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子ぐまの食卓

作者: 卯之 はな

子ぐまの食卓


昔、ある大食いの子ぐまがいました。

子ぐまは、幼いときに母ぐまを亡くしてからふさぎ込んでしまい

お魚も、お肉も食べることなく、

うす暗いどうくつの中で、

なぜか、木の実ばかり食べていました。


それを哀れにおもった森のどうぶつたちは

子ぐまに木の実を分けあたえていました。


お魚も、お肉も、食べることはないくまは、

きょうも木の実をぱくぱくと食べています。


「どうしよう、もうここいらの木の実はとっちゃったよ」

「むこうの森にとりにいこう!」

「でも、あっちのどうぶつに迷惑をかけるわけにはいかない」

「おなかをすかせたら、ぼくたちを食べはじめるよ…

 母ぐまみたいに」

「おい! それは仕方ないだろう。 こっちは生きていくためだ」


肉食動物と草食動物、

それぞれえらい地位のどうぶつが話し合いをしていました。

ああすればいい、こうすればいい

さまざまな意見がとびかいますが、結局


くまをどこかに追いやるしかない


という 答えがでました。

だれもが賛成というわけじゃありませんでしたが、

この先の森の未来を考えると、反対はできませんでした。


そんなどうぶつたちの輪から、

ちょこっとかおを出すように手をあげているどうぶつがいます。


手をふりふりしてアピールしていますが、

からだのおおきい、となりのどうぶつたちは

まったく気がつきません。


その姿を見つけた真っ正面にいるうさぎが、

あいだにはさまる子に声をかけました。


「りすくん。 こんなところで、どうしたの?」


肉食動物に臆することなく、りすは輪のなかへとはいりました。


「みなさん、きいてください。

 あの子をほんとうに追い出してしまっていいのですか?

 こうやって、ちがう種類のどうぶつがお話をできているのです。

 おたがい知恵をだしあって、

 なにかできることがあるんじゃないですか?」


りすは力説しますが、

まわりは うーん と、うなるだけで、

だれからも賛成はされませんでした。


それでも、りすは落胆するようすはありません。


もういちど、提案をします。


「ぼくに、ちょっとこの件を預けてもらえませんか?

