77話 シルヴァレスト号
「それでは、そろそろ大陸に戻ります」
僕は魔王様にそう言った。
「うむ。そうか……。それは構わんが、船はあるのか?」
そう聞く魔王様。グランテイルにはあまり船が無い。
「心配はないのじゃ。私がとっておきの船を出すからな!」
そういうシルヴィアさん。
「シルヴィア殿もアーダも行くのか。寂しくなるな……」
そういう魔王様。
その日もささやかな宴を開いてくれた魔王様。揚げた鶏肉がたくさん並んでいる。
食べてみるとサックサクで美味しい。
「美味しいですね。こんなに油があるんですか?」
僕は聞いた。
「油やしの油だよ。この島、油は豊富なのだ」
そういう魔王様。大陸では油は貴重だが、ここではそうでもないようだ。
「フェイが言うには、大陸には鉄がたくさんあるそうじゃ。ワシが持って帰ってやるよ」
そういうシルヴィアさん。
「ありがたいが、海賊も多いし、無理はせんでくださいね」
魔王様はそう言った。
「確かに、海賊は気になりますね。何とか出来れば良いんですが……」
僕はそう言った。
海賊が多いのでは、交易もできない。ファーランドとグランテイルの交易は絶対にすべきだが、海賊が居ては危険だ。何としても海賊を何とかすべきだろう。
「そう考えると、私達は大丈夫なのですか? せっかく船があっても、また海賊に襲われてしまうのでは……」
カンデさんはそう言った。彼女はかなり怯えている。
「まあその心配はなかろう。夜出発するしな」
そういうシルヴィアさん。
「夜? 何故ですか?」
そう聞くカンデさん。
「私は吸血鬼だしな。昼間だと太陽に焼かれて死んでしまう。どう考えても、夜でないと無理じゃ」
切実な事を言うシルヴィアさん。
「そ、そうでしたか。それは失礼を……」
謝るカンデさん。
「師匠ったら、外で寝ててうっかり朝になって焼け死にそうになったとか」
そんな事を言うアーダちゃん。ちょっと笑っている。
「笑いごとでは無いぞ! 寝てて死ぬとかヴァンパイアの笑いものになるわ……」
そういうシルヴィアさん。
「うふふ、そうですね」
面白かったのか、気が休まったらしいカンデさん。
「この島の『石油』についても、たくさん欲しいですけどね」
僕はそう言った。
「いくらでも持って行ってくれて構わんのだがな。とにかく、海賊は何とかしたいが、ワシらでは何ともならん。大陸に帰ったら、何とか対策を考えてくれ」
魔王様はそう言った。
「何とかしますよ」
僕はそう言った。
夜になった。僕達が海岸に行くと、巨大な銀色のイカダみたいなものがあった。後ろに巨大な扇風機が二つ付いている。
「なにこれ?」
不審そうにするドロテア。
「聞いて驚け! これこそ我が発明、シルヴァレスト号じゃ!」
そういうシルヴィアさん。
「イカダ……ですかね」
「イカダだな……」
そういうカンデさんとアドリアンさん。
「断じてイカダではない! 見よこの銀色の美しきフォルム! これこそ新時代の船よ!」
そう言うシルヴィアさん。
しかし本当にこれで大丈夫なのか? さすがに不安だ。
「師匠を疑うわけじゃないですが……、とりあえずこれ、海に運びますか?」
僕は聞いた。砂浜に置いてあったし。
「ああ、その必要は無いぞ。重いしな。これは水陸両用で、ここからドヴァーってなってギュイーンって行けるのだ!」
そう言うシルヴィアさん。
「本当に大丈夫なんですか!? 何か怪しげな擬音が聞こえましたけど……」
超不安そうな顔になるカンデさん。
「ガタガタ抜かすな。ほら乗った乗った!」
そう言うシルヴィアさん。僕達は渋々乗った。
「んじゃ出発しましょうか。よっと」
そう言ってパチリ、と火をつけるアーダちゃん。
ゴオ、と火が付き、満載された水が急速に熱される。その蒸気が発され、歯車が回る。その力で、扇風機が回る仕組みだ。
ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオと、もの凄い風が下向きに発動した。見えなかったが、実は下にも扇風機があったらしく、船体は浮いた。
「シルヴァレスト号、発進!!!!」
シルヴィアさんが叫ぶと、アーダちゃんが後方の歯車を操作し、船体後部の扇風機を発動させた。ギュイーン! と船は砂浜を走り、海へと向かっていく。
ドドドドドドド……、と海の上を滑っていくシルヴァレスト号。凄い速度だ。完全に帆船の最高速度を超越している。ヤバい。
「これ凄いんじゃないですか? こんなもの作って大丈夫なんですか?」
逆に不安になる僕。
「にゃはははは! 私は天才だから良いのだ!」
そう叫ぶシルヴィアさん。
こうして僕達は、あっという間にファーランドへと帰還した。