夜の街へ繰り出そう
俺は相棒を連れてジュピトリスの王都の大通りを歩いていた。
「はっはっは、ミロフラウスくんは金欠だったのでは?」
「大食いチャレンジで賞金が手に入ったんだよ。だから今日は俺の奢りだ」
「なるほど、臨時収入という訳ですね?」
勇者のジジイは俺の懐事情を心配してくれているらしい。魔王軍の幹部だったと言っても決して給金を得ていた訳ではないから俺の生活がカツカツだった事を言ってるのだろう。コイツと話す様になってやはり良いやつだと思い知った。
一度は本気で戦ったが大手を奮って仲間になってからは気が合うからと一緒に飲みに行ったりもしている。俺はジジイと親友になった。
ジジイは俺の懐事情を知ってからは色々と差し入れをしてくれるものだから、俺も何か返したくてお気に入りの店とかに連れていく。今日の俺たちはでその店に行く途中。
そう、『お気に入りの店』にね。
「この前、店に行った時に半額クーポンも貰ったんだ」
「はっはっは、それは良かったですねえ」
夜の大通りで男二人が親指を立てながらヒソヒソ話、とくれば向かう店がどう言ったジャンルの店かは想像に易いだろう。
そうです、今日はキャバクラに行っちゃうよー。
ジジイを真面目の堅物かと思っていたが意外と融通の効く性格で助かった。
目的の店が視界に入り、沸き立ちパッション。俺とジジイは戦場に乗り込む男の表情のままスキップをしながら店に走って行った。
そしてムフフと二人で顔を突き合わせ、呼吸を合わせて店の扉を開く。
そこは……パラダイスだった。
「いらっしゃいませ、ようこそミニマムキャバクラ・ロリっ子どストライクへ!!」
これこれ!! この店はジュピトリスの先代王だ統治していた時代から経営が続く由緒正しき名店。俺が魔王軍に入って当時の上司が入社祝いにと連れてきてくれた思い出の店だ。
店構えはモダンながら何処かクラシックな雰囲気を漂わせる気品があって、店に入れば軽快なDJミュージックが流れる。決して騒がしいわけではなく程よく高揚できる、そう言った空間がここにはあるのだ。
身長150センチ未満の厳選された可愛い女の子が指名制で接客に付く最高の空間。
いや、ちゃんとした店ですよ? 合法で健全なお店です。
因みに俺の好きなサービスは有名私立中学の制服着用オプション。
ただ唯一変わっているところがあるとすれば、従業員の女の子のほぼ大半が『とある種族』なのだ。店長曰く店のコンセプトが店名通りであるため、そう言った女の子を雇った結果現在の状態になってしまったと言う。
「おお!! あの子は新人じゃねえか!? 小さくて可愛いぜ!!」
「ミロフラウスくん、まずは受付ではありませんか?」
俺たちの前を女の子が通る。そして過ぎ去るその子を視線で追いかけると、少女の種族のアイデンティティたる特徴が目に入る。
その神秘的な特徴が俺とテュラムの顔を引き締めてくれる。
その種族とは、獣人だ。そうなんです、獣人はロリっ子が多い種族なのだ。
「ジジイ!! 俺はクリスティーナちゃんを指名するぜ!!」
「ミロフラウスくんもブレませんねえ。では私は……ん?」
俺がはしゃいで受付に飾られた女の子の写真を指差す中で俺ジジイがあることに気付く。この店に通い詰める俺ですら見た事が無かったものだから、おそらくは今まで店に無かったものだと思う。
首を傾げながら俺はこの店の店長に話しかける。
「ワースト様、どうしました?」
「店長、写真が載ってない女の子がいんだけどさ。写真が『?』ってどう言うこった?」
「ああ、この子は新人ですね。今日面接したばかりで、初日から店に入ると言うので写真が間に合わなかったんです」
ほほう、新人ちゃんか。
俺は新人キラーなのだ、こう言った店はゲスな客も多くいる。そう言った客に対応するため女の子もそれなりに強靭な心を持たざるを得なくなる。
だが新人ちゃんはそう言った免疫が付いていないから初々しくて俺は好きだ。
俺は迷わずその子の指名を決意する。
「じゃあ俺は新人ちゃんで」
「ありがとうございます。シオンちゃん、ご指名入りまーす」
「はいっすーーーーー!!」
ん? シオン? それに店長の指名コールに返事をする声、これは俺が何処かで聞いたことのある声じゃないか?
