ミロフラウス・ワーストⅨ
「我が主人よ、世代交代はスマーーーーー……ットに実行すべきです!!」
竜人が狂気に震えて声を荒げながら父に話しかける。
両手を広げてわざとらしく大袈裟なポーズを取りながら両親の同士討ちに歓喜の声を上げるのだ。そして振り返ってチラリと俺の方に視線を向けてくる。
そして俺にまるで社交会でダンスを誘うかのように深々と会釈をしてくるのだ。
「ささ、次期主人よ。古き弱り切った主人を喰らって力を増されよ」
「え?」
竜人は俺を主人と呼んだのか?
だが竜人はドラゴンに仕える種族なわけで。
俺がアイツに頭を下げられる謂れなど無い筈だ。俺は両親をしてやられた混乱と憎しみでブレンドされた己の感情に揺さぶられながら竜人と会話を続けた。
「古き主人が弱っていた事はお隠れになられた時から把握しておりました。どこに隠れていたかは存じませんが、それでも弱き者を神と崇めるほどに我らは落ちぶれておりません」
「どうして俺を主人って呼ぶんだ!?」
「貴方はラーとそこの人間の女、正確には翼人とエルフの血も僅かに混じっているようですが、兎に角その一粒種!! 貴方はこの世界で最強になれる素質をお持ちの方でしょう!? 圧倒的な!! 誰もが恐怖と畏怖の念を抱く存在になれる!! 我ら竜人はそんな方にお仕えしたいのです!!」
「え? ……な、何を?」
「ええ、混乱されているのでしょう!? それは同情いたします!! 我らとて古き主人が全盛期と遜色なく復活されれば、せめて半分の力もあればこの様な不埒な行いをするつもりはありませんでしたとも!! ですが配下の筈の竜人如き私に他勢で敗れるなど、愚物に成り下がったドラゴンは神に非ず、それはただのゴミです!!」
竜人が俺に言葉を捲し立てる。
それはまるで教壇で鞭を振るう教師の様に。俺に発言すら許さずに一方的に自己都合のみを主張するのだ。
竜人がどう言うつもりだったとか、この時を待っていたとか、母の素性とか。
俺の都合などお構い無しに全てを語り尽くそうとする。もはや俺の頭は竜人によってぎゅうぎゅう詰めに情報を詰め込まれてパンクする寸前だった。
だがたった一つ。そう、一つだけ俺が聞き逃さずに唯一理解した事がある。
それは竜人が父をバカにした事だ。ずっといないと思っていた、そう諦めて、それでも望んで止まなかった存在をあの竜人は堂々とゴミと吐き捨てたのだ。
全身の血が沸騰するかのような感覚を覚えて俺は怒りに満ち溢れていた。
その俺の様子を後ろから見ていたシオンはアタフタと、どうすれば良いのだろうと言った様子で焦り出した。彼女はまるで温泉に入る時に足で湯温を確かめるかの如く俺のかたをチョンチョンと突いてくる。
そして意を決したのかヒソヒソと耳元で何かを伝えてくる。
「……ミロフラウスゥ?」
「シオン、今は冷静じゃいられないから静かにしてて」
「ち、違うんだってば。アレを見なきゃ、だよ?」
「……アレ?」
ソーッと指を震わせながらシオンは竜人の方を指差して何かを良く見ろと俺に言う。
そして彼女の言葉の意味を理解して俺は己自身が怒りで如何に周りが見えなくなっていたかを実感させられた。
そうだ、そうだよなと。
自分に言い聞かせて竜人の言葉を嘲笑うように敵を視線で射抜く。お前の言ったことは全て出鱈目だと証明するためにだ。
後ろからシオンが「やっちゃえ!!」とシャドーボクシングをしながら俺を応援してくれる。そう言った幼馴染の応援を背に受けて俺は竜人に話しかけていった。
「竜人ってドラゴンの力を得た割にはバカじゃん、ドラゴン舐めんなよ?」
「後ろのチンチクリンに格好を付けたいのでしょう? ええ、分かりますとも!! 竜人にも異性への愛は存在します、お恥ずかしくもこのジルドレ・テュラムにも夜が恋しい時がありますれば!!」
「後ろを見ろ、バーカ」
テュラムと名乗った竜人は俺に言われてメンドくさそうに後ろを振り向いた。そしてその時になってようやく状況を理解するのだ。テュラムは己に差し迫る危機をようやく理解して急激に表情を歪めていく。
己の力が増して有頂天になっていたのだろう。
俺の両親に勝ったと思って思い上がっていたのだろう。
テュラムが想定外の出来事に直面して慌てふためく様子に俺とシオンはガッツポーズを取って大声で応援をした。
無論、俺の父と母にだ。
「「いっけえええええええ!!」」
「竜人如きが私の家族と未来の娘に手を出すことは断じて許さん!!」
父は母のオーラ弾を拳で殴って無理矢理の力技で軌道を変えていた。
なんと父は母のオーラ弾を被弾していなかったのだ。
その軌道はいうまでも無くテュラムの方向に修正されており、さらに父自身が溜め込んでいたオーラ弾も放たれていた。
ボタボタとその拳から流れ出る血の量がどれほど強引に事を成したかを物語っていた、そして父の隣で母が寄り添う。
薬師故に常に常備している薬草を父の拳に施しながらテュラムに怒りを放っていた。
「ウチの息子と大事な嫁に下らない事を吹き込むんじゃないよ!!」
母の叫びにシオンが騒ぎ散らす。
「キャーーーーーー!! ご両親の公認よおおおおおおお!!」
「いや、だからシオンも落ち着いて……」
俺は青色と赤色のオーラ弾がテュラムにぶつかる瞬間を見た。散々に父を貶された恨みがスパイスとなって俺はテュラムへの憎悪が増していた。
だからアイツの思い通りに事が運ばなかった現状を心の底から歓喜していた。
唯一の後ろめたさと言えば、結局は己の手では何も成し得なかった事。その全てが他人任せで俺は両親に頼りきるばかりに子供だったと思い知らされて。
俺は人知れず涙を流していた。
だが俺は見たのだ、父が俺をジッと見て口元を動かしていた事を。そして父は思念を俺に送ってきた。
(弱い自分が憎いか?)
