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Folk Tale 〜記憶の断片〜

「うーん、輪郭が少しだけ変わった気がします」

「「ドキッ!!」



 オリビアが自分の顔をベタベタと手で触れながら違和感を口にした。


 

「はっはっは、オリビアさんは相変わらずお美しいままですよ?」

「はーい!! 勇者様のおっしゃる通りですーーー」



 オリビアは勇者様の言葉にぶりっ子となって返事を返す。


 これは久々にデジャブですね。

 そんな都合のいい解釈をするオリビアを見て私はゲンナリとしてしまった。スカーレットに至っては鼻を穿りながら「老眼じゃないっすか?」と容赦ない言葉を浴びせてくる。



 うう、それを言われたらこの中の誰が否定出来ましょうか?



 私たちはシンシアとの戦闘を終えて夜営についていた。

 シンシアにエーレとの連戦で時間を消費してしまい、次の街に辿り着く時間がなくてなって今日は野宿をする事となったのだ。


 幸いにもここは周囲全てが岩場で水場もなく人が生活するには不向きな場所。


 だから野党や盗賊すらも根城を築けないと有名なのだ。

 それに仮にそう言った人たちに襲撃されてもこのメンバーなら安心と言うものです。私たちはパチパチと音を立てる焚き火を囲ってめいめいに寛いでいた。



 そんな中でふと勇者様目線が重なった。



 すると勇者様はとろける様な笑顔を見せて私に手を振ってくれました。そんな何でもないやり取りに私が顔を真っ赤に染め上げると勇者様は私に質問を投げかけてくる。


 どうやら昼間の件に関わる事らしい。



「アルテミスはハーシェルに訪れたことがあるのですよね?」

「はい、昔子供の頃に父の公務に同行する形で一度だけ」

「その時に何か変わった事、例えば誰かに出会ったとか物を貰ったとか。そんな事はありませんでしたか?」



 勇者様に問われて自然と私の視線が動く。


 その先には寂しげに簡素な木製の墓標が地面に突き刺さっていた。それは先ほどまで闘っていたシンシアを弔うもので、毒殺と言う彼女からすれば最も皮肉な殺され方をした彼女を憐れんだものでもある。


 突然の襲撃に混乱しながらも勇者様が最も苦しまない死に方をと選択した結果ではあるが、やはり人の死とは如何な形であっても心が張り裂けそうになる。



 シンシアの場合は特にそう思う。



 彼女は最期に誰かのために闘っていると叫んでいたから。私たちには知る術も無い他人のため、彼女は毒さえも我慢して闘っていた姿は今でも私の脳裏から離れない。


 人が人を想う時、人は強くなれる。


 一見残忍に映ったシンシアの戦う姿はそれを体現していた様に感じる。大切な人を守るため自らの傷すら軽く扱って、全身をボロボロにしてでも勝ちを掴み取る。そしてそう言った断固たる執念が彼女を醜くさせてしまった。



 絶対に負けないと言う決意の元、彼女は手段すらも二の次とした。


 人を想う心が彼女は強すぎたのかも知れないと今更ながらに感じてしまう。その帰結が私に過去の記憶を掘り起こさせていく。



「……出会い、と言うよりも居合わせたと言った方が正しいかも知れません」

「一体何に?」

「初めて人の死を見ました」



 子供の時分、私は父と共に馬車でハーシェルの街を目指した。


 私は馬車の中から延々と続く街道を目的地に向けて進んでいた。その当時はまだ花畑も無く周囲は殺風景だったが、それでも見慣れた王城からの景色には無い広大さに私は心を奪われていた。



 子供故に無邪気にはしゃぎ、窓から体を乗り出して一面に見える水平線の先に想いを馳せていた私。


 そしてそんな私を苦笑しながら諌める父王。



 あの時は何もかもが楽しかった。

 まだ魔王から呪いを受けてすらおらず、早く大人になりたいと。一日でも早く尊敬する父の手助けがしたいと純粋に願うばかりだった。背伸びをして大人ぶって、ただ父の真似事ばかりしていた。



 今思い返すと自分でも恥ずかしさを覚える幼き日の私。



 そんな時に私は見てしまったのだ。

 ハーシェルに向かって順調に進んでいた馬車の足、それが何の前触れもなく停止してしまったのだ。いつもなら停止の際は御者が必ずそれを父に告げるから子供の私はその急ブレーキに踏ん張れず、転んでしまった。


