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さいはてのゆうしゃ  作者: 藍染クロム
勇者になろう
4/4

第4話 「ゆうしゃしけん」

「少し、席を外していいか?」

「あぁ、いいっすよ。トイレっすか?」

「面白い顔を見つけてな」


 一人、列から離れ、他の列に居る赤髪に声を掛ける。


「やぁ。ヘリオス家の御令嬢」


 振り向くと、苛烈な紅い眼が見えた。


「誰よあんた」

「一介の勇者志望だ」


 少女は訝しげに、俺の体をつま先から頭まで見下ろす。


「あんたみたいな、ちっこいガキが?」

「そう言うお前はちっこい女だろう」

「は? 私に喧嘩を売りに来たの?」

「あの。失礼ですがどちら様でしょう」


 と、隣に居た色黒の男が割り込んでくる。恐らくは彼女の申請仲間。


「申し遅れたな、おれはハイドラ家の勇者だ。うちの一族ではヘリオス家の勇者は見かければ真っ先に喧嘩を売れと教えられていてな。無論おれも売りに来た」

「“無論”じゃないわよ」

「ハイ、ドラ家……?」


 ヘリオス家。この世界でヘリオス家と言えば、ハイドラ家に並び優秀な勇者を輩出する一族だ。雰囲気強めな赤髪は大体こいつら。勇者試験では一つの神器を奪い合う事になる為、大抵喧嘩になる。


「あの、失礼ですが……ハイドラの一族は、魔王の軍勢に滅ぼされたはずでは」

「あぁ、そうだな。おれ以外はな」


 彼は言葉に詰まる。


「……そう、ですか。……貴方の髪は、くすんだ藍色でも、無いですが」

「ハイドラの家は内縁だけで子を成す訳ではない。外の血を取り入れれば、違う髪の色も生まれるさ」

「そう……ですか」


 色黒の彼は、どうやら優しい気質らしい。ライバル家である俺に敵意も向けず、どころか俺を気遣う様子すらある。


「お前、名は何という」

「……私ですか? ナイトラですが」

「覚えておこう」

「ちょっと。勇者はこの私よ。聞くなら先に私の名前を聞きなさいよ」

「お前はヘリオスでいいし」


 赤髪がきゃんきゃん喚く。


「ここに来ているヘリオス家はお前らだけか? 出来れば、全員に喧嘩を売っていきたいのだが」

「スタンプラリー感覚で私たちに喧嘩を売っていくんじゃないわよ!」

「この会場に来ているのは、今回は私たちだけですね」


 あれ、いつもはもっと居るはずだが……となると、身内で争う事を嫌ったか。ならばその代表であるこの少女は、きっと只者ではないのだろう。

 赤髪の少女が俺を睨みつける。


「生き残りだか何だか知らないけどね。私の前に立ちはだかるなら容赦はしないわ」

「そうか。まぁ頑張れ」


 少女は、苛立たし気に色黒の男を見上げた。


「……ねぇナイトラ、こいつ今ここでのしちゃってもいいの?」

「お嬢様、本戦に勝ちあがって来ればその機会もありますから、それまでご辛抱ください。今ここで騒ぎを起こせば、私たちの体面が悪くなりますよ。最悪、出場停止も」


 不満げに少女は俺を見上げる。


「……だって。あんた、ちゃんと勝ち残ってきなさいよ。私にボコボコにされるためにね」

「お気遣いありがとうどざいます、ヘリオス家の可憐な御令嬢。それまではその綺麗なお肌に傷など付きませぬよう、十分にお気を付け下さいませ」


 少女はまた男を見上げる。


「……ナイトラ」

「ダメです。そんな顔してもダメですよ。……あっ、こら!」



 勇者試験。国が保有する神器に見合う、勇者を選ぶための試験。参加資格は女神に力を与えられたことであり、勇者は各々の力を使い、神器に選ばれる機会を得る為に争う。あと仲間。


「喧嘩売ってきた」

「なにしてんすか師匠」

「恒例行事だ。これをしないと落ち着かなくてな」

「はぁ。まぁ、受かるんならなんでもいいですけど」


 この国の神器は“太陽の剣”。勇者といえばこの剣であり、この剣を持つ者こそが本物の勇者。全ての勇者が憧れる神器の中の神器。その力は強力無比であり、一たび手に持てば、人類側の領地に恐れる魔物は居なくなる。“果ての森”の化け物どもは除く。

 俺たちはその聖剣に選ばれる機会を得る為に、勇者試験の会場に来ていた。四角い建物の前に俺たちの並ぶ列が伸びている。


「お師匠、えらく余裕っすね。受かる自信はあるんですか?」

「何も心配する事はない。我がハイドラ家には代々伝わる“勇者試験攻略書”がある。頭には叩きこんであるので、“太陽の剣”をこの手で掴むまでは目隠しで行ける」

「は、はぁ……それは頼もしいっすね」

「一つ目は簡単な体力測定だな。これには実は抜け道があってな、市販の魔石をいくつか組み合わせたこの特殊な道具を測定器にかざすと——」

「……いやズルじゃないですか」

「通れば何でもいい。勝てば勇者だ」

「う、うーん……いやあたしからは何も言えないっすけど……ってあれ? 確か第一試験って——」


 と、第一試験会場の扉が開き、列が動き出した。


「ほら、ぐちぐちと言っていないで行くぞ陰気女」

「フロウルです師匠。誰が陰気女だ。それより——」

「ふろーる」

「何回聞いてもフロールですね……まぁいいですけど。じゃなくて――」

「それでは前に進んでくださーい! 国定勇者承認、第一の試練“筆記テスト”を始めまーす!」

「「……」」


 無慈悲に列は扉へと吸い込まれていく。もうすぐ俺も吸い込まれる。


「配られてた説明書読みましたか師匠」

「頭に入ってたからもちろん読んでない」

「その情報いつのですか」

「お前らの感覚で言えば云十年前だな」


 筆記試験は、この世界での一般的な常識を問ういたって簡単な試験らしい。もちろん俺は今の時代の国王なんかは知らないし、他の常識も知らない。


「詰んだ。次回は頑張ろう」

「いやあの。その為にあたしも来てますから。承認された仲間からの補助は有りですから」

「やはり仲間との助け合いというのが大事だよな勇者は」


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