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オリビアVSマイア、画面越しの対決

 マイアの唐突な一言から全てが始まった。


 とある日の午後、義娘はオリビアに決闘を申し込んだのだ。



「ストリートバトラーで勝負しましょう」

「ちょっとお待ちなさい、それは……最新作ではありませんか!!」



 マイアはゲームのソフトを手に取って接続部の誇りをフーッと息で取り除く。


 ガチャリとハード機にゲームソフトをセットして彼女はシオンを挑発した。マイアはオリビアの弱点を知っていたのだろう。


 如何に彼女とて不利な勝負とて負けるつもりも無い筈だ。


 彼女の選んだ決闘方法は格闘ゲーム。

 実はオリビアは生粋のゲームオタクなのだ。そしてどうしてマイアがオリビアに決闘を申し込む事態となったのか、それはマイアがオリビアとキャラが被っていると思ったからだ。


 俺の妹分たちはディアナがガサツ系俺っ子、スカーレットは天然系ロリっ子。オリビアは堅物真面目系のしっかり者。マイアにとってオリビアとは目指すべき目標であって目の上のたんこぶと言う事になる。


 俺の娘は意外とアホやな。



「……不服ですか? ゲーム初心者の私を相手に? このゲームはオリビア様の得意ジャンルだと伺っています」

「ぐぐぐ……、しかしこのシリーズはシェン・リーが五十代で……」



 初めてこのオリビアに優位を取れた気がするとマイアはほくそ笑んだ。


 マイアは『ストリートバトラー』に登場するシェン・リーと言う女性キャラがオリビアのお気に入りだと知っているのだ。


 俺がマイアにそれを教えた。


 そしてシリーズを通じてゲームの中でもキャラは歳を取り続けてる設定らしく、シェン・リーは初登場時の二十代から最新作では五十代。つまりシワを隠せる歳ではなくなっている。


 そしてオリビアは四十代以上になってシワが目立つ様になったシェン・リーなど見たくないと言う。謎の理由を主張してこのゲームを辞めてしまったらしい。


 マイアは『このキャラを使うだけ』でオリビアに勝てると確定している訳だ。



「私はシェン・リーを選びます」

「ぐぬぬぬぬ……、私は春日部サクを使いましょう」



 春日部サク、このキャラはゲーム主人公であるドラゴンを師匠と仰ぐ設定の女子高生格闘家だ。とは言えシェン・リーとは全くタイプの異なるキャラ故にオリビアも操作に苦労する事になる筈だ。



 シェン・リーvs春日部サク、ファイト!!



「ふふふ、それでは行きますわ!! 必殺・スピニングファルコンパンチ!!」

「ぎゃああああああああ!! シェン・リーがレスラーみたいな技を使ってるううううううう!?」



 スピニングファルコンパンチ、これは本来シェン・リーの代名詞とも言える必殺技で逆さの状態で宙に浮きながら回転蹴りを繰り出す超大技が原型だ。しかしシェン・リーも歳を取ったことでギックリ腰によって宙に浮けなくなったらしい。



 ほんまにアホな設定やで。



 そして宙に浮けなくなった代わりに回転しながら連続パンチを繰り出す様に設定されている。つまりはただの回転ラリアットと言うわけだ。


 技のカッコ悪さにオリビアが精神的ダメージを負ったという訳だ。


 因みにこれに似た技をオリビアが過去のシリーズに登場した筋骨隆々のモヒカンレスラーが必殺技にしていたと言う。



 つまりはそう言うことだ。



 普段は冷静なオリビアも序盤から我慢の限界を迎えてしまい、大粒に涙と大量の鼻水を垂らしながらコントローラーを握りしめていた。


 オリビアの握力に屈したコントローラーはどんどんと亀裂が生まれていく。



「まだまだです!! 必殺・百烈ビンタ!!」

「ぎょええええええええ!! どうしてシェン・リーが息切れしながらビンタを放つのですか!?」



 この技も過去のシリーズに登場したカブキフェイスの相撲レスラーが似た様な技を使っていた事からオリビアにはトラウマでしか無いらしい。



「オリビア様、私を甘く見ないでいただけますか?」

「ガニ股のシェン・リーなんて見たくありませんでした!!」



 オリビアをここまで追い詰められるとマイアも思っていなかったらしく、彼女は悪い笑みを浮かばせながら口元を吊り上げていた。


 等と悦に浸っているとゲーム内ではアクシデントが発生してしまいまった。何とマイア操作するシェン・リーがグキッと鈍い音を発してピクリとも動かなくなってしまったのだ。ゲーム初心者ゆえに私はコントローラーのあらゆるボタンを押して打開を図るも一切として効果が現れない。


