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【ある男の号哭】

私は許嫁を愛していました。

両親や親族を説得しいずれ迎えに行くつもりでした。


そう、つもり、でした。


気付けば彼女は私の元へ戻ってこない状態でした。

眠り続けて、神の子を産み落としました。


いつも背筋と共にぴんと伸びる耳が美しい所作の綺麗な許嫁でした。

私のくすんだ様な灰色の毛並みと違い美しい白銀を持つ人でした。

常に微笑みを絶やさない様な、そんな素敵なヒトでした。


きっと、もっと言葉が必要だったと知っていました。

私は口下手だから、彼女はわかってくれるから。

そんな風に甘え、逃げ続けていたのです。


気付けばいつの間にか両親が新しい許嫁を用意しようとしていました。

私は耐えられなかった。耐えられる筈が無かったのです。


人は、汚い。


それは他人の心が見えてしまうこの目のせいで嫌になるほど知っていたけれど。

まさか自分の身内でさえ、ここまで汚いとは思わなかったのです。


ええ、だっていつも傍に居てくれた彼女は、いつも綺麗だったから。


私は泣いて、泣いて。

泣いても彼女は帰ってこないけれど。

泣いて、泣いて。

彼女が眠ったまま、緩やかに衰弱していく様子を見ていたくなくて。

泣いて、泣いて。

彼女が死んでしまう頃には、私の目は光を映すこともできなくなっていました。


これでいい。

これていいんだ。


私は美しかった頃の彼女だけを覚えていればいい。

彼女はいつだって美しく微笑んでいたのだから。


彼女の選択は理解はできるのですが納得したくはないのです。

子孫の幸せより、彼女自身の幸せを願って欲しかった。

私との未来を、諦めないで欲しかった。


結果として彼女の家系は強力過ぎるほどの力を得たけれど。

結果として私たちは結ばれる事はなかったけれど。


私は彼女を愛する事だけは、辞めたくなかった。

けれど。


私はきっと、弱い人間なのですね。



いつしか私は、感情を、手放していた。


彼女が悲しそうな顔をした気がした。

気のせいだろうけれど。


この方がきっと、未来で同じ力を持った子が悩まなくて済むだろう。

そう結論づけて。


同じように諦めてしまうそんな未来を無くしてしまおう。

それが叶うと信じて。


この力に、感情は似合わない、と。

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