 一日でいいです」


どうぶつたちは、りすの発言におどろきました。

そんな短期間で、なにができるというのでしょう。


「今日一日だけでも」


まわりのどうぶつたちが、ざわざわとさわぎだします。


仕切りたがりのおおかみは声を高らかにみんなに言いました。


「こんなちっこいやつのはなしにのるのは、気が引けるが、

 おれたちじゃ具体案がでなかったんだ。

 一日くらい、いいんじゃないか?」


肉食も、草食も、どうぶつたちはおおかみの説得力のある話に

納得しました。

けれども、みんな内心おもいました。



自分たちに出来なかったのに、こんなちいさい存在にできるのか、と



りすは、みんなの協力に素直にお礼をいいます。


「ありがとうございます」


りすは、またどうぶつたちの間をとおって、

早速作業にとりかかるのでした。




それは、ごく単純なものでした。

まず、りすはじぶん用に埋めておいたどんぐりを掘り出します。

そしてそれらをかごに詰めて、

子ぐまのいるどうくつを目指しました。


「子ぐまくん、入っていいですか?」


「…うん」


奥から返事がかえってきました。

ちいさい声でしたが、どうくつにひびいてよく聞こえました。


歩いていくと、何をするわけでもなく

ただいすに座っている子ぐまがいました。

子ぐまは植物しか食べていないため、

痛々しいほどにやせ細っていました。


なんとかしてあげないと…このままじゃ…


りすは、だんだんと子ぐまに近寄っていきました。

テーブルや子ぐまの足元には、

たくさんの木の実のからが散らばっています。


りすは、テーブルのうえの からをのけて、かごをおきました。


子ぐまをまっすぐに見つめていいます。


「子ぐまさん、どんぐりは好きですか?」


「う、うん…」


「ぼく、この冬の冬眠にそなえて どんぐりをたくさんとりました。

 とってもおいしかったから、子ぐまさんにおすそわけしようと

 持ってきたんです」


「いいよ。 きみのだから」


「だから、いっしょにわけてたべましょう」


りすはおなじ数ぶん、おたがいのまえにおきました。

りすには 積んだら身長とおなじほどのどんぐりの量で、

からだのおおきいくまにはほんの少しの食事でした。


「いただきます。 子ぐまさんもどうぞ」


「い、いただき…ます」


今までがっつくように食べていた小ぐまでしたが、

一口で食べられるどんぐりをひとかじりしてみます。


りすも、もぐもぐと秋の味がたっぷりつまった

どんぐりを味わいます。

子ぐまのほうを向いていいました。


「お味はどうですか?」


「とっても…おいしい」


体力がないため、ちいさな返事しかできません。

りすは、にっこりと笑ってまたどんぐりにかじりつきました。

それをみて、子ぐまもまたひとかじり。


「子ぐまさん、だれかといっしょに食事するのっていいですよね」


「…うん」


子ぐまの持つどんぐりの手がぴくっと動きました。


りすはつづけて、お話をします。


「子ぐまさんは、ただおなかがすいていたんじゃなくて

 だれかとこうやって向き合ったり、テーブルを囲んだり

 食べたかっただけなんじゃないですか?」




子ぐまは、りすにそう言われて思い出しました。


朝めざめたら、朝ごはんが出されていて 

そこにはおかあさんの笑顔がありました。

声をあわせて「いただきます」といって、

栄養あるおいしい食べものにがっつきます。


ふっと、その光景があたまに浮かびました。

目の前にいるりすに、ようやく自分のおはなしをはじめます。


「おかあさんがいなくなって、外に出ることがなくなった。

 そして心配したどうぶつたちがたべものを持ってくるけど…

 いくら食べても味がしないんだ。


 草食動物はこわがって寄りつきたくないだろうし、

 肉食動物は面倒くさげにただおいてかえるだけ


 いっぱい食べれば食べるほど、

 食料を持っておうちに来てくれるけど

 たべるときはいつも、ぼくひとりぼっち…」


どんぐりぐらいの大粒のなみだをこぼしました。

一度流したら、なみだが止まらなくなりました。



子ぐまは、子どもらしく泣きます。



母ぐまを恋しくおもう気持ちと、

あのころに戻ることができない もどかしい気持ちが

ごちゃごちゃになりました。


りすは、おちついた声で子ぐまにはなしかけます。


「ぼくでよかったら、このかごにはいったどんぐり、

 いっしょに食べませんか? 世間話でもしながら。

 子ぐまさんがここにいる間、

 外でどんなたのしいことがあったか」


「ここに、いてくれるの?」


「子ぐまさんは、やさしい子なんですね。

 本当にくまがおなかがすいていたら、

 ぼくを簡単につかまえて食べられるのに」


「友だちになれるかもしれないどうぶつは、食べられないよ。

 こんなやさしいりすさんを なんて」


「ちがいますよ… ぼくは、ただのりすです」


かごの中のどんぐりを ひとつぶ ひとつぶ 

子ぐまはゆっくりと味わいながら、

くま本来の食欲を思い出していくのでした。





昔々、あるところに子どものりすがいました。


おかあさんりすが、たべものをとりにいったっきり戻ってきません。


心配した子どものりすが外へ出ると、


おかあさんりすは、くまにたべられていました。


子どもでも賢明なりすは、


これがどうぶつの世界なんだ


と 理解して憎みはしませんでした。


りすはただの、やさしいりすなのです。






過食嘔吐は、依存性があります。

かくいうわたしも、8年の付き合いになります。


兄は過食するとき、一緒に食べたり、どんなに夜中でも

起きててくれます。

最初はいやだったんですが、それが兄のやさしさに気づいたとき

毎日の日課だったものが回数が激減しました。


たべものって、人を元気にするけれど怖いもの。

わたしは思います。

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