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天上の菫〜銀竜の末娘は転生者〜  作者: 湯かけほうれん草
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神殿

 


「ああ、かわいい。かわいいというのは、こういうキモチだったんですね。どうしましょう。とっても、かわいいです。」


 そう言いながら竜の白銀の鱗を優しく撫でる。大きな身体は横たわり、はるか頭上にあった筈の大きな頭は、今は神殿の祭壇の床へと項垂れていた。


ーー此処は神殿。


 竜のあまりの可愛らしさに爆発し叫んだ私だったが、思っていた反応と違ったらしく、そのすぐ後に竜が咆哮したのだ。

 そして、再度雪崩が起こったので、竜が私を咥えて助けてくれたというわけだ。


「御主、我ヲ馬鹿ニシテオロウ..。」

「ばかにしてません。かわいいといっているだけです。」

「ソレヲ馬鹿ニシテイル言ッテオル。」

 竜はまたその長い尾をべしべしと床に叩きつけていたが、その姿を見る度に身体の奥底から何かが湧き上がる様に気持ちが溢れる。

 つまり、一層可愛いくて可愛くて、可愛いのだ。

「ああ、だめ、そんなかわいいことしないでください。」

 そこまで言って、既視感を覚える。

 先程から竜に言っている言葉は、常日頃次兄フレザックから言われ続けている言葉ではないか?と。

 そこまで思い至って、所詮私もダルガニア家の1人...いや、この竜が可愛らしすぎるのだ。きっと。それ故、私はここまで悶絶する訳で、きっと他者も同様に思う筈。


 不貞腐れた様にそっぽを向いて項垂れる竜。その愛らしさに、口元がふよふよと歪むが、かぶりを振って項垂れている頭に近付いた。


「さきほどは、たすけてくださってありがとう。手のケガも、すっかりなおりました。ありがとう。」


 ぺこり、と頭を下げて改めてお礼を告げた。

 竜はその眼光を光らせ、ジロリと睨んできたが、可愛過ぎるので顔が歪みそうになる。


「血ハ、許セナカッタガ、..雪崩ハ本望デハナイ。」

 フイ..と、そっぽを向く竜。

「おあいこ、ではないですね。たくさんたすけていただき、めざしていたところまで、つれてきていただいたのですから。」

 その言葉にフンッと鼻息を吹き、頷く姿に、またうずうずと湧き上がるものを感じたが、必死に堪える。

「つかぬことをききますが、このシンデンに、ダルガニアのものがすんでいるのですが..、しりませんか?」

 その言葉に一度だけこちらを見て、呆れた様にそっぽを向いた。


「..私ダ。」


 ............。


「はい?」


「..ダカラッ!!私ダト言ッタノダッ!!」

 続けざまに、何度も言わせるな!と怒られ、そのあまりの大きな声に耳鳴りがしたが、それどころではない。

「あなたさま、ですか?」

「..アナタ様デハナイ。」

「ああ、ですよね。5才にしてみみのちょうしが..」

「大父様ダ。」

「はい?」


「ーーーッおおとうさま?!!!」

「煩イ。静カニシロ。」

「おおとうさまのほうが!なんばいも!うるさかったです!!」

「ナンダト?!」

「なだれのときも!そのまえも!

 ぎゃおーーーーー!!!!ってうるさかったです!わたしのはたった5才の子どものわめきごえです!!」

「此奴..!大人シクスレバ、ズケズケト!!」

 グルグルと喉を鳴らして威嚇する竜..もとい大父様。

「おおとうさま、しずかにしてください。また、なだれがおきます。」

 そうして指を口の前に立てて、シーッ、とすれば触発されたのか、また咆哮をあげてキレた。

「此処ガ一番高イ場所ダッ!!雪崩ハモウ起キヌ!!」

「ああ、それならよかったです。」

 でも、お耳が痛いのでシーッでお願いします。と続ければ、呆れた様に向こう側を向いてしまった。


「......。おこりました?

 ごめんなさい。..びっくりしたんです。」


 そっと声をかけてみるが、よっぽど怒ったのか反応がない。仕方ない、続けよう。


「おおとうさま、はじめまして。わたしは、レイシア・ダルガニアともうします。5才になりました。5才にならないと会えないという、おおとうさまに会うのをたのしみにしていました。おこらせてしまってごめんなさい。たくさん、たすけてくださってありがとう。」


 どんな挨拶をしようかずっと考えていた。大父様に会うのを楽しみにしていたのは本当だ。何せ、詳細を誰も教えてくれず、5歳を迎えなければ会う事も許されない。正直、会って知りたかったのだ。

 会ってみれば、家族の話と全く違う、とても可愛らしい人だったのは予想外だったが。

 口上を述べている時なんて、大父様のその耳がピクピクと動いていたのに気付いて、身体の奥底でまた何かが爆発して溢れ出そうだったのだから。


「.....カ。」


 そんなことを考えていたから、大父様の言葉を聞きそびれてしまったようだった。

「ごめんなさい、ききそびれてしまいました。..なんでしたか?」


 尚も、向こう側を向いたままで、私の言葉に黙ってしまった大父様。しまった。失礼過ぎたか..


