ロマンスグレー、正義漢と激突する
ロマンスグレーとヤンキーイケメンの対峙、鼻血を拭いながら私は描き上げました。
「竜星!!」
竜人のミノフラウスが頭上から必殺のオーラ弾を放ってきた。オーラ弾は相変わらず轟音を乗せてグングンと勇者様に向かってくる。
対する勇者様もまた変わらず涼しい顔付きをしている。
勇者様は気絶する私たちを優しく葉っぱの上に寝かしつけてから、襲い掛かるオーラ弾向き合った。
そして大きく跳躍をして生身でオーラ弾に立ち向かっていったのです。
「ミロフラウスさん、でしたっけ? 随分とズルいやり方をしますねー」
「そうでもねえよ!! 俺はテメエを信じてたぜえ、女を戦いに巻き込むタイプじゃねえってなあ」
「アルテミスさんを狙えば私が盾になる、と確信していたと?」
「オリビアは俺の仲間だ、戦姫は魔王様直々のご所望。どっちも傷なんざ負わせねえ!! そしてテメエを倒してディアナも取り戻す!!」
ミロフラウスは勇者様の性格を利用したのだ。
勇者様はお優しい、女性には尚更お優しい。
そんな勇者様の性格を利用してミロフラウスは勇者様を自らの攻撃に誘い込んだのだ。そして険しい顔付きで当然と言わんばかりに勇敢に突き進む勇者様。
私とオリビアはそんな逞しい背中に守られながら無様にも気を失っていた。
「私が逃げるとは考えなかったのですか?」
「微塵も考えなったね、テメエはそう言う男だ!! だがそうだな、もしも女共を見捨てて逃げやがったら……」
「逃げやがったら?」
「俺が盾になってオリビア達を守ってやれば良いだけだ!! そしてその後でテメエをぶっ殺す!!」
勇者様は「ほお」と感心した様子で呟いて、笑みをこぼしていた。そして右手を前に突き出して巨大な葉っぱを出現させた。すると勇者様の行動にミロフラウスは分かっていたとばかりにニヤリと笑みを返した。
「テメエ、やっぱり能力者だったか」
「はい、何となく出来そうだったので試したら出来まして」
「テメエの能力は『新たな生命を創造する力』と『年齢操作』ってところかあ!?」
「ご名答、後者はこの世界に召喚されてから薬を飲んで後天的に獲得したようです」
勇者様は既にオーラを体得していたのですね。
新たな生命を創造する力、これはもしや勇者様が異世界で農家だったからでしょうか? そして年齢操作、こちらは勇者様の口振りからするとハウザーの薬を飲んだことがキッカケになったと?
ですがミロフラウスは少ない情報の中からこの事実に行き着いた。この竜人は戦闘能力だけではなく、洞察力も備えている様です。
魔王軍幹部の第二席という肩書きに偽りはない様です。
ですが現実はそこでは無く、目下襲い掛かるオーラ弾を勇者様がどうやって防ぐか。そして勇者様がスキルで生み出した葉っぱが何を意味するのか。
絶体絶命の状況下で勇者様はご自身のスキルの恐ろしさを魔王軍に見せつける事となったのです。
ミロフラウスの放ったオーラ弾が巨大な葉っぱに当たったと同時に、またしてもその軌道が大きく変わる。先ほどと同様に明後日の方向に軌道が変わってしまったのです。
ですがミロフラウスは最初からオーラ弾で勇者様を仕留められるとは考えていなかったらしい。
彼は一瞬の隙を突いて勇者様の背後に回っていた。
ミロフラウスは勇者様に真正面から肉弾戦を挑んでいった。
勇者様もまた、そんなミロフラウスの考えを見通していた様で、二人の足場にと巨大な葉っぱを出現させていた。
サターン山脈の上空で二人の男が高速の格闘戦へと移行する。
「はっ!! テメエのスキル、創造した生命の特徴や才能を大きく引き伸ばすんだろ!?」
「そこまで行き着いていましたか」
「舐めんじゃねえよ!! 俺の竜星はたかが葉っぱ如きに防がれるほど緩くねえってだけの話だ!!」
ミロフラウスは種族的に圧倒的な身体能力を誇る。
それは分かっていた。だから最初から想定出来たのです。格闘戦に移行するや否や、形勢は一気にミロフラウスに傾いていった。
対する勇者様はミロフラウスの攻撃を受けることで手一杯な様子。最初は回避していた攻撃を徐々に回避出来なくなっていく。そして遂にスピード負けして守りを固めだした。
腕を上げてガードを固めてる勇者様はその表情すらもスッポリと覆い隠す。
そんな勇者様にミロフラウスは真剣な顔付きで話しかけていった。
「悪いな、俺も仕事に手は抜けねえんだよ」
「ミロフラウスさんは何を気にされているので?」
「テメエに勝つためだけに有利な肉弾戦に持ち込んだ」
ミロフラウスは肉弾戦ならば確実に勇者様に勝てると踏んだ、と言うこと。やはり彼はプライドを大切にするタイプなのでしょう。
戦って勝つならば正々堂々と、勇者様のスキルに真正面から立ち向かいたかった。だが、そんな彼も魔王からの命令を絶対と考えた。だから勝算の高い肉弾戦に勇者様を引き摺り込んだのだろう。
何という不器用さ。
ミロフラウスはそんな己の決断に表情を歪めていた。
そして表情を歪めながらも迷うことなく勇者様を激しく攻め立てる。彼が拳を繰り出す度に轟音が勇者様の頬を掠っていく。
普通ならば焦って当然の場面。
しかし、そんな中で勇者様は歯に噛んで、またしても蕩けるような笑みをこぼしていた。そしてその笑みは気絶している筈の私とオリビアに鼻血を噴射させてきた。
おっふう。
やはりこの勇者様は大当たりでした。ジュリトリスの女王としても、一人の女としても私は勇者様を愛しています。
もう気絶しているのだから気にしません、平気で自を晒します。
勇者様の笑顔、ハンパねえ!! 勇者様の笑顔は凶器やで、ホンマ!!
