74話 銀髪の吸血鬼シルヴィア
「師匠! おーきてくださーい」
パンパン、と顔面を叩くアーダちゃん。
「むう……」
仕方なく起きる銀髪少女。だらしない顔だ。眠そうだ。
「アーダよ、容赦ないのう……。なんじゃ、この冴えない男は」
そう言う少女。冴えない男って……。
「この人はファーランドから来たフェイさんですよ。そう言えば、何者なんですか?」
そんなことを聞くアーダちゃん。
「何者と言われても……。まあ錬金術師ではあるけど」
僕はそう言った。
途端に紅い目を輝かせる銀髪少女。
「何と! 錬金術師!? 珍しいのお!」
そういう少女。それにしても、おばあちゃんみたいな喋り方だな。
「それにしても、あなたこそ何者なんですか? ただの女の子には見えませんけど」
僕はそう聞いた。
「よくぞ聞いてくれた。我こそは、神代より生きる吸血鬼、シルヴィア様であるぞ。者ども、控えおろう!」
そういうシルヴィアさん。
「ははあ……」
土下座するアーダちゃん。絶対ふざけている。
「吸血鬼だったんですか……。まさか僕の血を吸うつもりですか!?」
怖くなる僕。
「ああ、心配するな。別にお前みたいな弱そうなやつの血は要らんし」
失礼な事を言うシルヴィアさん。
「そうですか。吸血鬼なのはわかりましたけど、こんな所で何をしておられるので?」
僕はそう聞いた。
「実は私も錬金術師でな。太古のドワーフの技術をここで保存しておるのだ」
シルヴィアさんは意外な事を言った。
「フェイさんは例の扇風機にも興味を示していましたし、何か響き合うものがあるんじゃないかと思って呼んだんですよ」
アーダちゃんはそう言った。
「そっか……」
まあ確かに、錬金術師同士響き合うものはあるかもしれないけど。
「それにしても、錬金術師とは珍しいな。ちなみに師匠は誰なのだ?」
そう聞くシルヴィアさん。
「師匠はブランカですけど」
僕はそう言った。
「何だ、そうか。ブランカなら私の弟子だぞ」
そういうシルヴィアさん。そうなのか!?
「師匠がここに来られたので?」
僕は聞いた。
「うん。もう結構昔の事になるけどな。あいつの弟子なら、私の弟子じゃん。崇めろ!」
そういうシルヴィアさん。崇めろって言われてもなあ……。
「まあ別に崇めても良いですけど……。ちなみにどういったものを作られているので?」
僕はそう聞いた。
「んー、まあ確かに色々なものを作ることもあるが、私やアーダは基本的に理論派なのだ。実際に物を作ることはあまりないな。まあどっちにせよ、このグランテイルではイマイチ物が欠けていて大したものは作れんのだが」
そういうシルヴィアさん。
「へえ、そうなんですか? でもあの扇風機なんかは、かなり凄い物だと思いますけど」
僕はそう言った。
「そりゃそうだろう。あれは結構古代の技術やら私達のアイデアやらが詰まっているからな。しかしまあ、涼しいだけで大して役には立たんと思うが」
そういうシルヴィアさん。
そうだろうか? 使い方次第では素晴らしく役に立ちそうだが……。
「確かにあの扇風機だけではどうにもならないかもしれませんね。最近は海賊も多いようですから、その対策になりそうなものを作ってみては?」
僕はそう提案してみた。
「ん、そうだな……」
シルヴィアさんは考える。
「海賊と戦えそうなアイデアはいくつかあるんですよ。でも実現させるには、色んなものが必要で……。特に『鉄』は絶対に必要ですね」
そういうアーダちゃん。
「鉄? そんなものどこにでもあるだろう」
僕は言った。
「このグランテイルには全然鉄はないのじゃ。木もほとんど無いしな。海賊と戦うためのものを作るなんて無理じゃ」
残念そうに言うシルヴィアさん。
「そうなんですか、意外ですね……。でも大陸にはたくさんありますから、輸入すればいいのでは?」
僕は言った。
「誰も売ってくれませんよ。鉄は軍需物資ですし……」
アーダちゃんは悲しそうに言った。
「そうなんですか……。でも、ここでは『燃える水』のようなものもあるわけですから、鉄鉱石さえあればいくらでも鋼は作れそうですけどね」
僕は言った。
「ん、まあそうじゃな。よく解っておるではないか。それなら鉄を売ってくれんか」
そういうシルヴィアさん。
「僕は構いませんけどね。ファーランドの法律がどうなってるかは知りませんけど」
僕は言った。