 オリビアに至っては先ほどまで悶え苦しむように泣き叫んでいたにも関わらず、「ほへ?」と何とも気の抜けた言葉を口にして静まり返る。そんな状況で私はゲームのチュートリアルで受けた説明を思い出した。


「シェン・リーはギックリ腰でしたわね」

「そんな理由で止まったんかい!! 開発スタッフは憧れのシェン・リーを何だと思っとんじゃい!!」


 オリビアのソフトメーカーへの不満が爆発したのか、鬼神の如きオーラを発しながらコントローラーに高速でコマンドを入力する。ゲーム経験者故の慣れた手つきでキャラを操作する。


 これは初心者にはとてもできる芸当ではない。その様子を唖然としながらチラ見するのみだったが、途中からそのあまりの狂気を含ませるオリビアにマイアはギョッと視線を固定させてしまったのだ。


「オリビア様の目が光ってます!!」

「サク、根性見せんかい!! 喰らえ、動拳波連射じゃい!!

「きゃあああああ!! ガードしてますのにガンガン体力が削られます!!」

「咲風脚!! からのおおおおお、春桜拳んんんんん!!」

「オリビア様、初心者にコンボは卑怯です!!」

「うっさい!! アンタの敗因はたった一つ、たった一つのシンプルな答えなんじゃい!! アンタは私を怒らせたあああああああああ!!」


 いつの間にかオリビアは顔が劇画タッチになっていた。そして怒りのままにコントローラーを叩いてマイアのシェン・リーを追い詰めにかかる。気が付けばキャラクターがステージの端にまで追い込まれていた。


 彼女の操作するサクが放物線を描いて飛び上がり横回転の蹴りを放ったかと思えば、詰めた距離のまま大きく前進してシェン・リーをステージの端まで押し切ってジャンプアッパーを放った。


 その後は狂ったように飛び道具のオーラショットを無心に乱射する。


「シェン・リーもギックリ腰でガードを下げるなど許しません!!」

「マイア、アンタはもうちょっとシェン・リーを労わらんかい!! まだまだ怒りの動拳波は終わらせません!!」


 オリビア、お前は生粋のゲーマーだよ!


 その指圧でコントローラーにヒビを入れながら猛獣の如く私を威嚇しながら飛び道具でシェン・リーの全身を許さないのだ。隙を見て壁を蹴って逃げようにも、ここでもシェン・リーの持病が邪魔をして壁を蹴った瞬間にギックリ腰を再発させてしまった。


 壁を蹴って腰からグキッて音が鳴った!?


 こんな使えないキャラを採用するなどゲームの開発者は何を考えてんだよ!?


「こうなっては……私も飛び道具で抵抗するしかありません。コマンドが初心者には少々難しいのですが……奇行拳!!」

「マイアも悪あがきですか!! シェン・リーよりもサクの方が飛び道具コマンドがシンプルだから連射には有利なのですよ!!」

「二人だけゲームするなんて酷いですう!! 私も混ぜるです、乱入です!!」

「「へ?」」


 あまりの唐突な横槍に先ほどまで対立していたはずの二人が気の抜けた言葉を発した。


 が、これが驚かずにいられようか?


 何処からともなく現れたスカーレットが部屋に乱入して来た。


 そしてコントローラーをもぎ取り二人の対戦に乱入するとは……、スカーレットは本当に予測の付かない行動をとってくる。キャラ選択画面になるとスカーレットが何の躊躇いもなく怖気の走るキャラを選択するものだから、二人とも顔を強ばらせていたのだ。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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