第125話.二人の連携
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「赤髪を見せびらかしたのは、もし作戦がうまくいかなかったとしても――皇帝陛下に、灼家への強い疑念を持たせるためね。自分たちを死地に追い込んだ灼家に、一矢報いたかったんでしょう? 健気なものだわ」
ぎりり、と歯噛みする頭目。
南王の不正を摘発したのは雄だ。
彼はもともと南王近辺の動きを怪しみ、目星をつけていたらしい。腐っても皇族である南王相手に慎重に調査を進めていたが、朝議の場で飛傑に焚きつけられて動き出した。
つまり、雄は南王一派から大きな恨みを買っていた。それで今回、悪党たちは髪を赤く染めたというわけである。
(まぁ、私はなんにも分かってなかったけど!)
披露したのは、隅から隅まで飛傑の推測だ。
てっきり灼家が裏切っているのだと思っていた依依だが、今は「最初から分かってました!」とばかりに威風堂々と言ってのけるのが大事であった。
政治情勢に明るくない依依では、灼家に恨みを持つのは誰かだなんて分かりようがなかったが、飛傑は違う。雄から捕縛できていない輩がいると報告を受けていたのもあり、早い段階で察しがついていたようだ。
「……はっ。まだ、自分たちの立場が理解できていないようだ。この人数差で、生きて帰れると思うのか?」
頭目が嘲笑ってくるが、余裕ぶっているだけだ。指先の震えが隠せていない。
「それはこちらの台詞だ。田舎の荒くれ者風情が」
宇静が淡々と言い返す。
「清叉軍など、所詮寄せ集めの集団だ。しかも今は軍どころか、お前たち二人しかいな」
もったいぶった口上を最後まで聞くのが面倒だったので、依依は手にした棍棒を目の前の男に投げつけていた。
狭い空間では棍棒を振るうより、素手のほうが機敏に動ける。同じ考えに至ったのか、宇静も長剣を鞘に戻している。
「き、妃のほうは殺すな! 生け捕りだ!」
混乱の中、頭目が叫ぶ。依依は斬りかかってくる男から距離を取ると、剣を持ち上げられるより早く顔に蹴りを入れる。斜めから雄叫びを上げて向かってくる相手には、くるりと身体を反転させて後ろ蹴りを喰らわせた。
「ぐっ、が!」
つんのめる相手の頭に、誤って仲間の男が木の棒を振り下ろす。暗闇の中では、無駄に人数が多いと相打ちになる危険がある。統率が取れていなければ尚更だ。
(ひとり! 二人! 三人!)
倒れた男たちは次々と鍾乳洞を転がっていく。宇静に重い拳と蹴りを叩き込まれた連中も完全に伸びていた。
「くそっ!」
忌々しげに舌打ちした頭目が、剣を抜いて近づいてくる。
喉元に迫る白刃を躱そうとしたところで、依依は転がる男の背中を踏んだ。
みぎゅっ、ぐええっ、と沓の裏で変な音が鳴る。
「わわっ」
足がもつれて後ろに倒れる。残った前髪が一本だけ切られる。
あわや転倒するかと思われた依依の肩を、他の攻撃をいなしながら片手で受け止めたのは宇静であった。
耳の後ろで、彼の呆れたような声がする。
「いちいち危なっかしいな、楊依依」
「それはどう、も!」
軽く笑った依依は、宇静の逞しい肩全体にのし掛かるように、ぐっと体重をかけた。
驚いたらしい宇静だが、依依の狙いが分かったのか、その場に片膝をつけて屈んでくれる。
「とりゃっ!」
宇静の肩に右手をついた依依は反動をつけ、勢いよく後方に宙返りする。頭目の二撃目は呆気なく宙を斬った。
大道芸人のように変幻自在な動きをして、一瞬で二人は立ち位置を入れ替える。
突然、頭上から降ってきた依依に、宇静と向かい合っていた男が対処できるはずもない。無防備な頭に、依依は強烈な回し蹴りを決めて着地する。
「うぐ!」
死角から現れた宇静に足を払われ、頭目は剣を落として尻餅をつく。その腹に、宇静は容赦ない蹴りを決めていた。
これで、他に立っている者はいなくなった。