オリビア・カーン
オリビアの名前の元ネタ、分かった人にははらたいらさんから3000点(๑•̀ㅂ•́)و✧
「魔王軍幹部第九席、オリビア・カーン参る!!」
オリビアは怒りを爆発させてもの凄いスピードで突っ込んできた。
「はっはっは、お美しいお嬢さんはスピード違反に気を付けた方がいいですね」
「コレこそが翼人の真骨頂・風気!! 空中戦で無敗を誇る我らのプライドそのものです!!」
風気、それは世界序列第三位の種族・翼人のオーラ。
赤く彩られたそのオーラは風を自在に操ると言う。怒りで表情を歪めたオリビアには正にピッタリのオーラにも思える。オリビアは怒り狂った真っ赤な弾丸と化して勇者様に襲いかかってきた。
「栄一様、彼女は翼人です、空中戦のプロなのです!!」
私は抱きかかえてくれる勇者様の体を揺すって、必死になって警戒を促した。現状が如何に重大か、深刻化を伝えたかったのです。
この世界には種族の間に序列と言う概念が存在する。
世界に存在する種族は十種、その第三位翼人は戦場に赴いた愛する男の無事を願ううら若き女性の呪われた姿だと言われている。
背に翼を生やし、脚は鳥に鉤爪。それ以外は我々人間とは大差が無い。だが、その翼故に誇る飛行能力と先天的に風気を生まれ持つ事で戦闘能力は人間の比ではない。
「うーん、私、老眼なものでオリビアさんのお美しい姿を見失ってしまった様ですね」
勇者様は本当になにをおっしゃってるのでしょうか? オリビアの圧倒的なスピードは視力など関係ない。人間の視覚ではとても捉えることなど出来ない。
そもそも如何に勇者様とて余裕を見せていい状況ではない筈。
そんな私の杞憂を嘲笑うかの如くオリビアは私たちの目の前に突如姿を現した。ニヤリと勝ち誇った表情で私たちを見下ろして、まさに風の如く。いや、彼女は風すらも追い越していた。
「栄一様、回避できないならば、せめて防御を固めて下さい!!」
「今更ガードを固めても間に合いませんよ!!」
「はっはっは。お嬢さんからの熱烈なアプローチ、痛み入ります。ですが私にはアルテミスさんと言う心に決めた女性がいるのです」
「私は八十歳、アナタよりも年上ですよ!! その減らず口を叩けなくして差し上げましょう!! はあああああああああ!!」
オリビアは風を纏わせた拳を振り上げた。
風はおそらく風気で操ったもの、その拳で勇者様を殴るつもりなのでしょう。オリビアは美しい顔を酷く歪ませて、勇者様に襲いかかってきた。
もう避けられない。
私は思考すらも追い付かず、オリビアの攻勢をただ凝視するしかことしか出来なかった。ただ分かることはオリビアの拳には恐ろしい攻撃力が備わっていること。
私は悲鳴すら上げることが出来なかった。
しかしそんな心理状態の私を置いてきぼりにしてしまうのが、この勇者様なのです。隣にいる勇者様は相変わらずとろける様な笑顔だった。そして笑顔を崩さず咄嗟に私を抱き寄せてきた。
まるで舞踏会でダンスを踊る様に、ペアの女性を気遣う完璧な紳士の振る舞いを勇者様は見せてきた。
そして同時に恐ろしいことを私の眼の前でやってのけてしまったのです。
「ほお、アルテミスさんには敵いませんが美しい瞳の色だ」
勇者様は高速で迫り来るオリビアの顎を人差し指で持ち上げていたのです。所謂、『顎クイ』と呼ばれる行為。
オリビアは顎クイの体勢になってバランスを崩してしまい、振り上げた彼女の拳は明後日方向に向いてしまったのです。風を切る音が私たちから離れていく。
そして勇者様はオリビアの瞳を覗き込むため、ディアナの時と同様にオリビアの顔とゼロ距離の位置を保つ。勇者様はジーッと無言で彼女の瞳を覗き込んでいた。
オリビアは恥かしさを覚えたのだろう。
一気に顔を真っ赤に染め上げて、全身を硬直させてしまった。そして言葉にならない声を全身を震わせながら口から吐き出していた。
コレは……ディアナの時のデジャブですね。
「なななななな、何だと言うのですか!?」
「ふむ、本当に美しい瞳だ。その瞳に映る私自身の姿、ずっと見ていたいですなー」
「近い近い近い近ーーーーーーーい、顔が近ーーーーーーーい!! おおおおおおおお、イケメンが……もの凄いイケメンがゼロ距離で私を見てくるうううううううう」