 それでもそう言った普段と違う事そのものが子供には楽しいもので。私は馬車の床にしゃがみ込みながら笑みをこぼす。


 それでも大人はそう言う訳にもいかず、父が「何事か?」と声を上げた。


 私は咄嗟に立ち上がって再び窓から体を乗り出して前方を見た。そこには全身傷だらけの大人があった、どうやらその人は街道の外から街道を塞ぐ形で倒れ込んでしまったらしい。


 周囲の護衛が慌てて対処を始めるも、当の本人の反応に要領を得ず私と父の旅路は身動きが取れなくなってしまった。



「それは男性だったのですか?」

「はい、それはもう大変素敵な殿方でした」

「……許せませんねえ、私のアルテミスの記憶に座り込むその男。万死に値します」



 おっふう。


 勇者様から炎が激って見える。

 これはもしかして……嫉妬の炎でしょうか? ひえええええ、勇者様の炎が焚き火よりも暖かい。いえ、そんな事よりも勇者様の炎にはフェロモンが含まれている様です。


 そのフェロモンが炎によって蒸発を果たし、周囲に撒き散らされていくうううううう。


 よく見ればディアナたちがフェロモン蒸気によって窒息死かかっている!? スカーレットに至ってはブクブクと泡を吐いて大の字で寝転んでいます。



 これはマズいと感じ私は必死になって勇者様を落ち着かせ始めた。



「え、栄一様? あのお、まずは落ち着きませんか?」

「いえ、何。アルテミスの心にご家族以外の男性がいる事に我慢出来ず、思わず世界を滅ぼすところでした」



 二度目のおっふう。


 勇者様は意外と取り扱い注意な方でした。ですがここまでストレートの嫉妬をして頂けるとは恥ずかしくも少しだけ嬉しく思ってしまう。



 やっべー。



 勇者様の背後に『ズゴゴゴゴ』と謎の効果音が走っている気がします。もしや勇者様は本気でお怒りのご様子でしょうか?


 確か勇者様から以前聞いた話だと勇者様の故郷では神の怒りを生贄で鎮める筈。


 で、では僭越ながら私が生贄となってその身を勇者様に捧げましょう。ハーシェルの街では作法の心が無かったために勇者様に恥をかかせてしまいました。



 ここで私も名誉挽回といきましょう。



「生贄としてアルテミスの初めてを頂きましょう、なーんて。きゃーーーーーー」

「アルテミス? 私の話を聞いてくれていますか?」

「魔王を討伐したら、そのまま栄一様には魔王として君臨して頂きましょう。そして私は泣く泣く生贄となって栄一様にご賞味頂くのもアリ……完璧な計画です」

「聞こえてませんね? では愛しいひとの頸に吐息を吹きかけましょう。ふーーーーー」

「ふうわあああああああっはーーーーーーん」



 そんな茶番を繰り返していると他の三人から視線が集まる。


 オリビアそしてスカーレットの三人は軽蔑の眼差し私に向ける。わざとらしく「ジー」と口ずさんでジト目で煩悩全開の私を射抜いてくる。



 私は少しだけはしゃいでしまった様だ。



 そう言った周囲の反応に反省を促されてショボン肩を落とす私だったが、不意に後ろに気配を感じて振り向くとディアナの姿があった。彼女もまた二人と同じようにジト目を向けてくる。


 そして反省する私にトドメの一言を突き刺して来た。



「エーレが見たら幻滅すんだろうよ。よ、女王様」



 うぐう、何も言い返せません……。


 ディアナは毒から回復して静かに吐息を立てるエーレを指差してそう言い放った。



「す、すいません。以後気を付けます……」

「ジーーーーーーー」

「あ、あの、ディアナ? そろそろその目はやめません?」

「ジジーーーーーー、ババーーーーーー」



 出会った頃よりも三人と絆を深めることが出来たから、こう言った態度を取られると改めてショックを受けてしまう。と言うかディアナも然りげ無く「ババー」と悪口を言わないで下さい。



 本当にショックですから。


 この状況に耐えられなくなった私は強引に流れを変えようとポンと手を叩いた。それでも三人は軽蔑の目を止めようとはしない。


 ですが私は強引に話を進めるべく勇者様の方を振り返って口を開いた。


 私が子供の頃、ハーシェルの街に向かう道中で初めて目の当たりにした人の死について勇者様に語ろうと思う。あの時の私はまだ人が死ぬと言う意味を知らず、それが悲しい事だとは理解出来ていなかった。



 そんな無知で無垢な子供の頃の私の話を勇者様は真剣な眼差しで聞き入ってくれるのだった。

お読み頂いてありがとうございますm(_ _)m


また続きを読んでみたいと思って頂けたら嬉しいです。ブクマや評価ポイントなどを頂けたら執筆の糧となりますので、もし宜しければお願いいたします。

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