ゲーム業界の反乱
第一部完結しました。
前半はドタバタの連続を繰り返し、後半は本来の目的である魔王との対峙を本格化させる流れにすべく一度完結させました。
第二部は折を見て、じっくりと書いていこうと思いますので、またその際はお付き合い頂けますと嬉しいですm(_ _)m
第一部も最後までお楽しみ頂けたら嬉しいです。
「ブランコで勝負ですう!!」
ブランコ、このキャラは幼き日に搭乗していた飛行機が墜落して孤児となり、野生の中で成長した緑の肌のまさに野生児。
乳飲児からその様な苦労を負わせるなど、ソフトメーカーは真の鬼畜じゃねえか!
だが、そんな逆境を跳ね除けてそこまで立派に育つ事が出来る人間はそういまい、寧ろ見込みがあるとさえ思える。オリビアもメーカーへの怒りと同時に感動に打ち震えているらしい。
このキャラの生い立ちを知って誰もが涙せずにいられようか?
いや、無い!! 反語!!
そのブランコをプレイヤーキャラに選択するとはスカーレットも意外と見どころがある。さすがは直感に優れて獣人だけのことはある。
「エレクトリックダイナマイトでマイアを潰すですう!!」
スカーレットも乱入早々に電撃攻撃でオリビアの操るサクの動きを封じてしまう。これには先ほどまでマイアをギリギリのところまで追い詰めていたオリビアが再び鼻水を垂らしながら喚き散らす。
「どうして三人で対戦モードしなきゃならないのですか!!」
オルビアが口にする愚痴、実は俺も疑問に思っていた。
マイアたちは二人では対戦モードで決着をつける筈が、どう言う訳か画面にはキャラクターが三人。マイアにオリビア、そしてスカーレットとそれぞれが操るキャラクターが好き勝手に動いてゲームが修羅場となって行く。
その疑問の答えを乱入者であるシオンが持ち合わせていたらしく、彼女は発狂した様にブランコでサクを追い詰めながら叫んでいた。
「最新作から対戦モードで三人同時にバトルできる様になったんですう!! さあ、マイア、憎きオリビアに背後から引導を渡すのです!!」
「スカーレット様、その援護は有り難く頂きます!! 必殺・スピニングファルコンパンチ、ってシェン・リーまてブランコの電撃攻撃をサクを介して被弾してます!?」
電撃攻撃で身動きの取れないオリビアのサクを攻撃するつもりが、それがまさかそのサクを通じてシェン・リーまでもが攻撃を撃てしまうと思わなかった。それも体内の人骨が透けて見える電撃攻撃のお約束を目撃してしまうとは思いもよらず。
スカーレットのブランコを中心にシェン・リーとサクが大ダメージを受けてしまっている。当のスカーレットもオリビアを標的としていたはずが、どうして助力を求めたマイアにまで被害を与えんだよ!?
やはりスカーレットはアホだ!!
見どころがあると感じた俺がバカだったよ!!
「スカーレット様が乱入なんかするから対戦がメチャクチャじゃないですか!!」
「煩いですよ!! 今日と言う今日はオリビアをギャフンと言わせてやるです!!」
「スカーレット様、どうでも良いので電撃はお止め下さい!! シェン・リーの体力がもう保ちません!!」
そう、オリビアの飛び道具攻撃で既に体力に余裕がないのだ。例え電撃攻撃のような少量のダメージでも長時間受けてはキャラがノックアウトしてしまう。それ故にプレイヤーのマイアは焦りながらスカーレットに己のキャラが如何に崖っぷちかを伝えた。
このアホっ子獣人め……。
だが、この獣人はどこまでも行っても人の考えの斜め上を行くらしい。この状況が一変するまさかの計画をこのスカーレットが考えていようとは流石に思い付きもしなかった。
「マイアもよく見るですよ!! ブランコの電撃攻撃はシェン・リーにとって回復なんです!!」
「何を言って……、あれ? 本当にシェン・リーの体力が回復していますわ」
攻撃を受けているにも関わらずキャラの体力が回復すると言うまさかの事態に俺は目を開いてい画面を凝視した。
一体どう言うこと?
「ふふふ、シェン・リーのギックリ腰を電気治療で治してるんです!!」
アホか!!
そんなアホ設定が格闘ゲームに本当に要る!?
「ここまでシェン・リーをネタにするなんて……、この開発スタッフは私に喧嘩を売ってますね? 本気で翼人と戦争しようと? だったらその喧嘩……、買って差し上げます!!」
往年のファンからすればそうなりますよね〜?
やはりソフトメーカーは踏んではならない逆鱗を踏んでしまったらしい。もはやヒビどころかコントローラーが原型を留めず中身を剥き出しにするまで俺の妹分はボタンを叩来まくった。
と言うよりもオリビア。
オーラを纏わせてボタンを押してない!? 俺も思わずは目を疑ってしまった。何しろ画面上でブランコが全身に電撃を纏わせるように、彼女もまた同様に電撃を纏わせているように見えるのだ。
もしや剥き出しになったコントローラー内部の半導体から感電してんじゃねえの!?