「うーん、貴女は鏡の様な女性ですね。男の本性を映し出す鏡の様に純粋な女性だ」
おっふう。
流石にこの状況はオリビアに同情してしまいます。オリビアは超絶なイケメンとなった勇者様からゼロ距離で見つめられて激しく動揺をし始めたのです。
まるで冬の氷点下で体が凍りつく様な。
寒さで体がガタガタと震える様に全身を痙攣させている。そして同時に顔を真っ赤に染め上げて、強引に勇者様から距離を取ろうとする。
禁断の愛を拒絶するかの様にオリビアは動揺を隠せず、言葉を捲し立てていった。
「わ、私は魔王様を愛しているのです、心の底からあの方を愛しています!! だから貴方なんかに屈しません!!」
「また魔王さんですか? ディアナさんもそんなことを言っていましたが、魔王さんは貴女を愛してくれていますか?」
「あ、ああああああああの方には既に多くの伽役がいます!! 私はあの方にとって一番の女には決してなれない、ならば他のことで少しでもお役に立たねば!!」
「魔王さんとやらは目が曇ってますねー、こんなにも美しい瞳を見て全く琴線に触れないとは。あ、私はアルテミスさんがいますのでギリギリで踏み止まりましたけど」
「…………私、初めて男性に褒められました」
顎クイの状態でゼロ距離で見つめられて。
そしてイケメンにここまで言われて何も感じない女がいましょうか? 如何に私が男性とお付き合いした経験がなくとも分かります。
オリビアは突如黙り込んだかと思えば、目をハート型にして、ドバドバと鼻血を流している。
彼女の心は勇者様に攻略された様です。
あ、オリビアがピクピクと全身を痙攣させながら小声で独り言を始めました。
「惚れました、……もう魔王なんかどうでもいいです」
「え? オリビアさん、何か言いましたか? お爺ちゃんだから耳が遠くて」
「おおおおおおおおお……、イケメンが更に接近して来ます。イケメン注意報が発令されましたーーーーーーーーー」
勇者様は本当に耳が遠い様で、そのイケメンでグイッとオリビアに詰め寄った。ただでさえゼロだった勇者様とオリビアの距離がマイナスとなっていく。
これは恋愛初心者には毒ですね。
もし私がオリビアの立場だったら確実に失神していたでしょう。この状況は羨ましくもあり、同時に憐れみも感じてしまう。
私はそんなオリビアを憐れんで祈りを捧げることにした。
「健気にも愛する人を想って乙女を守る翼人オリビアに男性経験が在らん事を」
「…………は!! 人間の小娘如きに人の乙女を憐れまれる謂れはありません!!」
あ、勇者様の虜になっていたオリビアは我を取り戻した。そして彼女の今後の良縁を神に祈る私に咄嗟に怒鳴り散らしてくるのです。
するとそんなオリビアに勇者様は子供を優しく諭す様に話しかけていた。ピンと人差し指で彼女の鼻を叩いて、イケメン全開の言葉をかけていました。
「元気な貴女も魅力的ですけど、今はジッとしていて下さい。もっとジックリと貴女の瞳を見ていたいのです」
「キューーーーーーー……」
オリビアは勇者様の言葉に頭から湯気を立てて気絶してしまったのです。そんな彼女に勇者様は「過労でしょうか? 魔王許すまじ」と言ってオリビアを心配する様子を見せていた。
勇者様、そうではありません。
私はそんな無自覚タラシな勇者様に呆れながら自らの心臓の鼓動が高鳴りを感じていた。こんな言葉をかけられたら間違いなく私でも気絶するでしょう。
超絶イケメンに無言で瞳を覗かれたら誰だって気絶くらいします。
「アルテミスさん、もっと私の近くに」
ぐっはあ。
勇者様は気絶したオリビアと私をその逞しい腕で抱き寄せて来た。きゃあああああああああ……、もうダメです。私は自我が崩壊してしまう。
こうして私もオリビアと同様に気を失うことになった。しかし私は気付いていなかったのです。どうして勇者様が私たちを抱き寄せてきたのか。
その理由は遥か上空にあったのです。
勇者様とオリビアのやり取りの間に竜人のミロフラウスは私たちの頭上を取っていたのだ。勇者様は上空から睨みを効かせる竜人に警戒を強めていたのです。
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