序章
これを読んだあなたへ。
二段目の机の鍵が、貯金箱の中にあります。引き出しの中を必ず見てください。
僕の机に書かれた罵倒の証拠写真と、僕の机に置かれた花と、先生やアイツらの録音テープが入っています。
叔父さん、叔母さん、ごめんなさい。でも気付いて欲しかった。どうか僕の苦しみを少しでいいから理解して欲しかった。
貴方たちが僕を愛していないことは見え透いたものでした。これは僕の考え抜いた末の苦肉の策です。アイツらを社会的に殺すにはこうするしかなかった。
これは遺書ではありません。
僕の命を賭けた復讐です。
文字通り書き殴った手紙は、あまりに汚い。正直なところ、読めたものじゃない。でも良いんだ。読んだお前に筆跡から伝わればいい、俺の怒りと苦しみが。
そうして俺は、手紙を分かりやすく机に置いて、立ち上がる。
向かう先は一つ、ただのベランダ。
全部失った子供が行き着くこの答えが単純だと言うなら、誰か早く助けてくれ。
本音と嘘でぐちゃぐちゃになった思考が、俺に何かを叫ばせてる。脳を揺らす金切声が自分の物とは思えない。ベランダの手すりに立つ俺は、冷静に錯乱していた。
思考と挙動の繋がりが完全に断たれている。
ぶあははは、ははは!はー!はー!高所恐怖症じゃなくて良かった!
目下で波打つ波紋は、ただのコンクリートだ。でも何故か俺には、池のように見えた。視界が滲んで、不安定に移ろう。
グッバイ、現世!
そうそう。現世があるなら来世もあっていいんじゃない!異世界転生、良い響きだよな。もうさ、大好きなんだよ、そういう小説。
何もなくなっちまった俺が祈ったって、いいだろ。許されるだろ。
俺は理不尽に殺されるんだ。
自分を自分で殺したんじゃない。言い聞かせないと、命を張った理由を失くしてしまいそうだから。
一瞬の浮遊感。
その後のことは記憶にない。ただの衝撃。体の全てを叩きつけるような圧力。記憶はそこで途切れてる。