルを解析すると言うもので、ジャンヌはそれを私に託したいと遺言を残して息を引き取ったのだそうだ。メティスはジャンヌと出会った時点で人間のペイントスキルをアイテム化する技術の開発に成功しており、試作段階まで漕ぎ着けていたらしい。


 その時はまだ試作段階だった事もあり、魔王はこの事を知らないそうだ。


 因みにメティスはこの時、ジャンヌから私の事を聞いて興味を持ったと吐露した。


 しかし運命はやはり残酷でジャンヌを失ったメティスは更に心を閉ざすこととなる。そこから彼女は更に無気力になって一人で研究施設に引きこもってしまった。



 そんな時である。



 メティスの耳にディアナとオリビアが立て続けに離反したと言う知らせが入ってきたのだ。それも二人が走った先はジュピトリス、つまり私が女王を務める国。


 彼女は気が付いた時には魔王城を出て彷徨い続けて、こうして今はハーシェルの街に辿り着いたのだそうだ。



 メティスは全てを話し切ると疲労し切った体にムチを入れる様に衣服からゴソゴソと何かを取り出して私に差し出してきた。彼女の表情からその疲労具合がよく伝わってくると言うものだ。


 私はメティスの懸命な姿に必死さを感じ取って黙って差し出されたものを受け取った。


 メティスが差し出してきたものは中身の入った数本の試験官でした。



「これは?」

「私の研究成果……です。ジャンヌさんのペイントスキルに……妖精フェアリーから解析した飛翔スキルを液体化したもの。……やっぱりあの人のスキルは貴女の手に有るべき……」

「ありがとう、ジャンヌが帰って来てくれたようでとても嬉しいです。ですがこちらの飛翔スキルもそうですが、貴女は本当にそれでいいのですか? 貴女には貴女自身の悲願がある筈、これらは悲願達成の礎でしょうに」

「もういいの。他人を巻き込んでまで達成した悲願なんてロクなものじゃない、私は既にそれを仲間たちの犠牲で学んだ筈なのに……今更って感じよね?」



 メティスは自嘲気味にそう吐き捨てた。

 そして既に力が残っていないのか伸ばした腕をプルプルと小刻みに腕を震わせる。自らの悲願達成を望んで積み重ねたものを私に受け取れと言うのだ、メティスの手には試験管が五本。真紅の液体が入った一本に青色の液体が入った四本。


 これを受け取ってくれるまで腕は引っ込めない、メティスはそう言いたげにジッと私の目を見据えているのだから私も断る訳にはいかず。まるで遺体代わりだと言わんばかりに彼女は申し訳なさそうな表情を浮かばせていた。



 ジャンヌの死は貴女のせいでは無いでしょうに。



 そう呆れつつもメティスに頑固は一面を垣間見て私の顔は少しだけ緩んでしまった。



「ジャンヌの死は元々命令を下した私の責任です、貴女が責任を感じる事ではありませんよ?」

「貴女は最後まで一騎討ちを許さなかったんでしょ? ジャンヌさんが少しだけ後悔してました、貴女の言う通りにしておけば良かったって」

「……綺麗な色、まるでジャンヌの生写しですね。彼女の真紅の髪を思い出させてくれます。メティスに感謝を」



 試験管を受け取って空に翳してみた。

 真っ赤な液体を介して太陽の陽が透かして見える。その様は生前ジャンヌの如く太陽の様に生命力に溢れていた。直に手にしてそれを実感することが出来ました。


 やはり私はメティスには感謝せねばなりません。


 そう考えると私は自然とメティスに微笑みかけていた。メティスもまた少女らしく愛くるしい笑顔を私に向けてくれる。彼女との出会いは亡きジャンヌが引き寄せてくれたものだから私には宝物の様に感じることが出来た。



 少女が小さな手を改めて私に差し伸べてくる、そんなありふれたやり取りに私もまたスッとその手を受け取ろうとした。




 その時でした。




 何処からかピカッと光が発したかと思えば、それが光の線となって私の眼の前でメティス胸を貫いてしまったのだ。


 全員の時間が停止した。



「がっ……!! はっああ、げほっ!! な、なんで?」

「メティス!?」



 胸を貫かれたメティスは吐血しながら糸が切れた人形の如く倒れ込んでいくのだった。

 下の評価やブクマなどして頂ければ執筆の糧になりますので、


お気に召せばよろしくお願いします。

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