99話 爆弾
次のイリスでの民会は、のっけから紛糾していた。
議題はもちろん、海賊対策。だが、どのように海賊に対策を立てるか、もめていたのだ。
「とにかく北だ! 北を固めよう!」
「何を言うか! 首都周辺を固めるべきだ!」
「イリスの守備をしっかりしてくれればいい!」
やんややんや、と言う感じで、みんな自分の事しか考えていない。とはいえ、それも無理はないだろう。これだけ海賊にやりたい放題されて、対策は何も無いに等しいのだから。
「静粛に! 静まれ!」
叫ぶルシールさん。
一応静まる議場。しかし、静まった所で問題は解決していない。
「フェイ殿、何か対策はございませんか」
レフさんが聞いた。レフさんは本来、民会には参加しないが、今回は呼ばれている。
「対策はあります」
僕は言った。注目を集めた。
「対策と言うのは、例の鎖のことかね。しかしあれはカランでしか通用せんぞ」
そういうリザードマンの議員。確かに、鎖はあそこでしか通用しない。
「いや、これです」
ぼくは丸いボールを取り出した。銅でできた丸い球だ。縄が付いている。
「ははは、それでボール遊びでもするつもりですかね」
「そんなもので何ができるか!」
「子供は黙っていろ!」
叫ぶ議員たち。また騒ぎ始めたようだ……。
「お静かに。そこに木の塊が見えますか?」
僕は言った。
そこには、木をたくさん並べて置いた。みんな不思議がっていた。
僕は球の縄に火をつけ、投げ込んだ。ジジジ……と縄が燃えていく。
「何ですかな、冗談は」
リザードマンの議員がそう言った次の瞬間!
ドーーーーーーーーン! と凄まじい音と光が発され、一気に木の塊が燃え上がった。
凄まじい炎が発され、木々があっという間に炭になっていく。呆然とする議員たち。
「火炎爆弾です。これがあれば、海賊の船もひとたまりもないはず」
僕はそう言った。
「た、確かにそうかもしれんが……。これはどうやって作ったのかね?」
そう聞くルシールさん。
「申し訳ないですが、それは秘密とさせていただきます。ただ、イリスの海軍に渡しますから、イリスとグランテイル間に防衛線を引いていただきたい」
僕はそう言った。
イリスとグランテイルの間は狭い。この海峡を抑えてしまえば、カランとグランテイル島南部で安全に交易ができるのだ。
「そうすれば、イリス以南は安全になるでしょうが……、逆に北部は見捨てられるでしょう」
そういう北の街の議員。
「カランは鎖で閉じられていて、安全に船を作成できます。海軍を創設し、海賊を撃破すれば、問題は解決します」
僕はそう言った。
「海軍か……。しかし、君の力だけではそんなものはできないだろう」
そう言うルシールさん。
「はい。またイリスの職人を御貸し頂きたい」
僕は頼んだ。
「またかね……。しかしまあ、この火炎爆弾とやらがあれば、海賊とも戦えるだろう。これをいくらくれるのかね?」
そう聞くルシールさん。
「とりあえず50個は……。ただ、グランテイルの材料を使ってますので、交易をできないと作れないのです」
僕は言った。
元々僕達は、火薬を詰めて爆発させる爆弾を作っていた。しかしこれは危険な上に燃焼力は低く、海賊対策としてはイマイチだと思っていた。
そこで火薬の量は下げ、精製した石油を詰めた火炎爆弾を開発したのだ。これは良く燃えた。海賊対策としては上等だろう。
「しかし、その爆弾の破壊力が凄まじいのはわかったが、どうやって敵に当てるのかね」
そう聞くリザードマンの議員。
「手で投げるのが基本でしょうが、バリスタに取りつけたりした方が良いかもしれませんね」
僕はそう言った。バリスタは巨大な弓矢だ。
「ふむ、そのあたりは色々研究してみようか。フェイ君、職人を貸すから、良い海軍を作って、海賊を始末してくれたまえ」
ルシールさんはそう言った。
「わかりました」
僕はそう答えた。