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天上の菫〜銀竜の末娘は転生者〜  作者: 湯かけほうれん草
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真相


 それから、持ってきた"2人分"のお弁当を広げ、大父様と食べた。大父様は弁当をひっくり返して、料理を丸ごと口に放り込もうとしていたので、ひとつひとつ説明して口に入れた。その最中、大父様と大母様の馴れ初めを聞き、驚愕したりした。寝物語に聞かされていたあの建国神話の登場人物達だったからだ。


 いや、本当は知っていた。何となく察してはいたのだ。ダルガニア家が他所から何と思われているのか、それ故に察しはしていたが、まさか本当に竜の末裔だとは思わなかったのだ。

 なんせ自分は人間である。それに対して、大父様は竜だ。遺伝子組換えどころの話ではない。


 何が起こって竜が人になるのだ、遺伝子爆発でもしたのか。


 勿論、寝物語に聞かされた建国神話は、ダルガニア家に関係するということは知っていた。古くから続く、ましてや建国時からある家なんてだいぶ数が限られ、その中でも王都ではなく飛び抜けて遠い地に住む家だ。どこまでが真実でどこまでが嘘か分からないその建国神話に、ダルガニア家が若干関係していたとしても、その中に登場する銀竜王と幼き少女が大父様と大母様だとは思わなかったのだ。


 目を丸くして混乱している私に、大父様はいちから説明してくれる事を約束して、今日は遅いからもう帰れと言ってきた。

 気になりすぎて帰れない、と言えば呆れられた。それでもがぷり、と大父様に咥えられて先程までいた神殿の祭壇へと連れ戻されたが。


「やくそく、ですよ?」

「分カッテオル。」

「ぜったい、ですからね?」

「クドイ。」

「もういちど、キバをさわってもいいですか?」

「...ナラヌ。」

「おおとうさまは、どうしてそんなにかわいいのでしょうか..。」

 べしべしと祭壇の床を叩く大父様の姿に、また微笑みが出そうだった。



「おおかあさまにも、おおとうさまにもまた会いにきます。」

「..ヴィオモ、喜ブ。」

「ヴィオおおかあさま"も"よろこんでくれるの、とてもうれしいです。」

「......。」

「おおとうさま、わたしはレイシアです。ほかのかぞくからは"リア"と、よばれています。なので、おおとうさまと、おおかあさまからも名前でよんでもらえるとうれしいです。」


 その言葉に目を丸くして、凝視された。

 濃紫の瞳に映るのは幼い子ども。大父様は何か思案していたようだったが、グゥ..と唸り、溜息を吐くと口を開いた。


「...リア。」


「はい、おおとうさま。」

 その響きに心からの微笑みを浮かべて返事をした。




 --------------------



「ひゃあああああ!!!!」


 ただ今上空。

 大父様にがぷりと咥えられたまま、空を飛んでいた。


 あたりはすっかり暗くなり、まるで夕闇を泳いでいるような心地になる。空の狭間に落とされて、満点の星空を泳ぎ、雪原が月の明かりを反射する。これぞ幻想的というやつではないか。そんな事を思いながら、この空の旅を楽しむ。なんせ先程から私を怖がらせようと垂直上昇、垂直落下を繰り返す大父様なのだ。可愛すぎる。悲鳴をあげながらも、楽しんでしまっているのが現状で、私を咥えている大父様の口から「グゥ..」と唸り声までするのだから。



 何がどうしてこうなったかというと、神殿を出る時、あたりはもう闇に包まれようとしている時刻だったのだ。一歩間違えれば崖下に転落するであろう山の地形のこともあり、「きょうはかえりません。」と告げたら、顔を顰めた大父様に「ナラヌ!」と怒られた。


「でも、まっくらになってしまいます。」と反論すれば、空を見上げ、グルグルと威嚇する様に喉を鳴らした大父様。同じ様に空を見上げてみれば星がちらほらと見えていた。


 ーー綺麗。

 夜になればレイシアの様な幼子はベッドに入らないければならない。こうして星空を眺めるなんて、格別な事なのだ。


「リア。」

 その響きに大父様を振り仰いだ。


 眼前に大父様の口が見える。それが次第に大きくなると、私を包んだ。


 ーーがぷり。


「.......。たべるなら、わたしがもっとおおきくなってからにしてください。」

「グウウ!!」

「じょうだんです。おくってくれるんですか?」

 ふふ、と微笑んで尋ねれば「グゥ..」と、まるで致し方ない。とでも言いたげに唸られた。


 神殿を飛び立った大父様は、暫く空の旅を堪能させてくれたが、私のあまりの喜び様に何か思い至ったらしく、垂直上昇、垂直落下ときた。それで冒頭に戻る。

 その意図も何となく分かったので、私にとっては可愛い事この上ないのだが。


 そんな戯れを大父様と繰り返し、大きな谷の所まで戻った様だった。

 谷の向こう側に私を降すと、「ナゼ怖ガラヌ!!」と怒られてしまった。


「なぜ、こわいとおもわないといけないんですか?」

「普通ハ泣キ喚クデアロウ!!」

「おおとうさま。」

 大父様の大声を落ち着かせる様に、じっと見上げる。


「ナ、何ダ。」

「わたし、ヴィオおおかあさまになかなおりしたと、いってしまいましたので、いま、けんかしてはだめだとおもいます。」

「グウゥッ!!」

 何故かまたその長い尾をべしべし雪原に打ち付けているが、大父様は私を悶絶させたいのか?ここまでくると最早ワザととしか思えない。


「おおとうさま、またあそびにいきます。

 それまでに、つりばしをなおして、こんどはケガしないでいきます。それまでまっていてくれますか?」


「......御主ノ様ナ小娘ガ、吊リ橋ヲ直シタイト言ッテモ聞キ遂ゲラレナイダロウ。」

「ダルガニアのみんなは、ガンコなのしってます?」

 その言葉に思い当たる節があったのか、大父様は眉を寄せた。呆れた様に溜息を吐き、己の尾を一度強く打ち付けると、星空のもとその白銀の鱗がキラキラと舞った。


「拾エ。」


 驚きを隠せないまま、言われた通りに鱗を集める。大きな鱗は雪原の上で月に照らされ、青みがかる程の美しい白銀の色を光らせていた。


「ぜんぶで5まい。」

「御主二ヤル。ソレヲ持チ、我ノ命令ヲ伝エヨ。"吊リ橋ヲ確固タル橋二変エヨ。"トナ。


 ..ソノ鱗ハ、要ラヌ。御主ノ兄姉ト分ケロ。」


 ーーッ!!

「おおとうさま、ありがとう。」

 ぺこりと頭を下げて、感謝の意を述べる。

 大父様は満足気にフンッと、鼻息を吹いていた。


 ..ところで、

「おおとうさま、しっぽ、いたくないですか?」

「シッポ?!尾ト言エ!!」


 最後の最後まで締まらなかった事にグルグル唸り、その辺の魔物と同じにするな、とか、シッポと言うな!とか言われてしまった。それでも、痛くなくてよかったと微笑めば、呆れた様に見つめられた。


 ほら、もう行け、とばかりに私の背中をその大きな頭で押す。にこりと微笑んでその頭に抱き付き、ここぞとばかりにグリグリなすなす堪能させてもらった。



 大きな鱗を抱えて雪原を下りながら、最後まで手を振り、何度も振り返る。


 暗闇の中にその白銀の鱗が光り、空に登って行ったのに気付いて、今度こそしっかり前を見て足を早める。



 ああ、今日はとても気分が良い。


 早く帰って、屋敷のみんなに話したかった。




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