80話 漂着
その次の日。
本来ならカランへと帰りたいところだったが、昼間に行動すると焼け死ぬ吸血鬼を連れてきたせいでそれもかなわず、暇になってしまった。まあ良いんだけど。
そんなわけで僕はぶらぶらとファーランドの街を散歩していた。ファーランドの街は、狭い。この街は半島の先に城が作られ、残りわずかの土地に街が作られているからだ。しかも、ドロテアが津波を起こしたダメージも馬鹿にはできなかったし。まあそれでも、街の城壁も修復され、賑わいを取り戻していた。
「どうだいそこの人。チーズパンだよ」
チーズパンを売っているおばちゃんが居た。
「一つください」
「あいよ。銅貨一枚でいいよ」
僕は一つ買った。
食べると、濃厚なチーズがとても美味しい。癖になる味だ。
腹も膨れたので、海の方へ行ってみることにした。海を眺めていると、姫様と話し合ったことを思い出す。姫様、元気かな……。
そう思っていたら、奇妙なものを見つけた。海岸にある一つの点。……船だろうか。
近づいてみると、明らかに船のようだ。しかし小さい。あんなものに乗るなんて正気ではない。しかもどうやら、人が二人乗っているようだ。
僕は不安になって近づいた。
すると一人は知らない少女だったが、もう一人は、まさかのブランカ師匠だ。
「師匠!? 師匠!」
僕は叫び、肩を掴んで揺すった。
「うぐ……、み、水……」
そういう師匠。
「水ですね! これを!」
水筒を持っていたので、水を飲ませた。
「んぐ……、ふぇ、フェイ……!?」
徐々にはっきりしてきたらしい師匠。
「大丈夫ですか?」
僕は聞いた。
「わ、私は、何とか……。そちらの子にも、水を……」
そういう師匠。
僕はその子にも水を飲ませた。かなり消耗しているが、水は飲めるようだ。
「ごほごほっ! う、ここは……?」
女の子も目を覚ました。金色の髪と青い瞳。服装の緻密さから見て、エルフ、それもかなりの高貴な存在だろう。
「誰か! 誰か居ないか!」
僕は叫びながら、城へと戻った。城にはファーランド兵がたくさん居たので、何人か連れて師匠と女の子を担架に乗せ、城内に運び入れた。