55話 意外な来客
僕達は少し長居してしまったようだ。急いで軍を集める。
今回ばかりは酒を飲むような兵士もいなかったようだ。多分。ていうか、僕とシギスは昨日飲んでたけど。
イリスを離れ、ファーランドへと向かう。カンデさんはあの街に残るようだ。街道を通り、来た道を戻って行く。
イリスからファーランドへの道は、それなりの距離はあるのだが、道が素晴らしく整備されているために、それほど歩きにくさは感じない。歩兵や補給部隊の足に合わせないといけないが、それでもそれなりの速度で行軍していく。
僕達はファーランドへと辿り着いた。城下町も少しばかり復旧していて、人も集まり始めているようだ。資材が積まれて、城壁の修復や家の建て直しが行われている。とはいえ、相当な時間がかかるだろう。
兵士たちの多くを街で解散させ、一部を城に入れることにした。城の防備が手薄だからだ。レフさんが兵士たちを各所に配していく。
もっとも、その心配はなかったようだが。城の中には既に多くのコーネリア兵が居た。
「レフさん、これは?」
僕は聞いた。
「ああ、コーネリアの姫様が来てくださいましてね。今応接室におられます」
レフさんはそう言った。
果たして応接室には姫様が居た。
「おかえり、フェイ。首尾は?」
そう聞く姫様。元気そうだ。
「姫様、いらしていたのですか。首尾は上々ですが、コーネリアは大丈夫なのですか?」
僕はそう聞いた。
「まあ問題はないでしょう。あなたの援軍もありますが、レフさんが何か大事な話があるとかで私を呼んだんですよ」
そう言う姫様。
「そうでしたか。何でしょうね?」
僕は聞いた。
「さあね。あっと驚く人が来るらしいんだけど」
そう言う姫様。しかし誰かは知らないようだ。
しばらくして、レフさんが誰かと入ってきた。
「紹介します。グランテイル帝国皇帝、オスカル様でございます」
レフさんはそう言った。
青い肌と巨大な体躯の男。……ていうか、グランテイル帝国皇帝って……。
「ええ……!?」「なんだって……!?」
混乱する僕と姫様。だってそれって、魔王じゃないか。
「お初にお目にかかる……。グランテイル国王、オスカルと申します。失礼する」
そう言って用意された椅子に座るオスカル。
「ちょ、ちょっと待って! 色々と聞いてないんだけど!」
文句を言う姫様。
「……まあ、多くはお伝えしてませんでしたからな」
そう言ってコーヒーを飲むレフさん。メイドさんの手によって、僕達の前にも、コーヒーは置かれた。
「まさかグランテイルの皇帝とは……。さすがにこれは、説明して頂かないと何が何やら」
僕はそう言った。
レフさんは居住まいを正し、こう言った。
「申し訳ありませんな。しかし、今回の戦乱、オスカル殿にとっては関係のないことだということですので」
そう言うレフさん。
「はあ? 関係ない? んなわけないでしょう。戦争を仕掛けてきたんだし、私達もその救援のために来てるわけだし。皇帝陛下なら関係ありまくりだと思うんですけど~」
そういう姫様。
「リーケ殿の意見もわからないではないが、グランテイルは魔族の国。基本的にそれぞれの部族は独立していて、私が何か言って動くような国ではないのだよ。申し訳ないがな」
そういうオスカル。
「では、今回の戦争に魔王様は関係してないと?」
僕は聞いた。
「まあ、平たく言えばそういうことだ」
そう言ってコーヒーを飲む魔王様。
それにしても巨大な人だ……。身長2メートル以上はありそうだし、横幅も広い。多分超強いんだろう。帝国の皇帝が一人で護衛も付けてないあたりは普通に考えたらおかしいけど、それでも問題はないんだろう。
「なるほどね。ま、それは理解したわ。しかし今回の責任はグランテイルにあるんじゃないかしら? ていうか、何の為にここに来たわけ?」
そう聞く姫様。
「私としては、ファーランドとの同盟を維持したいと考えている。加えて、コーネリアとも和平を結びたいし、交易をしたいとも思っている。確か、コーネルディップだったか、あれもグランテイルでは中々の人気でね。ぜひ売り出したいのだ」
そんなことを言う魔王様。何か気に入られたみたいだな、コーネルディップ。
「とても平和的な意見で良いとは思いますが、同盟を破ったという解釈なら、やはりその責任を取ることも必要ではないですか」
僕はそう言った。
「もちろんだ。すでにファーランドには様々な援助を確約した。君たちにもプレゼントがある」
そう言って魔王様は手を叩いた。
すると、何人かの女魔族が様々なものをテーブルに置いた。
「金貨100枚、銀貨100枚、そして名産の砂糖。それから、気に入ってもらえるかはわからないが、各種のスパイスと唐辛子を持ってきた。受け取ってくれたまえ」
そういう魔王様。
姫様が袋を開けると、果たしてそんな感じの内容だった。驚く姫様。
「しゅ、しゅごい! 金貨よ金貨!」
目を輝かせる姫様。貧乏性だな……。まあ気持ちはわからないでもないけど。
「この黒いのは砂糖ですか。見るのは初めてですが……」
僕は砂糖をつまんだ。少し舐めてみると、凄い甘さだ。
「詳しくはここに書いてある。読んでくれたまえ。それで、和平を結んでくれるかね?」
そう聞く魔王様。
「もちろん結びます! あ、でもさ。今攻撃してる連中が居たと思うんだけど、あいつらどうするの? あなたが倒してくれるわけ?」
そう聞く姫様。
「さすがにそういうわけにはいかん。悪いが、君たちが倒してくれ」
そういう魔王様。
「そこは無責任なのね……」
呆れる姫様。
「こちらとしても、援軍は出そう。丁度、七つ島からの傭兵が来ていてね。カンタン君の指示で動くようにしておいた。詳細は彼に聞き給え」
そう言う魔王様。
「それはありがとうございます。しかし、カンタンさんとは知り合いなのですか?」
僕は聞いた。
「あいつは元々七つ島のリザードマンでね。私達とも結構大きな商売をやっていたものだよ」
魔王はそう言った。ちなみに七つ島というのは、グランテイルよりもさらに東にある島で、スパイスの産地として有名なリザードマンの島だ。その名の通り7つの島があって、それぞれに貴重なスパイスがたくさん育てられているらしい。
「よし! フェイ、あなたに命じるわ。すみやかにファーランドに残った敵を排除するように!」
そう言う姫様。
「はあ、それはまあ良いですけどね……」
僕はそう言った。