「...私ハ、竜ダ。」

 それは、先程よりも随分小さな声だった。

「はい。」


「..御主達ノ大父様デモアル。」

「はい。」


「.......怖ク、..無イノカ?」


 何故だかその声は、竜でも、大父様の声でも無い様な気がした。今日初めて会って、初めて言葉を交わしたにも関わらず、そんな事を思うなんてと、不思議な気持ちになった。

 正直の所驚きはしたが、今日の僅かな関わりでさえ私は、目の前の大父様が怖いとは思えなかった。もっと怖いものを知っているからか..、もっと汚いものを知っているからか。


「..おこりませんか?」

「..怒ラヌ。」

「ぜったいに?」

「...絶対ダ。」

「しょうじきに、こたえても」

「ッ本心ヲ言ッテミセヨ!!」

 痺れを切らした様に声を張り上げた大父様。


「こわくなんかないです。」


 一度だけピクリと動いた耳。こちらの言葉を取りこぼさない様にピンと張り立てて、耳を向けている。その姿がどうしても愛おしいと思う。


「おおとうさま、わたしは5才です。」

「......。」


「でも、わたしは、にんげんです。」

「.......。」


「...にんげんは、おぞましくないですか?」



 その言葉に勢い良くこちらを振り向いた竜..大父様は、その濃紫の瞳をこれでもかと見開き、こちらを凝視していた。


「おおとうさま、きょうはじめておあいしましたが、わたし、おおとうさまのことがすきです。」

「......。」

「おおとうさまが、おおとうさまで、うれしいです。」

「....変ナ奴ダ。」

「しつれいですね、でも、うれしいのですから、きっとあたっているとおもいます。」

「......御主ノ眼ハ、私ト同ジナノダナ。」

 その言葉にふわりと微笑んだ。

「おそろい、ですね。」


 ダルガニア家では必ず、白銀の髪か紫の瞳を持って生まれる。兄姉達がそうであるように、必ずどちらかを持って生まれるのだ。直系の末裔ほど顕著に現れ、分家になるとその色はより薄まる。

 代々続く毎に、髪の色や瞳の色は薄れてきてはいるが、私レイシアはダルガニア家で唯一、濃紫の瞳と、青みがかる程の白銀の髪を併せ持って生まれていた。

 ...まるで目の前の竜のように。


「オ揃イ...ックックックッ!!面白イ事ヲ..ッハッハ!」

「おそろい、うれしいですよ。」

「良イダロウ!御主ナラ、許ス。"ヴィオ"モ笑ウデアロウ。」

「ヴィオ..、もしかして、おおかあさまですか?」

「来イ。」

 そう言うと、大父様はその大きな身体を起こし、神殿の奥に続く廊下を進む。その後をついていくと、白い小さな花で埋め尽くされた広場に出た。その中心には、菫の花が添えられた白い墓跡。墓跡には、"ヴァイオレット"と記されていた。

「..ヴィオ、御主ノ娘ガ来タ。」

「..おおかあさま、ですか?」

 その問いに、コクリと頷いた大父様。

「おおかあさま、わたしはレイシア・ダルガニアともうします。5才になりました。おおとうさまとさっき、けんかしましたが、たぶん、なかなおりできました。」

 そこまで言うと風もないのに、周りに咲いていた白い花がそよそよと揺れた。

「ヴィオ、コノ娘変ワッテオロウ。」

 その声音はとても優しく、仰ぎ見れば瞳は優しげに細められていた。

 まるでその言葉に応えるように、ゆったりと花が揺れる。


「おおかあさま、おおとうさまにたくさんたすけていただきました。5才をむかえたので、もうじゆうにこちらにこれます。また、あそびにきてもいいですか?」

 大父様がビクリと身体を揺らしこちらを凝視していたが、花は優しく揺れ、まるで"是"と言っているように思えた。

「..御主、マタ来ヤルツモリカ?」

「もちろんです。..だめですか?」

「ムム..。」

 顰めっ面の様に顔を歪めた大父様。ややあってフンッと鼻息を吹くと、「好キニシロ。」と呟いた。


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