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勇者、その独占欲を語る

 ダフネは子供の様に勇者様に甘えていた。


 違いますね。ダフネは勇者様の逞しい胸板に顔を埋めて、クンカクンカとその匂いを嗅ぎながらダラシなく涎を垂らしている。


 その甘え方には計画性を感じてしまうのです。


 その様子に私は困ったと眉を顰めてしまう。普段のダフネは礼節を重んじる素晴らしい淑女なのに、どう言う訳か勇者様が相手だとこうなってしまうのです。



「栄一様ーーー、もっとダフネをいい子いい子してーーーー」



 この甘えっぷり。


 王族とかしっかりしているとか言う以前に幼児退行しているのでは? とそちらの方を心配してしまう。そんなダフネの頭を勇者様は優しく撫でる。


 そして勇者様はそれこそ本当の孫を見る様なお優しい顔付きを浮かばせていた。


 この二人のやり取りのいい加減辟易してしまい、私はため息を吐いてしまった。そして執務机に肘を突いて頭を抱え込み、ジト目を覗かせながらダフネに注意を促した。



「ダフネ、まだ公務の最中なのですよ?」

「……失礼いたしました、女王陛下の御前で私は何とはしたないことを」



 ダフネは先ほどと同じ様に私の前で跪く。

 今度は年頃の少女らしいあどけなさを残した笑みを浮かべながら可愛らしく小さく舌を出している。そうなのです、ダフネはディアナたち以上にチョロくとも、彼女たちとは違う。


 彼女は心の底から私を尊敬してくれているのです。

 そう、尊敬してくれている。だからこそ、厄介なこともある。ディアナたちは意図的に勇者様と私の前で態度を変えているから私もそれを理解して、怒りを覚えるのです。


 今一度言いましょう。

 ダフネは私を尊敬してくれている、そして勇者様のことも大好き。言い換えれば人懐っこいと言うことなのですが。



 だからこそこの様な茶番が成立する訳で……。



「ダフネちゃん、私は魔王討伐の件でアルテミスと真面目な打ち合わせがありまして」

「あーーーーーん、栄一様ったらダフネを除け者にする気ですかーーーーーー?」

「ダフネ、栄一様に失礼ですよ?」

「……失礼いたしました、女王陛下と勇者様に対するご無礼をお許し下さい」

「ダフネちゃんは本当にアルテミスと瓜二つですね。私、老眼だから近付かないとたまに見間違えてしまいますよ、はっはっは」

「いやーーん、栄一様ったらダフネをこんなババアと見間違えるだなんて」



 こんのガキャア! ダフネ、貴女は今然りげ無く私のことを指差してババアと言いましたね!?



「ダフネ、私と栄一様は国の今後について話し合うのですよ?」

「ならばこそ私も御身のお側に。私は尊敬する大叔母様のなされること全てを学びたいのです」



 ダフネは真剣な様子で私に跪いたかと思えば、今度は一転して勇者様の胸元に飛び込んでいく。言うなればメトロノームの如くダフネの感情が激しく揺れるのです。今更ですが、この娘に国の将来を任せて大丈夫でしょうか?


 能力は申し分ない、その伸びしろも有る。そしてダフネには人を思いやれる優しい心根と決断力が備わっている。


 彼女は困難に直面しても足を止める事なく突き進むでしょう。ダフネは泥を啜ってでも苦境を打開すると言う気概が既に芽生えている。



 そして何より往生勤めからも慕われている。極め付けがこの娘には私には到達し得なかった才能も備わっている……。



 考えれば考えるほどに次期女王はダフネしか考えられない。



「アルテミス、愛しい人が考え込む姿と言うものは本当に罪深いほどに美しい」

「え、栄一様!? い、一体いつの間に!?」



 ダフネの将来に耽って油断をしてしまいました。

 私が僅かに視線を落としている一瞬の隙に勇者様は、刹那のタイミングで私との距離を詰めてきたのです。私に勇者様はこれでもかと言わんばかりに笑みをこぼす。



 勇者様の吐息を肌で感じれる距離。



 ダフネなどは「あーん、ズルいー」と駄々を捏ねているが、私にはそんな余裕はないのです。それは勇者様がその距離感からドンドン私に接近してくるのだから。


 私は思わずゴクリと唾を飲み込んでしまった。


 超絶なイケメンが何の前触れもなく私に接近してくる、これはもしかしなくてもアレしか考えられませんよね? だって勇者様は私の顎を持ち上げて、既に準備を整えているのですから。



 え? ダフネが目の前にいるこの状況で?



「アルテミスはいつも国民のため、家臣の皆さんのため、私のことは二の次なのですね。少しは私を見て下さい。見てくれないと私、国民の皆さんに妬いちゃいますよ?」

「え、ええええええええ、栄一様!? わ、私は公務中です!!」

「では私と愛を育むことも公務にして頂けませんか? ベッドの中でも公務は出来るでしょう?」

「あーーーーーん、ダフネにもチューして下さいよーーーーー。栄一様ーーーー」



 やはり……キスですか? 勇者様は私にキスをする気満々なのですね?


 ダフネもどさくさに紛れて勇者様にチューをせがむ。

 そして勇者様の服を引っ張りながら駄々を捏ねる。しかしそれでも勇者様は私へのキスを止めようとする素振りを見せず、もはや私と勇者様の唇は紙一枚の距離にまで接近していた。




 私は覚悟を決めて全身をプルプルと震わせながらギュッと目を瞑った。




 するとそんな時に限って野暮な事件は起こるのです。


 野暮な輩は人の恋路の邪魔をしてくるのです。

 突如として執務室の窓がパリンと音を立てて割れていく。勇者様は咄嗟にその異変に反応して私の顔を抱きかかえて、胸元に押し込めて来ました。私の唇は勇者様のそれ捉えることなくスルーして、勇者様の逞しい胸元にキスをしてしまいました。


 嗚呼、勇者様の心臓の音が聞こえる。



 キューーーーーー……。



 私は自分の覚悟を嘲笑われるも、それでも突然勇者様の匂いに包まれて己の思考が追い付かなくなってしまい、私は頭から湯気を上げて勇者様の胸の中で気を失ってしまった。



 この状況は間違いなく魔王軍の襲撃でしょう。



 それも女王である私を狙った狙撃による暗殺。ジュピトリスの王城で白昼堂々と狙撃の音が鳴り響く。すると執務室の窓が次々と割れて、辺りにガラスの破片が飛び散っていく。


 あまりにも突然の出来事にダフネも小さく悲鳴を上げながら身を屈めている。


 そんな中で私は勇者様のイケメンフェロモンに充てられて不覚にも気を失ってしまったのです。すると勇者様はクスリと歯に噛みながらそんな私に視線を落として、笑ってくれていました。



「この可愛さは凶器ですねえ。本当に色々な意味で我慢の限界ですよ」

「きゅーーーーーー……」

「はっはっは。やはりアルテミスは不思議な女性だ。こんなにも人を守りたいと思う感情は久しく忘れていましたよ」



 そう言葉を口にした勇者様は世界中のあらゆるものから守ると言いたげに私の体をにギュッと抱き寄せてくれました。私はその勇者様の温もりを感じながら、グルグルと目を回していた。



「身も心も美しい私のアルテミス、私の愛しい人を狙うなど絶対に許しません」



 勇者様の表情は戦う殿方のそれに変わっていくのだった。

 下の評価やブクマなどして頂ければ執筆の糧になりますので、


お気に召せばよろしくお願いします。

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