そう思って俺は聞き覚えのある声のする方を振り向くと、これまた見覚えのある顔を目にしてしまった。
「どうしてスカーレットがここにいんだよ?」
シオンと呼ばれる女の子はスカーレットだった。シオンは「うっ!!」と声を漏らして逃げようとする、だが俺は当然ながら彼女を逃さない。
俺に背を向けたシオンを後ろから力の限り掴みかかった。
「おい、待てやコラ。テメエはサラッと人の幼馴染の名前を源氏名に使うんじゃねえよ?」
「違うっすよーーーーーーー!! ウチはスカーレットじゃなくてシオンっすううううう!! 得意料理はロールキャベツっす!!」
んなわけあるか!!
しかもシオンの得意料理まで口にしやがって!! その時点で彼女と別人だと言うことは顔見知りの俺が一番よく知ってるわい!!
「おや、スカーレットちゃんではありませんか。この店で何をしてるのですか??」
「勇者様っす!! どうして勇者様がここに居るっすか? アルテミスが悲しむっすよ?」
「今日は男友達のお付き合いです」
確かにシオンは低身長で見た目も幼い。
コイツのスペックはその全てがこの店のコンセプトに合致する。だが、まさか知り合いが働いていようとは俺も考えていなかったわけで。
「おや? シオンちゃんとお知り合いですか?」
そんな俺とスカーレットとのやり取りを見ていた店長が俺に話しかけてくる。知り合いとなれば接客もしづらかろうと、おそらくそんなスカーレットへの純粋な心配をしているのだろう。
だが俺はそんな常識如きでブレーキをかける男ではない。
「いや、知らない。初対面だよ」
「ふえ!? 何を言ってるっすか!?」
スカーレットが俺の言葉に驚いた様子を見せる。
まあ、それもまた当然の反応なのだが、寧ろ俺は血肉が踊っている。知り合いに堂々とセクハラを出来るなど、興奮しない男がこの世の何処にいようか?
いや、いない!! 反語!!
まあ、スカーレットは大切な妹分だっ少し心苦しい気もするが。
「スカーレットもシオンに告げ口されたら困るんじゃねえか? 人の名前を源氏名に使ってるって」
「んぐっ!! ……もしかしてミロフラウスは安く飲めるとか思ってるっすか?」
「ああ、なるほど。スカーレットちゃんの知り合いとして社割でお酒を飲む訳ですね」
「ううううう……、でも二人にはいつもお世話になってるっすから無下に断れないっす」
等と騒ぎつつもこれ以上は互いのためにならないと、俺たち三人は席に向かう事にした。
店長の対応も丁寧でスマートに俺たちを席に案内してくれる。そして、程なくして俺が最初に指名したクリスティーナちゃんもテーブルに合流を果たす。
「ミロフラウスさん、いつもご指名ありがとうござます!!」
この店のNo. 1キャバ嬢のクリスティーナちゃんが魔法少女も真っ青なポーズを取っている。
さすがはNo. 1、男のツボをいっかりと心得ていた。だからこそ俺の目は完全に彼女にロックオンされているからジジイとシオンのやり取りなど知る由もないわけで。
「勇者様、お酌するっす」
「うーん、孫にお酌されてる気分ですねえ。お爺ちゃんは涙が止まりません」
「勇者様、これはウチが一族の限界に挑戦すべく作ったアルコール度数二百パーセントの秘蔵のお酒っす」
「おお、これは凄いですねえ。お酌された瞬間に蒸発を開始するとは」
「ジジイ、クリスティーナちゃんのお肌は最高にスベスベだぜ!!」
隣に座るキャバ嬢の腰に手を回して俺はご機嫌だった。
そんな横でまるで正月に一族が全員集合したかの如くほのぼのと会話を始めるジジイとスカーレット。この二人の作り出す空気はとてもキャバクラとは思えないほどにアットホームさに包まれていた。
て言うかジジイはスカーレットにお年玉を上げている。
この儀式はジジイの世界では割と普通らしい。
このままではキャバクラに来た気分が削がれてしまう。俺はそれを嫌って妹分に悪戯を決行した。
「スカーレット、テメエも少しは接客しやがれって」
「ふえええええええ!? ミロフラウスはどうしてウチの服の中に氷を入れるっすかーーーーー!?」
俺は当たり前のようにシオンの服の中に氷を流し込む。新人ゆえに慣れていないからか騒ぎ立てるシオンだが、それでもこの店は接客業なわけで。
客に大声で怒鳴り散らすなど本来あってはならない事だ。そんな態度を取ってると先輩に注意されちまうぞ?
