82話 ブランカの旅路
ブランカ師匠は、話し始めた。
「まずフェイが居なくなってからのアルパについて話しておこうか……。あの後、アルパでは異種族に対しての風当たりが異様に厳しくなった。人間のみを正当化する思想……。アルパ教の力が強まったことも大きい」
アルパ教……、アルパ帝国時代からある宗教だが、異種族の存在を認めておらず、差別の対象にしてしまう。
「そんなものがあるのか? 私は知らないが……」
そう言うアドリアンさん。
「知らないに越したことは無いよ。ダークエルフにせよ龍人にせよ、ドワーフにせよ魔族にせよ、文句なしに差別してくるしね。狂った連中だよ」
そう言うドロテア。
「だが、アルパ王国には強力な騎士団、パラディンが居る」
僕は言った。
「その通り。いずれにせよ、アルパ王国において異種族は差別され、奴隷とまでするようになった。私には何ともできなかった……」
ブランカ師匠は、悔いるようにそう言った。
「酷い話だ。かつては大陸をまとめたアルパ王国も、そのような外道に成り下がったか」
シルヴィアさんはそう言った。
「私は王にエリクサーを作るよう命令されていた。不審に思って、調べようとしたが、王の周辺は悪質な佞臣に固められていて、ロクな状態ではなかった。私はアルパ王国を逃亡し、ベルクランド王国へと向かった」
師匠はそう言った。
アルパ王国では、国民の移動の自由は存在しない。僕は特別に手形で脱出できたが……。師匠は恐らく、無断だろう。もう帰れないはずだ。
「アルパ王国はどうなってしまったんでしょうか? 最近は、海賊が襲ってくるくらいですし……」
アーダちゃんは聞いた。
「わからんが、ロクでもない国になったことは確かじゃろうなあ……。知り合いのリザードマンも、連絡すら難しくなったようだ……」
レフさんがそう言った。
「ベルクランド王国に着いた私は、そこで工房を作り、落ち着いた。フェイ、お前のコーネリアでの活躍も聞いていたぞ」
ブランカ師匠はそう言った。
「そうでしたか。照れますね」
僕は言った。
「ベルクランドは実力主義だし、様々な鉱石を生産できるので、錬金術師にとってはやりやすい場所だ。フェイもすぐ来ると思っていたが……、まあ私はそこで色々なものを作り、売って儲けていた。それなりに名も上がり、一目を置かれる存在にもなった」
師匠はそう言った。師匠の実力なら当然だろう。
「特に重要な鉱石は『爆石』。エリクサーの材料でもあるが、その名の通りすぐに爆発するほどのエネルギーを秘めた鉱石で、これがあれば様々な事が出来る。私はこれを使って、ベルクランドを発展させた……、いや、してしまった」
師匠はそう言った。やはり悔いるように。
「私も少々調子に乗っていたかもしれないな……。実は爆石には毒性があるのだ。この石を採掘したり精製したりすると、多量の毒が流れ出す。そして周囲を汚染してしまう。それにより、周囲の水や森が被害を受け始めた」
師匠はそう言った。
「森は泣いていました……」
その時、女の子が起きて来た。師匠は彼女の事をヴァンダと呼んでいたが。
「起きられましたか、ヴァンダ様」
ブランカ師匠はそう言った。
「ええ……」
ヴァンダちゃんは近くの椅子に座った。彼女も話を聞くようだ。
「私は考えを改め、爆石の採掘を止めようとした。だがベルクランドのドワーフたちも、人間たちも、もはや爆石の採掘を止めようとはしなかった。そうして森は荒れ果て、枯れ始めた……」
ブランカ師匠はそう言った。
「祝福の森のエルフたちは怒り、ついに弓矢を取って戦いを始めた。ドワーフたちはゴーレムや爆石の大砲で森を焼き尽くした。酷い戦いだった……」
師匠はそう言ってうめいた。
「私達は一人、また一人と倒れて行きました……。私の両親も……。最後に私の両親は、ブランカ様に私を託し、敵の群れに飛び込んでいきました……」
ヴァンダちゃんはそう言った。
「せめて彼女のことだけは助けたいと思った。私は全てを捨て、彼女を連れて小舟に乗り、航海に出た。思えば長い航海だった……。ドラコニアからエルティアを周り、ここファーランドにたどりついたのだ」
師匠はそう言った。
「そうだったんですか……」
僕は言った。師匠の話は終わった。