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第124話.正体見破ったり


 帽子と頭巾を外し、赤い髪を解いた依依の姿は、双子の妹である純花と瓜二つである。


 深玉に借りた白のきらびやかな上衣は、妃らしい演出として役立ってくれた。髪結いや化粧の効力はないものの、暗い鍾乳洞であれば誤魔化しが効く。現に彼らも、依依を見てすぐに純花だと思い込んでいた。


「やれ!」


 頭目らしい男が手を振って叫ぶ。

 正面から二人の男が、そして背後から見張りを務めていた三人が、一斉に斬りかかってくる。


(躊躇なく死角から狙ってくるとは、まったく)


 嘆かわしいわね、と思う依依だが、口には出さない。

 ついでに振り向きもしなかった。傍らに立つ長身の男が、そちらについては対処すると分かっていたからだ。


 依依は横に構えた棍棒で、二人分の攻撃を受け止め、ひとりには即座に蹴りを食らわす。

 そんな彼女と背中合わせになり、背後の三人を呆気なく長剣で押し返したのは――ひとりだけ今さらのように、黒布を外した宇静である。


「お、お前……清叉将軍か!」


 今さら気がついた頭目が、唇をわななかせる。

 依依が考えたやや穴のある作戦を、実行可能な形で練り直したのは飛傑と宇静である。


 純花の振りをした依依を、黒布に変装した宇静が根城へと連れていく。黒布で顔を隠していたのが仇となり、見張り番たちも宇静を仲間だと誤認して素通りさせたのだ。

 本当は飛傑自身も参加したそうにしていたが、皇帝の身を危険に晒すわけにはいかなかった。


 そして頭目の男の顔に、依依は見覚えがあった。


「やっぱりあんたたちは、灼家の人間――の振りをした、南王の元配下なのね」


(正しくは、元南王の元配下、だけど)


 正体を言い当てられ、黒布たちは息を呑んでいる。

 頭目は、南王の側付きだった男だ。市の際に後宮に入り込み、妻の妹である瑞姫の女官を利用して、毒鳥の簪を回収しようとした人物である。


(名前は、んーと、なんだったかしら)


 まぁいいか、と依依は息を吐く。こんな男の名を知ったところで、どうしようもない。


 瑞姫の手元にあった簪。その贈り主は元を辿ると先王の妃であった馬唯バウェイだった。

 南王の母親である彼女は、現皇太后の立場を奪おうと画策していた。今際の母より事実を知らされた南王は、秘密裏に簪を回収しようとした。古物商である湘老閣しょうろうかくを利用し、後宮に侵入したのだ。


 どうして湘老閣が、ばれればただでは済まないと知りながら南王に協力したのかというと、彼らは以前から税金面で不正な優遇を受けていた。持ちつ持たれつの関係だったということだ。


 ひとつの不正を実現するに当たって、協力した人間は数多くいたのだろう。黒布を巻いて飛傑を襲ってきたのは、南王の統治下で甘い汁を吸ってきた連中だったのだ。

 南王は地位を失い出家した。その手足となった男についても地位を剥奪し、財産や土地を没収したと飛傑から聞いている。


 しかし満身創痍の男は、散り散りになっていた荒くれ者を集めると、逆転の一手を打とうとした。飛傑の身柄さえ手に入れられれば、朝廷との交渉の余地があると踏んだのだろう。

 こんな荒唐無稽な策を実行するような連中だ。頭目に付き従っているのは、もともと荒事を担当していただけの連中だと思われた。


「筋書きは、すべて分かっているわよ。髪を隠しながらも、一部の武官にはわざと目撃させた。顔に黒布を巻きつけているのは、その下に隠したいものがあると印象づけるためね」

「ち、違う。我々は……」

「その髪の毛、樹液で赤く染めたんでしょう?」


 必死に言い逃れようとする男の言葉を、依依は遮る。


「だって自分たちの素性を隠したいのなら、逆なのよ。《《目立つ赤い髪を黒く染めないとおかしいじゃない》》」


(昔の私のようにね)


 依依は赤い髪を隠すため、樹液を用いて黒くしていた。彼らが行ったのはその逆だ。

 黒い髪を、海娜か何かを使って赤く染めた。彼らは、自分たちのことを灼家の人間だと誤認してほしかったのだ。




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