「ふう……、そろそろ一息入れませんか?」
「いいだろう」
勇者様の何気ない一言で二人は格闘戦を解いて距離を取り出した。ミロフラウスの突きに勇者様がタイミングを合わせて跳躍し蹴りを入れる。その反動を利用して勇者様は後方へ大きく跳んだ。
するとタイミングを図ったように勇者様とミロフラウスの足元に足場となる葉っぱが出現した。
そして華麗に着地を果たすと勇者様は穏やかに口を開いていった。
「確かに肉弾戦はミロフラウスさんの方が上ですね。いやあ、これは参った」
「種族ってのはそう言うもんだ。生まれ持ったものの差は並大抵の努力じゃあ埋まらねえよ」
ミロフラウスは自信満々な様子で腕を組んで種族について語り出した。その表情からミロフラウスが竜人と言う自らの運命に抱く誇りが垣間見てくる。
ミロフラウスは残虐な男、それは既に理解しています。
ですが同時に不器用で愚直さも併せ持っているのですね。
私はジュピトリスの女王として決して引けないものがあります。だけどそんなミロフラウスに対して勇者様はニコリと笑みをこぼす。
そして勇者様も負けられない理由を堂々と語ってくれたのです。
「努力で埋まらない、ならば他のもので埋めればいいじゃないですか」
「ほう? 諦めねえのか? テメエなら戦姫だけ担いで逃げれんじゃねえのか?」
「それじゃあ貴方に失礼じゃないですか。私は決して諦めない。プライドも愛する人も、何もかもを守ってみせる」
「けっ!! 俺に対する嫌味かよ、だがそうだな……テメエになら言われても嫌な気分にならねえよ。言ってみな、俺との差を何で埋める気だ?」
「愛……でしょうねえ。私はアルテミスさんから愛を頂戴して強くなる」
キューーーーーー……。
私は気絶しながら顔を真っ赤に染め上げ、顔が沸騰してしまいました。
おっふう……、これ以上勇者様に愛を囁かれたら私は恋愛に溺れて死んでしまいます。世界を救うために召喚した勇者様に愛され過ぎて死んでしまいます。
「テメエ、……それを本気で言ってんのか?」
「今からそれを証明しましょう。とうっ!!」
勇者様は大きく跳躍を果たして私が倒れている葉っぱの飛び乗ってきた。そして腰を落として勇者様が私に歩み寄る気配を感じる。
え?
どうしたのでしょうか? 妙な気配がする。何と言えばいいのか、生暖かい空気を感じるのです。そう、まるで人の吐息の様な生暖かい空気が私の顔に当たるのです。
「これでアルテミスさんとは二度目ですね」
え? え? えええええ?
ま、まさか勇者様は……私にキスなさろうとしていらっしゃるのですか? ま、まあ私は気絶していますので、もうお好きになさって下さいとしか言えないのですが……、え? 本当に?
勇者様はこの戦闘の真っ只中で本当にキスをなさるおつもりですか?
私、もう自を隠しません。隠し通せる自信が既に崩壊しているのです。と言う訳でカモーン。
そして私の唇は勇者様の愛を受け入れる事となった。
すると眩い光が勇者様の体からあふれてくる。神々しい光が勇者様を覆い尽くして、その光はミロフラウスさえもたじろがせたのです。
「テ、テメエは何をしやがった!?」
「言ったでしょう? 私はアルテミスさんから愛を頂戴すると」
勇者様は輝きを放ちながら目を覚さない私にニコリと笑いかけてくれた。そして再びミロフラウスと向き合って背中越しに声をかけてくれたのです。
「貴女がいてくれるから守りたいと思えるのです。だからずっと貴女を守らせて下さい、アルテミス」
おっふう。
まさかこのタイミングで私を呼び捨てで呼んで下さるとは。私はこの勇者様の不意打ちに気を失いながらも鼻血の噴水を射出してしまった。
訂正します。
この勇者様は大当たりなんてものじゃありません。もう超大当たりも良いところです。純粋に国民の平和を願って召喚した勇者様でしたが、私の心は完全に侵略されてしまいました。
何しろ気絶した状態の女の心ををここまでトキメかせるのですから。
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