79話 提案
レフさんの部屋へと入った。
質素な部屋だ。とはいえ、木製の家具は質が高そうで、品位はある。ファーランド共和国を支える元老の長として、ふさわしい部屋だろう。
僕達は椅子に座り、向かい合った。レフさんが口を開く。
「グランテイルの視察、ご苦労様でした。どうでしたかな」
そう聞くレフさん。
「驚きが多かったですね。収穫も多かったです。ただ、それらを形にするには時間がかかりそうですね」
僕はそう言った。
「ふむ、そうか……。ただ申し訳ないが、君にはもっと重要な仕事をして欲しいのだ」
そういうレフさん。
「というと?」
僕はそう聞かざるを得ない。
「君はこのファーランド国の弱点は何だと思うね?」
そう聞くレフさん。
「んー、そうですね。まあぶっちゃけた話、軍隊が弱い事でしょうか」
僕はそう言った。
「だよな……。ワシもそう思う」
レフさんは同意した。
何しろ、大国なのに首都が陥落寸前に陥ったぐらいだ。普通そういうことにはならないだろう。
「では、何故この国の軍は弱いのだろうか?」
そう聞くレフさん。
「考えてみれば疑問ですよね……。うーん、私にはちょっとわかりかねますね」
僕は正直にそう言った。僕も今ではファーランドの一員みたいなものだが、新参者であることに変わりはない。
「そうじゃな……。まずは、傭兵に頼ってしまったところか」
そう言うレフさん。
傭兵に頼るのは確かに問題だ。傭兵はあまり真面目に戦ったりしない。金で雇われているだけだし。まあ、時には役に立つ事もあるのだが……。やはり自国の軍は必要だろう。
「それはありますね。ただ、ファーランド軍自体も武装は良かったと思うのですが」
僕はそう言った。
「確かに武装は良い。だが、『軍事』を知っているものは少ない。ワシが思うに、それは君だけだと思うのじゃ」
そう言うレフさん。
確かに戦争においては、軍事について考える人が絶対に必要だ。僕は魔法学園で鍛えられていたから一応知っていたが……。
「この国には、軍事の専門家を育てる場所が無いのですか?」
僕は聞いた。
「そうなのじゃ。困ったことだと思わんか?」
そう言うレフさん。
それは確かに困ったことだ。アルパはもちろん、コーネリアにも優秀な軍事家がたくさん居た。それは当然ないと困ることだ。
「確かに困りましたね。それで?」
僕は聞いた。
「それで君に軍事学校を作ってもらいたいと思ってな」
そんな事を言うレフさん。
「いやおかしいですよ! 僕は錬金術師なんですよ? 軍事学校を作るのは間違っているでしょう」
僕はそう言った。
「もちろん君が錬金術師なのは良く知っておる。ただ、君がこれまで挙げた戦果を考えれば、間違いではないとは思うがね。もちろん予算は出そう。軍事学校と言っても、錬金術の研究に使ってもらっても構わんのだぞ」
そう言うレフさん。
そう言われると、確かにちょっと心は動くな。
「うーん、そうですね……。しかし、学校となると先生が必要では?」
僕は聞いた。
「もちろんじゃが、それが居ないのが最大の問題でな。まあ、君は元々コーネリアの将軍だったんだから、コーネリア関係の教師を呼ぶことはできんかな」
そう言うレフさん。
「そう言われましてもね……」
僕は考える。
コーネリアの将軍と言っても、僕は姫様に適当に任じられただけだ。コーネリアの将軍や指揮官を呼ぶなんて絶対無理だ。
……と思うが、例外が居た。シギスだ。彼ならやってくれるかもしれないな……。
「んー、まあ小規模ならできるかもしれませんね。色々試してみたい事もあるにはありますし……」
僕はそう言った。
「お、そうか! やってくれるか!」
超喜ぶレフさん。
「小規模ならですよ? 元老院は協力していただけるので?」
僕は聞いた。
「もちろんじゃ。全面的に協力しよう。何、人や金が足りんならいくらでも送ってやるわい。とにかく、ファーランドは強くならねばならんのだ。そうは思わんか?」
そういうレフさん。
「まあ、そうですね。海賊の事もありますし、今はファーランドが強くならないといけませんね」
僕は言った。
「海賊?」
そう聞くレフさん。
「僕達の乗って行った船も、アルパの海賊に焼かれてしまったんですよ。ご存じありませんでしたか」
僕は言った。
「そうじゃったのか。そりゃ大変だったな。うーむ、海軍も強化せねばならんな……」
そう言うレフさん。
「それについてもお願いしますよ。イリスの協力も欲しいですね」
僕は言った。
「それは難儀じゃな。まあ、ワシも力を尽くすわい」
レフさんはそう言った。