First Contact【後編】 〜愛しの君、奪還〜
後編です。頑張って二話分描き上げました。
「栄一様ーーーーー!! その者は世界序列第二位の種族・竜人、お気を付けください!!」
「はっはっは、愛する人の声援を受けると思わず心が躍ってしまいますね」
勇者様は相変わらずニコニコと笑顔を崩さない。
そしてスケボー代わりにしていた葉っぱを軽やかに操って、クイッとその裏側を押し上げた。どうやら勇者様は葉っぱの裏側で竜星なるスキルをガードする気らしい。
「回避して下さい!! 木の葉で受け止められる様な攻撃ではありません!!」
そもそもオーラ攻撃とはそう言うもの。
生物の体内に内在するオーラは超常現象を起こせる奇跡の力、生物同士の戦闘はオーラを如何に上手く操るかが肝になる。オーラのコントロールとは戦闘の基本であると同時に奥義でもあるのです。
特に竜人の半竜気は攻撃に特化した性質を併せ持つ。そんなオーラで攻撃されたら如何に勇者様とて無事で済む筈がないのです。
そんな私の心配が届かなかった様で、勇者様は終始和かな様子で私に言葉を返してくる。
「いやー、私も男ですから愛する女性から頼られたい。純粋に優しくありたいのです。だから心配は無用です」
「で、ですが今はそんな事を言ってる場合では……!!」
「貴女がいるから話が出来る、貴女がいてくれるから心がときめく。今の私は貴女がいないと空っぽな人間なのですよ」
「栄一様……」
「それに本当に心配は無用ですよ? ほら」
勇者様は本当に葉っぱだけでミロフラウスのオーラ弾を弾き返してしまった。軌道を変えられたオーラ弾は明後日の方向に向かい、遥か遠くで轟音を撒き散らしていた。
「ほげ?」
もはや自を隠せる状況ではありませんでした。
そしてやはり竜星と呼ばれるオーラ弾の威力は本物、ですが勇者様が操る葉っぱがそれを上回ってしまったのです。
私は遅れて耳に届く爆発の風を全身で感じながら唖然となってしまった。ポカーンと口を開いて驚くことしか出来なかったのです。
するとそんな私に勇者様が声をかけてくれた。
「私は貴女を愛している。常子を失って空っぽになった私の心を埋めてくれた、それがアルテミスさん、貴女です」
「……栄一様……」
勇者様は葉っぱの上で跪きながら愛を呟いてくれた。そして懺悔でもする様に表情を曇らせていた。
勇者様は最初から分かっていたのだ。
私が奥方様に嫉妬していた事に、奥方様への愛情と私にむけてくれる愛情。その二つのどちらがより深いかと言う私の下らない悩みを。
私の浅ましい独占欲を勇者様は分かってくれていたのです。
不覚にも目から涙をこぼしてしまう。
上空でまるでロミオとジュリエットの様なやり取りが催された。そうやって愚かにも安堵した私だったが、同時に不穏な空気を感じ取ってしまった。
突如として私の肩を掴んで離さない翼人の脚に力がこもっていく。
翼人は私と勇者様のやり取りに怒りを露わにしてきたのです。それこそ肩の骨を砕かんとばかりにギリギリと彼女の脚が私の肩にめり込んでくる。
私はそのあまりの痛覚に悲鳴を上げてしまいました。
「キャーーーーーーーー!!」
「私を無視して乳繰り合うとはいい度胸ですね?」
「お美しいお嬢さん、私に大切な人を返して頂きますよ?」
「い、いつの間に!?」
勇者様は葉っぱを操り荒れ狂う上昇気流に乗って一気に私の前に移動を果たす。そして翼人からソッと優しく私を奪い返して下さり、私を抱きかかえるや否や再び気流に乗って翼人から距離を取った。
正に一瞬の出来事だった。
すると私を奪い返された翼人はその悔しさから、腰まで伸びた美しい黒髪を掻きむしり出す。翼人はスカートを基調とする赤い民族衣装を着込んで前髪で右目を隠した様な風貌をしている。
それは敵であってもとても神秘的な印象を受ける。
だけどそんな印象を土台から破壊するかの様に翼人は癇癪を起こしていたのです。歯軋りをしながら私たちを睨んでくるのがいい証拠。
「人間風情が……調子に乗らないで頂けます?」
「待て、まずは落ち着けって。オリビア、お前の実力は認めるが冷静さを失うと足元をすくわれるぞ」
興奮して我を忘れた翼人にミロフラウスが後ろから近付くと、ポンと肩に手を置いてそう声をかけた。
「あの男はミロフラウスにそこまで言わせる存在なのですか?」
「外見が情報と一致しねえが、あの強さは勇者で間違いねえよ。それと俺の竜星を弾いたのはスキルだろうな」
「この蓮の葉の表面には撥水効果が備わってますからねえ」
勇者様が二人の会話に割り込んでいく。
つまりミロフラウスの攻撃はスキルは然程関係ない、と勇者様は仰っている訳です。これにはミロフラウスもプライドを傷付けられた様で、怒りを発しながら全身を震わせていた。
ミロフラウスは全身を着込んだ武道服から受けた印象通り、とてもプライドが高い様だ。ですが同時に魔王軍幹部としての責務にも誇りを持っているらしい。
「まずは仕事が第一優先だ、失敗なんざ許されねえよ」
彼は魔王から受けた任務を果たすべく決意した表情でオリビアに話しかけていた。そして隣のオリビアもコクリと首を縦に振って、それを肯定した。
私は勇者様に抱き抱えられながら当事者にも関わらず、ただ状況を傍観するしかありませんでした。
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