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私の属する組織の幹部は、はっきり言って変人ばかりだ。

今五、六人いる彼らは(大体なのは連絡を取り合っていないので、増えていたり、下手したら減っているかも知れないから。)

皆それぞれ個性的な殺し方を持っていた。

私はその中で唯一血を流さないし苦しめて殺しもしない。

幹部の中では最も常識的な人間だと自負してる。

私の手にかかる者達は、幸せ立だったと思って欲しい。

時間はかかるが、いい死に方だと思う。

だって、私の手にかかって死ぬのですもの。


幹部の中には、死後の美しさを追い求める可笑しなやつがいた。

幹部の中ではそいつと一番話は合いそうだけど、それでもやはり同じしそうとは言えない。

死後など、どうでもいいのだ。

生前のおまけでしかないのだから。

問題は、どうやって死ぬかだと思う。

私は苦しめない。

私は後悔させない。

私は怖がらせない。

死ぬ寸前手にかけるものたちに私が与えるのは、抱えきれないほどの快感だ。


「良くきたねキムネコ。仕事の方は順調かい?」

「ええ、ボス。滞りなく。」

「それは良かった。君には期待してるんだ。他の幹部では任せられない仕事だからね。助かっているよ。」

「いいえ。それが仕事ですもの。」


ボスは白い歯を見せて笑うと、間髪入れずに目の前の机に茶封筒置く。

何か分かっているので、私は背後に立つ私の部下に合図をした。

彼女は緊張しながら一つ礼をして茶封筒を此方へ運ぶ。

それを受け取って中身を出す。

さっと見て眉をしかめた。


「多いですわね。」

「依頼が多く来るようになってね。此方に直接関係するものを優先させて入るのだが。」

すまないね、と言うボスに、私は小さく笑った。

「構いませんわ。仕事が多いことは、いいことですもの。」

「そうかい?沢山血が流れると言うことだ。」

「いいえ。沢山の者が、幸せに死ねると言うことです。」


私の手にかかった者は、幸せな死を約束される。

人は幸せに生き、幸せに死ぬのがいい。

でも幸せに死ぬのは難しい。

だから私が幸せな死を提供する。

素晴らしい仕事だ。


「君は、君の仕事をそういうふうに思ってるのかい?」

「はい、ボス。私は、人を助けるために人を殺しているのです。私に殺された者を救うために殺しているのですわ。」

「たいした信仰だ。」

「ええ。それが私の神ですもの。」


幸せな死を提供する。

私はこの悪魔しかいない組織の中の唯一の天使である。


しかしながら、この世は個人的な信仰の、個人的な神は認めないらしい。

多くの人が信仰する神も、私のいう神も、どちらも安らかな眠りを提供するのに、なぜか彼らは私のことを嫌う。

追う。

殺そうとする。

間違っていると口々に言って、傷付けて。

それを助けてくれたのがボスだった。


「どうです、ボス。私から最高の眠りを提供しましょうか。」

「………いや、まだやめてくよ。私が寝てしまったら、泣いてしまう子が居るからねえ。彼女みたいに」

そう言ったボスの声を掻き消すように、誰かの泣き声が聞こえた。

扉の向こうからでもわかる。

カナリアだ。


「ボス!!ボスゥ~!!」

「か、カナリアさん。謁見の許可が……」

「いいよ、イカル。キムネコもいいかい?」

「構いませんわ。」


幹部の中でも幼くて、私は勝手に妹のように想っている彼女は、

時たまこうして大号泣しながら入ってくる。

後を付いてきた部下のイカルがペコペコと此方に頭を下げる。

それを手で制して、気にしない旨を伝えた。


「カナリア。今度は如何したのかな?」

「ううっ……うっく……、あのね、あのねぇ……」

「あらあら。落ち着きなさいな、カナリア。ボスの前よ。」

「んっ……ひっく……キムネコ…?」

「ひさしぶり、かしら。」

「うん……ふぅ……ひっく…、」

目の前に立ち激しくしゃくり上げる彼女をイスに座ったままボスは抱きかかえ、背中をさすってあげている。

もう片方の手で流れる涙を拭う姿は、親と子供……いや、兄と妹か……?

「落ち着いたらでいい、話してごらん。」

「んん………あのね……死んじゃったの……」

「……何が?」

「ボスがくれてた部下が二人………ヒック……昨日の戦闘で……」


ボスはすっと此方を…、いや、私達の背後に立つイカルに向ける。

怒っているわけじゃ無い。

状況の報告を求めているようだ。


「は、え、っと…、昨晩の戦闘での死者は葛西と斉藤の二名です。」

「……そう。彼らがね。」

「……はい……。」

イカルも悔しげにくちびるを噛んだ。

おもに少数人数で形成されている組織の隊列は、二人減っただけでも違う。彼とて、亡くなった二人とは面識があり、戦場にともに立ってきたのだろう。

その名前を聞いて、カナリアはさらに激しく泣き出した。

上司の悲痛な叫びが、彼の心をさらに苦しめているのが分かった。

分かったが……


私には、如何することも出来ない。

死んだ後のことは、アフターサービスは、

私はあまり得意でないから。


「カナリア……寂しいかい?」

「うっく……、さみしい……」

「他は?どんな気持ち?」

「……っ、わかんない!でも……いたいの…、どこが痛いのかも分からないくらい、どこかがいたい!」

「……そうかい。」

そっと頭を撫でたボス。

彼は私をちらりと見ると、分かってるよね?と、視線で話し掛けてきた。

………まあ、分かってはいたが。


「分かりました。イカル、案内を。」

「は、はい。」

面倒くさい。

でも、やるしかないようだ。

私は、手に持った書類を傍らの彼女に渡す。

「ハチ。貴方は先に戻っていなさい。」

「はい。」

「カナリア、行きましょう。彼らに祈りましょう。」

本当は、あまりやりたくないのだが。前職を思い出すから。

涙目のカナリアは此方を振り返ると、震える声を絞り出した。

「……祈って………くれるの……?」

「貴方が、それを望むなら。」

「うん……うん……」

何度も首を振る。

必死なようだ。

その時弾けた涙が、ボスのスーツを濡らした。


「キムネコ。私も同行しても?」

「勿論ですわボス。皆で、祈りましょう。」



私の前職はある宗教の従事者。

キリスト教で言うシスターの役。

私は信者を殺した。

彼らがそれを望んだから。

神の御前で、快楽に浸りながら皆が微笑み天国へと行った。

神の御前で死ねたなら、きっと主のもとに導かれたはず。

私はその密やかな救う行為を高く認められ、ボスに買われた。

始めは、信者以外の人を救うことに抵抗があった。

しかし、これは布教だ。

我らが神はたとえ生前信仰を向けていなかった者だとしても、すべからず愛を与えてくださる。

それが、我らが神のお心だった。

だからわたしは、

今日も祈りを捧げながら人を殺していった。


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