「オリビア様、コントローラーから感電してますよ!?」
「知るかああ!! ここで咲一番じゃい、からのおおおお真空動拳波あああああ!!」
終にオリビアの目つきが変わったあ!?
感電によって髪を逆立て、目は発光している。そんな修羅の如き様相でオリビアはスーパーコンボを繰り出すのだ。今度は地面を這うように連続で回転の足払いで纏わりつくマイアとシオンのキャラを払い除けて横蹴りでフィニッシュ。
それだけでもマイアとスカーレットからすれば大ダメージだと言うのに、そこに容赦なく連続のオーラショット数発を一度に放つ鬼畜の所業。
オリビア、お前……。
マイアはゲーム初心者だぞ!?
もう少しだけ手加減してもいいと思うけど!?
「ひええええええ!! ブランコが一瞬でノックダウンされちゃったですう!!」
「オリビア様、オーラを使ってコントローラーの反応速度を上げましたのね!? これだからゲーマーと言う人種は!!」
「お黙りなさい!! シェン・リーの電撃ドーピングが許されてどうして私の電撃コンボがダメなのですか!!」
「くっ!! シェン・リーの体力も残りわずか、ガードすら許されない状況です」
「こっちはサクが巨乳キャラじゃないからバランスが取りづらいのです!! そのくらいは我慢なさい!!」
シオンの乱入と言うアクシデントに見舞われたものの、それでも本領を発揮できる状態が整ったにも関わらず、肝心のシェン・リーが瀕死の状態。リアルに画面の中でシェン・リーがはあはあと息切れをしながら構えを取っている。
対するサクもこちらと同様に体力がギリギリでミシェリーも慎重にならざるを得ない。つまり女同士のプライドをかけたバトルもようやく最終局面!!
龍虎相対す。
バチバチと視線をぶつけて敵を如何に屠るか、その事のみに二人は集中していた。もしも周囲にギャラリーがいればその悉くが胃をキリキリとさせる程の状況の筈、それほどにマイアもオリビアさえも共に研ぎ澄まされているのだ。
だが、そんな状況を崩壊させるのは如何なる時もこの妹分なのだと、今日の俺は思い知らされる事となった。
新たな概念を生み出すことを宿命とする獣人は本当に侮りがたい。
「上上下下左右左右からの裏技コマンド入力ですうううう!!」
ニヤリと悪い笑みを浮かべながらスカーレットがコントローラーにかの有名な裏技コマンドを弾く。その笑みを見て俺も確信したよ、コイツは……オリビアに仕返しをする事しか考えていない。
と言うかオリビアってスカーレットに恨まれてたのか。
彼女はオリビアさえ邪魔出来れば結果や過程などどうでも良いらしい、俺からすれば過程こその伴わない結果など愚の骨頂なのだが。それでも今回に限っては俺はどうでもいい。
大切な妹分と娘の仲が良ければそれでいいと思う。
そんな風に己の求める平和の形を思い描いていると、どう言うわけかゲーム画面がひどく歪んでいく。俺は「はて?」と呟き首を傾げるが、その答えが出て来る筈もない。
だがそれでも唯一判明している事はこの変化はスカーレットが引き起こしたと言う事。それはまるで如何わしい妄想で女性をニヤニヤと見る下卑た酔っ払いの如くほくそ笑むスカーレットを見てば誰だろうと分かる事です。
スカーレットもこんな表情をするんだ……。
「スカーレット様、何を……なさいました?」
「スカーレット!! アンタのせいでゲーム画面が渦を巻いているのですが!?」
「ふっふっふ、これは格闘ジャンルから脱却するためにゲーム開発スタッフが丹精を込めて生み出した裏技ですう」
スカーレットが今度は魔王にでもなったような表情になっていた。がスカーレット、俺もその類の厨二は嫌いじゃねえよ!!
俺の母ちゃんも厨二病患者だったからなあ!
「格闘じゃなかったらそもそもストリートバトラーではありませんよ!?」
「そうです……ですから『ストリートパートナー』に名を改めて恋愛シミュレーションモードに変更ですよおおおおおおおお!!」
「「な、何いいいいいいいいいいい!?」」
マイアたちは劇画タッチになって思わず声をハモらせていた。
「これが今話題の恋愛頭脳バトルですううううう!! ちゃんとBL要素も含んでますよおおおおお!!」
「「開発スタッフは格闘ジャンルに全力で謝罪しなさい!!」」
再びマイアとオリビアは声をハモらせてゲームそのものをツッコんでいた。だがそんな怒気とは裏腹にBLが大好物だったのかスカーレットの顔はだらし無く歪んでいく。
そんな様子を尻目に恋愛頭脳バトルにシフトチェンジしたストリートパートナーは進行していくのだった。
『ドラゴン、ベッドの上で第二ラウンドだ』
『良いだろう、ケインの熱き激情は俺のウッホウホが受け止めてやるぞ!!』
キャラがいつの間にかこのゲームの主人公であるドラゴンとそのライバルであるケインに変わっていた。
耳に届くキャラのセリフをゴングに二人の対決は終止符を打つこととなるのだった。
アホやな。
お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m
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