俺は首を縦に振ってその通りだと伝えた。その反動で一筋の涙が俺の目からこぼれ落ちる。
(お前はドラゴンの息子なのだぞ? 竜人と同じ道を選択する必要は無い、己を憎み、敵意を抱く事は無い。無力な自分が嫌ならば他人に縋らず、己の力で強くなってみせよ)
俺は再び首を縦に振る、そして眼光を強めて力強くもう一度だけ首を振った。父に己の思いの丈を全て伝えるために。
(ならば良し、であればまずはこの父の姿をその眼に焼き付けよ!!)
父の言葉を受け入れて俺は自動小銃に変化型のペイントを塗布して突撃銃に変えた。
その銃口からドパパパと軽快な銃声を鳴らして銃弾をテュラムの足元に集中させて敵の逃げ道を塞ぐ。
今の俺は弱い。だけど弱いなりに必死に俺の願いを叶えようと動く両親の手助けがしたいのだ。
自らを壁として敵を威嚇し、前を向けとオーラ弾の嵐で脅す。
家族総出でこの竜人を倒すんだ。父をバカにしたコイツを絶対に倒すと密かに心の中で誓いを立てて俺は咆哮した。
だが当の竜人は軽めの舌打ちを鳴らす。そしてヤレヤレと言った様子を見せて焦るわけでもなく父の攻撃に対処を開始していた。
両の手を前に突き出し、腰を深く落として衝撃に備える動きを見せる。
俺には背中を向ける体勢だったからその表情は見て取れない。
嫌な予感がする。
今のテュラムは一体どんな表情をしているのだろう? 一切の焦りを見せないテュラムの様子を見て俺の脳裏にはシオンの口にした言葉を思い出していた。
『あの竜人、意外と余裕あるんじゃないの?』
だけどその余裕の根拠が分からない。
忘れていたわけでは無い、だが俺はここに来て初めて思い至ったのだ、テュラムがどうして終始余裕の姿勢を崩さないのか。
父の前に姿を現した時、引き連れていた竜人を含めてようやく父と互角と評されたテュラムがどうして不遜な態度を取り続けたのか。
仲間を殺されても何故焦り一つ見せなかったのか。
俺は目の前で起こった出来事を信じられず、まるで金縛りにでもあったように指の一本すらも動かせずにその場に立ち尽くす事となった。
コイツは他者のオーラを吸収してその力を高めるとスキル持ちだったのだ。
「あーはははははは!! 愛するもの手で死なせてやろうと言うせめてもの情けを拒否した事、後悔するが良い!!」
テュラムは高笑いをしながら右の裏拳で母のオーラ弾を弾き飛ばす。そして左手で父のオーラ弾を受け止めた。受け止められた父のオーラ弾は見る見るうちに収縮しながら縮んで行く、そしてテュラムが力を込めて左手を握りしめるとオーラ弾がその場から消えたのだ。
その瞬間、その場の全員が敵の異変を感じ取っていた。テュラムの力が目に見えて急激に増したのだ。
敵の変化に父が動揺する事なく冷静に分析をする。
「吸収か、だがここまで容量の大きな器は中々にレアだな」
「私は竜人と人間の混血でして。そのあまりにも大きな器のせいで能動的に他者の力を受け入れられる体質なのですよ」
「その割にタオルのオーラは拒否したな? 腹が一杯なのでは無いか?」
「混じり物の血などこちらから願い下げです。ブレンドはハーフくらいが丁度良い」
俺は母を蔑まれてふざけるな、それを言ったら俺だってお前の言う混じり物だろうと思うも、何も言い返せずにいた。
ガクガクと全身が震えて寒気が走る。そしてシオンも同様だったらしく言葉にならない何かを発しながら俺の服を掴んで離さない。
その手から彼女の震えが俺に伝わって俺たちは立つことさえ困難となり、その場にペタリと座り込んでいた。
竜人が勝ち誇る中、母が悔しさで本人も気付かないうちに口から血を滴らせていた。
歯を食いしばった力が強すぎたのだろう。
その流血は母の顎にまで伝っていた。その怒りと悔しさはどうにも取り除けないようで、母の目から涙がこぼれ出す。
血と涙が顎で混じって別の何かとなって地面に落ちる。
その瞬間からこの戦いは戦いでは無くなって、一方的な蹂躙と変貌を遂げていった。
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