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殺しに美的なセンスが有るとしたら、
それはどんなものだろうか。
命の喪失を飾り立てるのは、些か可笑しな話だが、死ぬときくらいは美しく、そう思う者も多いだろう。
だから俺は美しく殺す。
美女も子供もおっさんも、
皆それぞれにもった美しさを飾り立て、強調して。
昨日殺したのは美しい瞳の女だった。
だから眼球をくり抜いて、その胸の上に置いてきた。
今日殺したのは四十代半ばのおっさんだった。
疲れ切ったその顔に浮かぶ家族への愛を見たから、胸ポケットの家族写真をその手に握らせた。
美しく殺すのは礼儀であり、
俺にとっての仕事のルール。絶対に破れない仕事の仕方の一つだった。
勿論、沢山いるときはそうはいかない。
だからそう言うときは大分大雑把だが、花びらを散らしたり、宝石を転がしたり。
そんなことをしてきた。
それを馬鹿にしたのは美しさの欠片もない小娘だった。
「それに、何の意味があるの?」
しゃあしゃあとそう言ってきたときは、思わず殴りそうになった。
同じ幹部とは言え、彼女と俺だと仕事のスタイルも、得意としている殺しも全然違うことは分かっている。
彼女は、幹部の中でも特質して仕事が上手く、そして飛び抜けて頭がおかしかった。
幹部になったのは俺の方が先、
こいつと初めて仕事を共にしたときは、こんな女が生きていていいのかと本気で重った。
仕事で、とんでもない頭の可笑しな奴らを手にかけたことは五万とある。
だが、それに負けずどころか勝る勢いでこいつは頭がおかしかった。
ガキを気取ったかのような言葉遣いと、会話文。
粗い仕事に残忍な殺し。
そこには俺が美徳とする美しさの欠片もなく、
俺は一度仕事を同じくしただけで、そいつとそいつの仕事の仕方を嫌いになった。
しかし、命令とあれば顔を合わせなくてはいけないのが誰かの犬として飼われている者の定め。
あれから何度かともに仕事をした。
勿論、俺はずっと顔をしかめていたが。
「お疲れさま。フィーさん」
「ああ。お前もな、カナリア。」
「フィーさんが殆どやってくれたから、私何もしてないよ。」
「そんなこと無い。」
「あるよ。」
あー、うぜえ。
黙っていて欲しい。ただでさえ上手くいかなくてイラついているのだから。
こいつがいると、いつも集中が出来ない。
今日だって、いつもより2ミリ深くさして殺してしまった。
さしすぎると、出血が多く美しくないのに。
「でも、フィーさんほんと上手にだよね。」
「あ?」
「私、いっつも服汚してイカルに怒られるの。でも、フィーさん全然汚れてない。」
「……汚れるのいやだろ。」
「そりゃあ、いやだけどさあ。」
気が付いたら真っ赤だよ。と、カナリアは、困ったように肩をすくめた。
時々本社ですれ違うとき、鼻血でも出したのかと言うくらい服を真っ赤にしていたのは、なるほど下手くそだったのか。
たしかに、ともに仕事をしているときあまりあちらが殺すことはないが。
だとしても、知らなかった。
「…………それはあれだ。さしすぎだ。」
「さしすぎ?」
「動脈傷付けすぎてるって事だ。」
「へぇ。動脈ってのがあるの?」
「……ああ、詳しくはボスから習え。」
「ボス!?ボスは知ってるの?」
知ってるのなにもってやつだ。
ボスの殺しはヤバい。
いつ見ても惚れ惚れするど美しい。
だからこそ、大人しく下についているのだが。
「あの人は、上手だろ。」
「む……それは分かる。ボスはとっても強い。私殺されかけたもん。」
「なんだ。お前もか。」
「幹部にするとか言われても分からなかったから殺そうとしたら逆にね。」
「ああ………。幹部は皆そうなのか?」
「ん~。如何だろうね。」
兎に角、怖いね。と言うカナリアに俺は久しく浮かべていなかった笑みを浮かべた。
他の幹部との繋がりなぞなかったこの組織で、
ほんの少しだけ彼女のことが理解できたような気がしたから。
「あー、お腹すいた。イカル~焼き肉行こ~。」
「え?あ、はい。」
「カルビ食べたいね、カルビ。」
「車回しますので少々お待ちください。」
「あー、いいよ。私も来るままで歩くし。じゃあね~フィーさん。」
「………ああ。」
前言撤回。
やっぱあいつの事は理解できない。
殺しの後に、焼き肉行くか?普通。
どうやら彼女はやっぱり狂人で
自分とは相容れないらしい。
***
こんにちは。まりりあです。
これを、読んでくれている人はいるのでしょうか。
なかなか放送ワードギリギリの言葉が出てきますが、まあ、おおらかな心で許してください。
あんまり血生臭い話は好きではないので、難しいですね。
では、また次回。