73話 青く輝く地下都市
その日の夜。
僕はもちろん寝ていた。眠かったし……。用意された部屋で寝ていたのだ。
しかし突然、頬っぺたをツンツンされ起こされた。
「うーん……」
眠い……。朝か……? いや、まだ暗いし眠い……。
「んー、あと5分……」
そんな師匠みたいなことを言っていたら、くすりと笑われ、耳に息を吹きかけられた。
「うひゃあ!? な、何!?」
びっくりして起きる僕。しー、と指を口に当てる少女。
「ごめんなさい。でも、どうしても今じゃないとダメなんです」
そう言う少女。アーダちゃんだ。申し訳なさそうに片目をつむっている。
僕は眠い目をこすり、起きた。しかし真夜中だろう。非常識にも程がある。
「一体何なの? 眠すぎるんだけど……」
僕は文句を言った。
「すいません。コーヒーを持ってきました」
そう言って暖かいコーヒーをくれるアーダちゃん。どうしても僕を起こすつもりらしい。仕方ないので、僕はコーヒーを飲んだ。
さすがに目が覚めてくる。苦いし……。
夜のグランテイルは、また違う雰囲気だ。しかし外は結構活動している魔族も多いようだ。夜に活動する種族も多いのだろう。空には星と月が輝き、幻想的だ。
僕とアーダちゃんは外へ出た。そして不思議な洞窟に案内された。
「ここは?」
僕は聞いた。
「地下遺跡です。危ないので、私についてきてくださいね……」
そう言うアーダちゃん。
そうして地下に入ると、そこはまた驚くべき場所だった。
ふわり、と不思議な光がそこいらじゅうに輝いていて、しかもあたりはとても美しく、整理されている。見た事もない地面と壁。キラキラと青色に輝いていた。
「??? これは? まるで夢の中のようだ……」
僕はそう言った。
「夢じゃないですよ。現実です」
彼女はそう言った。
それにしても、とても信じられない。どう考えても、アルパでもグランテイルでも絶対にありえないような風景だ。ここは一体何なのか?
湖のような水道、貯水槽や、ゴーレムの死骸らしきものが倒れている。見た事もない機械らしきものも多い。
「これは……、古代遺跡か」
僕はそう言った。
「察しが良いですね。その通りです」
アーダちゃんは言った。
この世界の古代文明は、今よりずっと文明が進んでいたらしい。とはいえ、太古の昔の事で、そういった過去の遺物は見ることができないものがほとんどだ。仮に出来たとしても、冒険者などに荒らされている場合が多い。
しかしここはそうではないようだ。ここは魔族大陸、グランテイル。故に、遺跡も生き残ったということなのだろうか。
それにしても、と僕は思った。
古代遺跡については、僕も資料で読んだりしたことはある。その多くは古代エルフのもので、森の中にある場合が多かった。芸術的な意匠と華やかな街並みがきらめき、その中には魔法の髄を極めた究極の『魔剣』が鎮座している場合が多い。
僕は古代エルフの文化については結構熟知している。とはいえ、この遺跡はそれとは似ても似つかない。芸術性の欠片もなく、ただ機能的に作られた街。そして頻出するゴーレム。
これはエルフではない。となると……。
「ドワーフか」
僕は言った。
それを聞いて、アーダちゃんは振り返った。
「やりますね。その結論に達するなんて」
感心した、と言う感じだ。試されていたのだろうか。
「でも相当古いね。現代のドワーフではないだろう」
僕は言った。
「そうです。古代エルフと戦ったドワーフの都市。と言っても、もうずっと昔の話でしょうけどね」
アーダちゃんはそう言った。
いわば古代ドワーフか。
ゴーレムに関しては、ベルクランド王国ではたまに使われているらしい。ただ、ゴーレムは作成が非常に難しい上に、あまり役に立たないので、現代ではほとんど使われていない。
それは古代においてもそんなに変わらなかったはずだ。珍しい存在と言えるだろう。
「こちらです」
彼女は案内する。地下都市の更に地下へ。
こんな所に何があるというのか。全く意味が解らない。……とはいえ、彼女に悪意があるとも思えない。
「そういえば、君はドワーフなの?」
僕は聞いてみた。
「そうですよ? 気付きませんでしたか」
アーダちゃんは言った。
確かにちょっと背は小さい……、でも、ドワーフの女性はあまり人間と変わらないからわかりにくい。それにアーダちゃんはちょっと肌が黒い。そう言うドワーフはダークドワーフと言われ、忌み嫌われている。彼女がどんな人生を送ってきたかは不明だが……、楽ではなかったかもしれない。
僕達は光り輝く空間に来た。そこには豪華で大きいベッドが一つあって、銀髪の少女が寝ていた。
この少女も見た事もない美しさだ。絶対普通の人間ではないだろう。何者だろうか。
「師匠! 来ましたよ師匠!」
そう言うアーダちゃん。少女は眠そうに目をこすった。
「んー、あと5分……」
そんなことを言う少女。何となく自分を思い出してしまった……。