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天上の菫〜銀竜の末娘は転生者〜  作者: 湯かけほうれん草
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大父様


 次姉の淹れるお茶をじっとりと観察しながらも、怪我の経緯や完治までの流れを説明した。

 くゆるお茶の香りが鼻腔をくすぐり、薬草茶だと気付く。そんな私から事の次第を聞き終えた家族は、ものの見事に面白い顔になっていたが。


「まさか、そっちは思い浮かばなかった。」

 と告げるのは長兄。


「私達はみな、リアは連れ去られるか、食べられるかの二択だとおもっていたからねぇ。」と長姉が。


「リアは大父様に気に入られ、それが私達にとっては仇になると思っていましたが、そっちの方でしたか..。」と次姉が。


「私が大父様なら絶対そのまま連れ去るのに。」とひとりごちるのが次兄。


 おい。いろいろ突っ込みどころ満載で、薬草茶をむせそうになった。そして次兄、貴方が大父様でなくて本当に良かったと心から思う。


「リアは、大父様をどう思ったんだい?」

 その問いかけをしたのは父。


 私は自信を持って応えた。

「おおとうさま、だいすきです!」

 その一言に、兄姉達は絶句し、次兄が早急に対策せねばと呟いた気がした。


「おおかあさまにも、お会いしました。」

「大母様に?!」

 私の言葉に一際大きな声をあげたのは父。コクリと頷くと、さぞ驚いたのか目をこれでもかと丸くしていた。


「大母様?」

 呟いた長姉は考え込んでいる様だった。その顔はまるで奇抜な手を打つ長兄相手にボードゲームをしている時の顔によく似ていた。

「リア、大母様というのは..」

 次姉は驚いた様に私に尋ねるが、次の言葉をどう出せば良いのか分からないのか、落ち着かない手付きで扇を撫でている。

 長兄はこちらを見て何かを考えている様だったし、次兄は次兄で同じく考え込んでいた。



「ねえ、レイ。大父様の事はこれで家族のみんなが知るところになったから、もう家族間の箝口令はなくなる、という事で良かったのよね?」

 母が伺う様にして見上げるのは、レイ、と呼ばれた父。レイケム・ダルガニア。ダルガニア家の当主だ。


「うむ..、そうなのだけどねぇ。」

 困った様に考える当主の父。何か問題なのかと2人に尋ねれば、その訳を教えてくれた。



 曰く、5歳を迎えていない子がいる段階では、大父様に関して箝口令が敷かれるとのこと。家族全員が大父様にご挨拶した上でなら、箝口令は無くす。ただ、家族以外では箝口令続行。


 それが今迄守り続けていた約束だったらしい。だが、此処で新たな問題発生。


 突然初めて聞く「大母様」のワード。

 曰く、レイシアに詳しい話を聞きたいが、大父様に関する家族間の箝口令は今日レイシアが挨拶に伺った事で無くなったが、大母様については聞いても良いものか分からない、との事。