「シオン、お客様に失礼でしょ?」
ほらね。
冷静かつ毅然とした態度でそう言葉を口にするのは、俺の隣で接客をこなすクリスティーナだった。
彼女は店のNo.1キャバ嬢と言うだけに収まらず、この業界でも一目置かれる存在だ。その絹のような滑らかな透き通る肌と太陽の火を浴びても色褪せない美しいブロンドの髪。
果てには愛くるしい大きな目。
その裏表のない性格と品格から店の全従業員からお姉さまと敬称され、尊敬の念を集めている。
因みにクリスティーナちゃんはスカーレットが入店するまでこの店の一番の低身長を誇っていた。彼女はナマケモノの獣人らしい。
「お姉さま、でも服に氷を突っ込まれたら誰だって驚くっすよ!!」
「この店のサービスを理解して入店したんでしょう? 仕事にはプライドを持ちなさあああああああい!!」
先輩風を吹かせつつ後輩を守ろうとするクリスティーナだが、そんな彼女の心情を一切として考慮しないのがキャバクラに来る男どもだ。つまり彼女にバレない様にとジジイが服に氷を入れたのだ。
クリスティーナちゃんは決め所を見失ったらしい。
「はっはっは、確かにクリスティーナちゃんのお肌はツルツルですねえ。摩擦が無いみたいに氷が滑走します。あ、アルテミスには負けますけど」
「お、お客様? 私、後輩に指導をしてるところでして……へえええええええ!?」
涙まじりにジジイに待ったを懇願するクリスティーナの隙を突いて今度はその後ろから俺がが氷を投入する。
これぞまさにキャバクラ遊びの王道だろう!!
弱ければ喰われるのがキャバクラなのだ!!
「なんか楽しくなって来たぜ。クリティーナちゃんのお肌ならスキージャンプが出来そうだぜ。クリスティーナちゃんは就寝の時はパジャマ派?」
「はっはっは、ミロフラウスくん。因みに私はスッポンポン派です」
「二人共、ウチを指名しといて放置しないで欲しいっす!! て言うかお姉さまも勇者様と同じでスッポンポン派っすよーーー」
「ど、どうして入店初日のシオンがそれを知ってるのほおおおおおお!!」
挟撃を受けてクリスティーナちゃんがピクピクと痙攣しながら悶え苦しんでいる。だが、それでも彼女は怯まない。
それは何故か?
彼女がナマケモノの獣人故だ。
彼女はナマケモノ故に怒ることすらメンド臭いらしい。実は彼女は先ほどスカーレットを怒ったがアレもそう言った意味があるらしく、彼女曰く怒ることが一番カロリー使う事だとか。
だから彼女は絶対に文句を口にしないと決めているらしい。
アホや。
「例え辱められようとも心は屈しませんわ!! さあ、お好きになしゃああああああい!! あああん!!」
俺とジジイはそんな彼女の決め台詞さえも妨害する。
「ふえ? もしかしてお姉さまは乳首に氷がヒットしたっすか? 氷がスキージャンプでK点越えしちゃったっすか?」
「ス、スカーレットもわざわざ実況しなくて良いから……ああああああああ!!」
因みにどうしてここまでクリスティーナが我慢するかと言うと、獣人は本能に任せて生きるから昼間はダラダラ傾向があって、夜に働く者が多いらしい。
だがら獣人の有力者はホステスかキャバ嬢がほとんどな様で。
本当に狂った種族だぜ。
「はあ、はあ、はあ……。こんなに無作法なお客様は初めてですうううううう!!」
とは言えば、既にスカーレットの存在を忘れて俺たちはルーティン作業の如くクリスティーナの服の中に氷を運んでいく。
楽しいいいいいい!!
だがどうやら俺たちはやり過ぎたらしい。気が付けばスカーレットがプルプルと肩を震わせて珍しくその怒りを隠そうとしない。
さらにスカーレットが俺とジジイに向かって中指を立てて来る。いや、それはキャバ嬢としてダメだろう?
「ウチもお姉さまみたいにK点越えを目指すっす!!」
スカーレットが世紀末漫画みたいな顔をしながら、客である俺たちに物騒な事を言ってくる。いや、だからその態度はキャバ嬢失格じゃねえか?
かくして俺とジジイはクリスティーナちゃん越えを宣言したスカーレット見守る事にしたのだった。
お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m
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