勇者のイケメン力
「……これは」
「ハウザー、どうですか?」
「陛下、おそらく勇者様は寿命が残り一日だけだったのだと思います」
「それはどう言うことですか?」
ハウザーが若返った勇者様の診断を始めた。脈を取って、心拍数を計って。側から見れれば技術開発者ではなく医者に見えると思う。
そして勇者様はニコニコと笑顔を浮かばせてハウザーの診断を受けている。
そんな中でハウザーの出した診断結果は驚くべきものだった。
「寿命が一周しています」
「ハウザー、どう言うことか詳しく」
ハウザーは私の方を向いてコクリと頷く。
そして彼は目の前で起こった出来事が信じられないと言わんばかりに目を大きく見開いて説明を始めた。
「つまり寿命がリセットされたと言うことです」
「……言っている意味が分かりません」
「寿命を全うして勇者様は生まれ変わったのです。天寿を全うして余剰となった薬の効果がそのまま働いてゼロ歳にリセット。その後一周して一気に二十歳前後まで時間軸を動かしたのです」
ハウザーの説明は技術の素人である私にはとても理解出来ないものだった。
私は困り果ててしまった。終始ニコニコと笑顔を浮かべる勇者様をそのままにハウザーの説明を自分なりに噛み砕いてみた。
「つまり……結果的に勇者様は二十歳まで若返った……と考えていいのですか?」
「おっしゃる通りにございます」
トクンと私の心臓の高鳴りを感じた。
汗を掻いて勇者様の変貌に驚きを隠せないハウザーと異なり、私は更なるトキメキを感じた。何しろ勇者様が見た目だけならば私と近しくなって下さったのですから。
そして実年齢も若返って、私は勇者様とのお別れが遠のいたと歓喜した。
本音を言えば私はロマンスグレーな風貌の何処までもお優しい勇者様に年甲斐もなく胸をドキドキとさせていたのです。そして同時に年を取らない私と、見るからにそう遠くない未来に寿命が尽きる勇者様。
出会って早々に私はそう遠くないお別れを決意していたのだ。
「この五代栄一、この命の全て尽きるまでアルテミスさんに捧げます」
「嗚呼……」
「陛下!? 如何されました!?」
勇者様が初めて私のことをアルテミスと……、名前でお呼び下さいました。私は嬉しさのあまり立ちくらみをしてしまいました。
「愛するアルテミスさんの瞳が見たい」
「あ、あの? 顔の距離が近い気がするのですが……」
「体は若返っても老眼は治らなかった様です。だったら近付かないと貴方の瞳の美しさが分からないじゃないですか」
おっふう、イケメン力が凄すぎる。
勇者様は七十歳の外見でもカッコよかったけど、若返ったお姿は更にカッコいいのだ。それこそ世界中の淑女どころか、男性すらも虜にする様な顔立ちをなさっている。
そんな絶世のイケメンが私の目の前に……。
ジュルリ。
はっ!! ヤバい、これは自を隠せる自信ないんですけど。
「栄一様、家臣の手前ですので、もう少しだけ距離を取っていただけませんか?」
「それは二人きりなら遠慮は要らない、と言うことでしょうか?」
ああ、栄一様のとろける様な笑顔が目の前に……。
はっ!!
危ない、危険です。勇者様の言動はとにかく危険です。
勇者様は少年の様に照れながら私に問いかける。ですが今は同じ空間にハウザーがいるのですから、私は女王として毅然とした態度で勇者様に接するべき。
それが私の忘れてはならない立場なのですから。
後ろにはハラハラした様子のハウザーがいる。私が己の立場を弁えて勇者様に注意を促した。
「栄一様、お言葉は有り難く頂戴します。ですがお年をお考えてください。そんな年頃の若者が囁く様な言葉で心を奪われる私ではありませんよ?」
「年なんて関係ありません、好きになった人が目の前にいたら誰だってそう言うものです。だって私はお爺ちゃんの前に男ですから……」
……私は本当に浮世離れしているのでしょうか?
それとも世間ではこう言うものなの? イケメンとお爺ちゃんがかけ合わさると範囲無制限の女性キラーになってしまうのだろうか。
「ハウザー、イケメン足すお爺ちゃんは女性キラーと言う公式は成立しますか?」
「ちょっと……陛下のおっしゃる言葉の意味が分かりません」
思った事を確認するもハウザーに渋い顔をされてしまった。
私に顔が見る見る真っ赤に染まっていく。もう鏡で確認するまでもない、私の顔が茹蛸の様に熱を帯びていくのが良く分かる。
私は限界に達して遂に立ちくらみどころか立つ気力も失せてしまった。脚がよろける。私は目眩を起こして床に倒れ込んでしまった。
「陛下!? 陛下ーーーーー!?」
意識が朦朧とする中で誰かが私の名前を叫んでいるのが聞こえる。おそらくハウザーだろう、それと同時に足音も聞こえる。
急に倒れた私を心配してハウザーが駆け寄ってくれたのかしら? 抱きかかえられる感覚もある。私は女王、家臣に心配をかけるなど有ってはならない。
為政者として威厳を保たねば。
その想いから私は何とか体に力を込めて起きあがろうとした。そして目を開いて、目の前にいるだろうハウザーに申し訳ないと言葉をかけようとしたのだ。
ですが、それは失敗だった様です。
何と目の前にいたのは勇者様だったのだ、そして倒れる私を抱きかかえていたのも勇者様。私は完全に思考が停止してしまい、アワアワと慌てながら言葉にならない呟きを口にしていた。
「ああああ、ああ、あ……、あああの!! あのーーーーーーー!!」
「愛しの人は寝顔も可愛いですね」
「か、かわ!? 私が可愛いいいいいいいい!? も、申し訳ありません!! 私としたことがとんでもない失態を!! 今すぐ起き上がりますので!!」
「甘えてくれてもいいのですよ?」
「いいいいい、いえ!! 勇者である栄一様に甘えるわけには参りません!!」
「大丈夫ですよ、お返しに私を二倍甘えさてくれれば」
おっふう。
私は勇者様の言葉に上せてしまい、その場で完全に意識を失ってしまった。
どうやらこの勇者様はこの国に攻め込む魔王以上に厄介な相手だった様です。
下の評価やブクマなどして頂ければ執筆の糧になりますので、
お気に召せばよろしくお願いします。