 ふむ、と少し考えて、家族の顔を見回す。

 一様に大変気になるが、長く守り続けたしきたりを破ることは出来ないといった、非常に残念そうな表情を浮かべている。


 そういうことなら、と一度微笑んだ。


「..おおとうさまの、シンデンには、」

 そう口を開けば家族全員の視線が刺さった。おい、マジかよコイツ喋るのかよ。といった視線もある。

..まあ、主に長兄だったが。


「ちいさな、しろいお花のひろばがありまして、」


「そのまんなかに、けだかき、うつくしいかたがねむられていました。」

 そこまで言うと、家族全員が察した様だった。


「そ、その、気高き美しい方は、小さな白い花が咲く広場に眠られていたのだね!」

 そう口を切るのは父。母や兄姉達は続く言葉を待っている様だった。


「はい。そのかたがねむられているばしよに、しろいセキヒがあり、ちいさなスミレの花がそえられて...」


「そこには、"ヴァイオレット"と、しるされていました。」


 そこまで言うと、息を飲む音が聞こえた。


「わたしの、となりのかたは、

やさしいこえで"ヴィオ"と、よんでいました。」


 父は瞳を輝かせ、母や次姉はその神殿の美しい情景と、死してもなお愛する者の、その名を呼ぶ片割れの姿に、心打たれたように涙を浮かべる。

 次兄は、その神殿での情景に胸を押さえ、長兄や長姉は私の言葉に頷き、続く言葉を待っているようだった。


「わたしが、ヴァイオレットさまに、ごあいさつをして、またあそびにきていいかとたずねたら..」


「..っ尋ねたら?!」

 そう声をあげたのは父。


 ベールに包まれている自分の先祖への新たな事実に胸を躍らせているのか、その瞳はきらきらと輝いている。そんな父に一度だけ微笑んだ。


「まわりにさいていた、しろい、ちいさな花が、やさしくゆれたのです。まるで、"また、おいで"といっているように。」


「ーーーーーッ!!!」

ダンッッ!!!


 感極まって机を一度打ち付けた父。

 まるで詩のような美しい情景に、溢れ出る涙を抑えることを忘れてハンカチを握りしめている母、次姉は扇を開くと顔を隠すように肩を震わせて泣いていた。長兄は驚きのあまり目を見開き、長姉もまんまるとその瞳の色を煌めかせ、次兄は目を瞑り、亡くなった大母様と、いつまでもその大母様を愛し続ける大父様の事を思い浮かべているようだった。


「ーーッ、リア、本当にありがとう!!」

 口を切ったのは涙を決壊させ溢れさせている父。


「ああ!いい機会だ..。リア、そして、皆も聞きなさい。我が家の話だ。


ダルガニア家の1番初めの御先祖様の2人はとても仲睦まじくて、すぐに子どもが生まれたんだ。その子が大きくなり、また子どもを生む、とても豊かで幸せだったそうだが、ある時に御先祖様の1人がね、..亡くなられたんだ。仕方のない事だった、天寿を全うしたんだ。愛する者を失ったもう1人の御先祖様は子や孫、曾孫達と暮らしていたんだけど、その子達も年老いて亡くなって...、いつしか、子孫達に、次第に恐れられてしまったんだよ..。


それで、あの地に神殿を建てるように命ずると、愛する者の墓を一緒に持って、お隠れになってしまわれたんだ。

私達末裔に今なお庇護をもたらしたまま、御先祖様はたった1人で神殿に暮らしているんだ..。

それでも、ダルガニア家の大切な御先祖様であるから、何とか関係を持ちたい当主も居てね。御先祖様とその当時の当主で取り決めになった事が、"5歳になった子を挨拶に伺わせる"という事だ。」


「..まあ、そんな背景が..。」

 ハンカチを握り父に尋ねる母。


「本当は当主になった者に伝えられる話なんだが、今回は仕方ないだろう。こうしてリアから新たな話を聞くことが出来たのだから、皆で共有した方が良い。..だが、本当に大母様の..」そこまで言って目を抑える父。


「おおとうさまは、とてもおやさしかったです。」


「けがをなおしてくれて、なだれから2どもたすけてくれて、おべんとうをいっしょにたべて、おおかあさまのおはなしをしてくれて、かえりはくらくなってしまったので、とちゅうまでおくってくれました。」


「「送ってもらったの?!!」」

「大母様のお話も聞けたのかい?!」

「なんということだ、リアとお弁当を?!」

「「まあ!!!」」


 上から順に

 長兄長姉、

 父、

 次兄、

 次姉と母 である。

 1人だけ可笑しなことを言った気がするが、ともかく全員に返事をするようににこりと微笑んで頷いた。


「本当にリアが気に入られてる。」と糸目を可笑しそうにさらに細めるのが長兄。長姉も「ここまでだとは..」と呟いていた。母と次姉に至っては「大切にしていただいたのね。」と嬉しそうに微笑んでくれた。

