8話 師匠と旅立ち
その日の朝も快晴だった。
僕は朝起きると、まず井戸水で洗濯をする。僕の分と、師匠の分だ。
僕は元々、この店の前に捨てられていたらしい。師匠が僕の親だ。師匠は凄腕の錬金術師で、僕ももちろん師匠から錬金術を習った。でも師匠は何か相当なめんどくさがり屋らしく、あんまり真面目には教えてくれなかった。
魔法学園の教師も師匠はやっているのだが、滅多に教壇に立つことなどない。そもそも錬金術師が少ないのでそれでも問題ないらしい。僕も基本的な事は師匠に教えてもらったが、後はほぼ独学だ。師匠の書斎の本を読んで身につけた。
僕は朝食を作った。パンとハム、サラダ、スープの朝食だ。そして師匠を起こす。
「師匠、朝ですよ! 起きてください!」
僕は師匠を揺さぶった。
「うーん……。あと50分……」
長すぎる師匠。
師匠はわりと美人の女性だ。茶髪のロングで、背も高いし胸も大きい。まあ、残念な感じだけど。とにかくその怠け癖はすさまじく、この店もあんまり開いていない。そもそも、開いてもあんまり大したものは売ってないので評判にもならない。
師匠に「何故凄いものを売らないんですか?」と聞くと、「私は一般の人のための店を開きたいんだ」とか言ってたけど、そもそも客が来ないし、来ても師匠が寝てて店が開いてなかったりするので、どうしようもない。この店、大丈夫なんだろうか。
「ほら師匠! 起きてください!」
強引に布団をひっぺがす。
「ああ! 酷いフェイ! 女性の布団をひっぺがすなんて!」
そんなことを言う師匠。
「ご飯の用意しましたから。顔と手を洗ってください」
僕は言った。
「ちっ、しゃーねーな。じゃあいただきまーす」
超偉そうな師匠。
僕はキッチンへと戻った。井戸で顔を洗った師匠がやってくる。
「いただきまーす」
そう言って師匠は朝食を食べた。
「んー、おいしいね。フェイは良いお嫁さんになれるよ」
そんなことを言う師匠。いつもそんなことを言っている。
「お嫁さんにはなりたくないですが……。でも、美味しいものは食べたいですね」
僕はそう言った。
僕と師匠は食べ終わった。師匠が、手紙を持ってきた。
「読んでみ」
そう言う師匠。
「はい」
僕は読んだ。
―― 親愛なるブランカ様へ ――
以前よりお頼み申しておりましたが、エリクサーの作成をお願いします。
報酬は思いのままです。我が国の命運がかかっております。
迅速によろしくお願いいたします。アルパ王より。
ブランカと言うのは師匠の名前。アルパはこの国の名前だ。つまり――。
「王国からの依頼書ですか」
僕は言った。
「めんどくさいよね。破っても良いよ」
無茶を言う師匠。
「冗談じゃないですよ。下手すりゃお尋ね者ですよ?」
僕は言った。
「まあね。どう? エリクサー、作ってみない?」
更なる無茶を言う師匠。
「作れるわけないじゃないですか。エリクサーを作るには、この世界にある7つの難しい素材が必要だとか」
僕は師匠から聞いたことを言った。
「そうなんだよね。もちろん技量も相当必要だし。というわけでやってよ」
そういう師匠。
「いやいや、無理ですよ」
否定する僕。
「無理と決めつけるものじゃないよ。それに、これは君のためでもあるんだよ、フェイ」
そう言う師匠。
「僕のため、と言うと?」
僕は聞いた。
「君は魔法学園でも相当いじめられていたらしいじゃないか。多分、魔法学園を卒業したこの国の連中は、君の事をあまり良く思っていないよ。実際、錬金術師の価値にすら気付かない連中だしね」
そう言う師匠。
「まあ、そうですが……?」
僕は聞いた。
「だからさ、この機会に、世界中を旅して見てきなよ。幸い、面白い仲間も手に入れたみたいだしね」
そう言う師匠。
「あの二人が、付いてきてくれるかは、何とも」
僕は言った。
「何事もやってみないと分からないさ。いずれにせよ、君はいずれ旅立たなくてはならない。そういうものさ。一つチャレンジしてみなよ」
そう言う師匠。
「……」
僕は考えた。
確かに、このまま師匠に頼りきりでは良くないかもしれない。それに、この世界は広い。いろんな場所に、色んな生き方をしている人、色んな植物や動物、色んなものがあるだろう。それに興味はある。
「わかりました。では、僕も旅に出ようと思います」
僕は言った。
「おお! 決意してくれたか。んじゃさ、これあげるよ」
そう言って師匠は、小さな壺をテーブルに置いた。
「これは?」
僕は聞いた。
「携帯式の錬金壺さ。性能は悪くないよ。旅には便利だし、持っていきなよ」
そう言う師匠。
「ありがとうございます、師匠」
僕は感謝した。
「考えてみれば、師匠にはお世話になりっぱなしですね」
僕は言った。
「まあね。頑張りなよ、フェイ」
師匠はそう言った。