【ある女の切望】
魔法が使える人と使えない人。
私は後者でありました。
尊い血筋だけの、ただのヒトだったのです。
物心着く前からいる許嫁とは幸いな事に相思相愛でした。
ですが彼の家の人からは、良くは思われなかったのです。
彼の家は、前者、でしたから。
それが少しだけ、怖くて寂しかった。
彼はその目で他人の心の内を見ることができました。
私にはそんな力はありません。
それでも彼は私を愛してくれたから。
それだけで、良かったはずなのです。
彼の実家の圧力なのか、だんだん会える頻度が減っていって。
言葉を交わすことも少なくなってしまって。
仕方がないなんて気持ちを押し込めても、やはり心の汚い部分は消えてくれなくて。
こんな事では彼に合わせる顔がない、そう思いました。
そんな時でした。
それまで特別な力は何もないと思っておりました。
でも、どうやら違ったようです。
違った、のかも知れません。
彼のようなわかりやすく素晴らしい力ではなかったけれど。
自信はないのですが、この出会いは普通ではないと思うのです。
私は夢である方に出会いました。
そこで出会ったその方は大精霊か、神か、悪魔かわからないけれど。
少なくとも同じ生き物ではないようなそんな感覚でした。
真っ赤な毛色のその方は口元に笑顔を浮かべ私に手を差し伸べます。
私を差し出せば、私の家系に力をくださると、約束してくださったのです。
なら私は私を捧げましょう。
もう二度と、私達のような悲しい別れをしないで済むように。
なら私は祈りましょう。
きっと未来は、幸せを掴んでくれると信じて。
約束の地は夕焼け空の丘の上でした。
真っ赤な色はまるで血のようで少し怖いと思います。
私の白銀の毛並みに反射して、私まで真っ赤になったようでした。
あの方は元より真っ赤でしたので、特に変化はありません。
私だけが、血に染ったようでした。
それから私は、眠り続けたそうです。
自覚はないのですけれど、今立っているここは夢の中らしいので。
胎はあっという間に膨らんだそうです。
夢のような話ですね。
ええ、そちらは夢ではないらしいですけれど。
産まれたのは男児。
私とは違う深紅の毛並みを持つ特別な子だったそうです。
あの方と、同じ色でした。
直接見ることは叶わなかったけれど。
夢の世界で覗くことしかできないけれど。
抱き上げることは、できないけれど。
きっとこれで、良かったのです。
私はこの選択を間違ってないと思っていたいのですね。
自分にそう言い聞かせました。