 父は詳細を知りたそうにそわそわしていたし、次兄も何かを狙うかのようにこちらをじっとりと見つめていた。



「あ!!」

 そして、思い出したことがひとつ。


「おおとうさまから、おことばがあります。」

 そう告げれば、ピシリと空気が固まった。



「"つりばしを、かっこたるハシにつくりかえよ"とのことです。」

 そうして、外套の中に仕舞い込んでいたソレを丁寧に取り出して、家族の前に差し出した。



 私の手にあるものと、その言葉に、今度こそ屋敷が絶叫で揺れた。





--------------------



「だから、しっぽをべしっ!!ってしたら、ウロコがとんで、おおとうさまがひろえっていったんです。」


「まって、私にはリアがなんて言っているか分からない。」

 長姉が頭を抱えて机に突っ伏した。

「剥いで帰ってきたわけじゃないよね?」そう告げるのは長兄。なんと失礼な。

 次兄は驚きを隠せない表情だが、「もう一度、べしっ!って単語言ってくれない?」とか意味不明なお願いをしてきたし、父は鱗を見せた時点で泡を吹きそうな勢いで卒倒してしまったので、母と次姉が介抱している。


「たぶん、小さい子どもの言う事だからと、真に受けられず、"吊り橋を確固たる橋に作り替えろ。"という命令が聞き届けられないかもしれない、って思ったんじゃないかな。」

 真面目に考える事にしたのか、長兄が顎を触りながら推察していた。


 それだ!!

 強く頷いておく。

「ああ、やっぱりそうだよねぇ。」

 長兄が微笑んだ。


「あ!!!」


「今度はなに?!」

 長姉がギュンッと振り仰いできた。

 ああ、間違えてしまった。間違いを訂正するように、もじもじとしてしまう。


「あ、あの。」


「しっぽ、じゃなかったです。オです。」

「尾?」

長兄が怪訝な顔をした。

「はい。」

「しっぽじゃなくて、尾なの?」

そのまま、首を傾げた長兄。

「しっぽといったら、またおおとうさまにおこられます。」


 その言葉に意識を失っていたはずの父が覚醒した。


「怒らせたのかい?!!」


 横になったはずのソファーから身体を起こしてこちらを凝視していた。

「ひえっ..」

 その目は血走っていたのだ。



 なんとか、こうこうこれこれで、と説明し終えると、家族全員が微妙な顔をした。


「つまり、血を流した事に怒った大父様が咆哮して、雪崩がおきたけど、雪崩から助けてくれて、怪我も治してくれたんだね。」


 そうだ。

 長兄が呆れたように尋ねるが、合っているので頷く。


「でも、雪崩から助けてくれた大父様を怒らせて咆哮させてしまったが故に、2度目の雪崩と。」


 うむ。


「その2度目の雪崩から助けるために、咥えられて神殿にひとっ飛び。」


 うむ。


「神殿で大父様だと知って、なぜか大喧嘩。」


 うむ。だって、自分だってぎゃおぎゃお煩かったのに、私に煩いと言うんだもの。


「仲直りして、大母様のお墓に挨拶をして、送ってもらいつつ、命令と共にしっぽからウロコを頂いたと。」


 うむ、だが少し違う。


「しっぽではなくて、オです。」

「ああ、尾だね。」


 うむ、そうだ。


「リア、」

 長兄にそう呼ばれて振り仰げば、溜息をつかれた。



「君はお馬鹿さんなのかい。」

 なっ......!!!


 家族全員呆れたようにこちらを見つめているが、「まあ、リアだし仕方ないよね。」の一言を口々に呟いている。大父様と大喧嘩したという段階で、父は考える事を放棄したらしい。悟ったような表情になっていたので、申し訳ないと思う。


「大父様でさえ振り回して帰ってきたのか。」

 長兄の至極呆れたような言葉に、「アルにいさまにいわれたくありません!」と返せば、遠い目をした父から「お前達は本当に似ているよ。」と突っ込まれてしまった。


ああ、スルメイカうまい。

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