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第140話.力こぶ枕


「えへへ。依依姉さまの力こぶ枕です」


 意味はよく分からないが、ふにゃふにゃと笑う瑞姫の可愛らしさはすさまじかった。しどけなく、可憐な姫の笑顔に、依依は心臓のあたりを打たれた心地になる。


「依依様。どうか私にも、左腕の力こぶのご加護を」


 やっぱり意味は分からないが、「どうぞ」と依依は差し出した。左腕の傷は、ほとんど跡が残らずに治っているので、桂才を載せたところで問題はない。

 感極まったように目を潤ませて、桂才も依依の力こぶに頭を預けてくる。


 二人分の体重を受け止めていても、お湯の中では軽く感じられた。


(なんだろう、これ……)


 不可思議極まれりな状況だったが、二人が嬉しそうにしているので、依依は余計な口を挟まないことにする。


「もう帰らなくちゃいけないなんて、悲しいです」

「そうですね」


 瑞姫の言葉に、依依はゆっくりと頷く。

 だが皇帝が、宮城を長く空けすぎるわけにはいかない。


 約一月後には、女官登用試験も控えている。年季が明けて、後宮を去る宮女や女官がいるので、大々的に入れ替わりの時期となるそうだ。

 林杏や明梅は後宮に残るという。後宮を出ても行く当てのないという二人は、今後も変わらず純花に仕える心積もりのようで、依依もほっとする。


 温かい湯に浸かって、依依が考えるのは純花のことである。


(純花はこれから、どうしたいのかしら)


 春。初めて会ったとき、後宮の片隅に見つけた純花はひとりで泣いていた。

 だが今は違う。彼女はもう孤独ではない。

 信頼できる女官や友人を得た。我が儘を堪えたり、相手のことを慮ったりと、少しずつ精神的な成長も見せている。


(純花と、話してみよう)


 彼女が妃であるから、依依は傍で見守るために武官であり続けている。

 しかし深玉の話では、上級妃であるからという理由で、一生涯を後宮で過ごすことはないとのことだった。飛傑も、そういった方法があると口にしていた。


 賢妃の称号を解かれたとき、純花は実家に戻る必要が出てくるかもしれない。

 そのとき、雄に作った貸しをうまく利用できれば――以前夢見たような、純花と姉妹で仲良く過ごす道が現実味を帯びてくるのではないだろうか。

 依依には、そんな考えが閃いていた。


(でも、もしもよ。もしも私が妃になったら……?)


 純花が晴れて自由の身になったとして、そのとき依依はどうなっているのだろう。

 若晴は、自分の肉体や心については、依依はじゅうぶん理解できていると評してくれた。しかし二人からの告白を受けた依依には、己の心が分からない。


 依依は、宇静や飛傑を好いているのだろうか。


 もちろん彼らに対して、好意を抱いてはいる。しかしそれは友愛や敬慕と名づけることはできても、恋愛のそれと同じものなのだろうか。

 どちらなら嬉しかったかと、飛傑は問うてきた。

 依依は初めて、自分の心を探るのが怖いと感じた。


 だが、それも当たり前のことだと思う。色恋とは無縁の生活を送ってきて、唐突に好意を告げられて、これでてきぱきと適応できるほうがおかしい。


(しかも相手は皇帝陛下と、将軍閣下なんだし)


 片方は、妹の夫でもあるのだ。


(う~……)


 考えすぎて、また逆上せそうになってきた。


「依依様。何か、悩んでらっしゃいますか?」


 よく気がつく瑞姫が、こてりと首を傾げてくる。




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