52話 魔剣
ハイランドは後方の城壁が壊されていた。あのゾンビがやったのだろう。
兵士たちを動かし、城壁を修復する。少し時間がかかるだろう。僕も煉瓦を運んだりして働いていた。
「少し、よろしいですか?」
そう聞く少女のエルフ。セラさんのお供だ。
「何か?」
僕は聞いた。
「セラ様が用があるという事です。急ぎはしないそうですが」
そういう少女。
「わかりました。ではしばらく待つように」
僕は言った。
「はい」
そう答えて少女は去って行った。
僕達は城壁を直していった。そう言う仕事はあまり得意ではないコーネリア兵だが、まあそういうこともあるだろう。兵士たちも悪態をつきながらもやってはくれる。
「やれやれ、大工の真似事とはな」
「仕方ねえだろ。ほら動け」
「へいへい……」
兵士たちも難敵と戦って疲れているし、休ませたい。欲を言えば、酒でも飲んでのんびりして欲しい所だが、それも少々危険だと思う。いつ敵に襲われるかわからないからだ。
「隊長、こちらはほぼ終了です。セラ殿が用があるようですし、行ってあげたらどうです」
シギスがそう言った。
「わかった。後は任せるよ」
僕はそう言った。
「了解です」
シギスはそう答えた。
僕はハイランドを歩いていく。山奥の寒村と言う趣だ。木造の家が多い。エルフは森に住むことが多いが、ここのエルフや人間たちは家に住んでいるようだ。
僕はセラさんの屋敷に行った。質素だ。飾り気は無い。その奥の部屋の中央に、セラさんが座っていた。横に二人のお供、少年と少女が居る。
「セラさん、僕に用事とか」
僕はそう言った。
「フェイ君、よく来てくれた。これから共に旅をすることになるだろうが、その前に君に見てもらいたいものがあってね。サビン、例のものを」
そう言うセラさん。
「はい」
少女が答えた。彼女はサビンと言うのか……。サビンは、奥に入り、黒く飾りのついた箱を取り出した。その箱をテーブルに置いた。
サビンが箱を開けると、中には古いボロボロの剣があった。
「これは?」
僕は聞いた。
「私の剣だ。しかし今はもはや力を失っている。錬金術師君、この剣の力を取り戻すことができるかね」
そう言うセラさん。
僕はその剣を見た。
ボロボロだ。刃はこぼれ、ホコリまみれだ。中には、黒い宝石が埋まっているようだが、それも輝きは失われている。僕は埃を払い、剣の素材を探る。
……わからない。僕の知識外だ。
僕は本を取り出した。鉱石素材についての本がある。僕はそれを読み、探る。
世界中のあらゆる鉱石を網羅した本。だがそれをいくら調べても、見つからない。
「ううむ、この素材は一体?」
僕は聞いた。
「私も詳しくは知らん。古代エルフの錬金術師が作り出した魔剣だということしかな」
そう言うセラさん。
――魔剣。
かつて、神だった存在を封印したとも、魔王を封印したとも言われるが、その剣を手にしたものは世界を滅ぼすとまで言われる、究極の武器。
かつて古代エルフの錬金術師は、それを作り出し、破滅をもたらしたと言われている。 錬金術師にとっては憧れであり、そして最大の禁忌でもある。
「まさか魔剣とは……。私の師匠は、魔剣にだけは絶対に関わるなと言っていましたが」
僕はそう言った。
「君の師匠は正しいかもしれんが、この剣は危険な剣では無いよ。私としては、力を取り戻してほしいものだが」
そう言うセラさん。
僕は再度、その剣を見た。中にある宝石は美しいようだが、まわりの金属はもう傷んでいて、取替が必要だろう。
「もしこの剣を使うなら、大々的な修復が必要ですね。やってみましょうか」
僕はそう言った。
「ありがたい。材料は用意してある。トーマ」
セラさんがそう言った。
「はい」
少年が答えた。彼はトーマのようだ。奥に行き、金属の塊を持ってきた。
「あまり良い素材では無いが、まあ仕方ない。やってみてくれませんか」
そういうセラさん。
「わかりました」
僕は答えた。
本来、魔剣ともなれば魔法伝導率の良い素材を使いたい。とはいえ、それは難しい。今回使うのは普通の鋼ようだ。とはいえ、質は良さそうだ。
奥にあった炉を使い、温度を上げて行く。まずは、魔剣の掃除から。不明な金属を溶かし、排除していく。もったいないが、仕方ない。
だが、その時だった。魔剣の宝石が光ったかと思うと、突然僕の手から血が噴き出した。
「うわあああああ!?」
混乱する僕。凄まじい痛みが手に広がる。
「! 静まれ! ジェイク!」
叫ぶセラさん。魔剣は力を失い、静かになったようだ。
「すまない、フェイ君。この魔剣は凶暴でね……。君の行動を攻撃と見てしまったようだ」
そう言うセラさん。
「うぐ……、そうですか……」
僕はひとまず、応急処置をする。アルコールで消毒し、包帯を巻いた。
さて、どうしたものか……。
「困りましたね。これじゃあちょっと、手に負えませんよ」
僕は白旗を上げた。
「さすがに無理だったか……。すまないな……」
謝るセラさん。
「いや、これで諦めたら面白くないですし、もう少し、優しくやってみます」
僕はそう言った。
「無理はしなくていいのだが……」
セラさんはそう言うが。
「いえ、大丈夫です。今のは少々乱暴すぎたと思うので」
僕はそう言った。
僕は再び魔剣を見つめた。以前と変化は無いが、禍々しさを感じてしまう。
僕は魔剣の金属の排除は諦め、鋼によるコーティングをかけることにした。剣を鋼でカバーし、修復する。
真っ赤になった鋼を乗せ、塗っていく。剣は別に嫌がっては居ないようだ。僕は成型し、叩いていく。水で冷やし、また焼きを入れ、剣を修復する。
……何というか、正直かなりいびつな感じになってしまったが、まあ仕方ないだろう。
「一応、出来ました。少々不格好ですが……」
僕は剣を渡した。
「ふふ、本当に不格好」「そうだね」
笑うサビンちゃんとトーマ君。
「構わんよ。剣が暴れなかったという事は、君の仕事が間違っていないという事だろうからね」
そう言ってセラさんは剣を受け取った。
「ちなみにその剣、ジェイクと言うのですか?」
僕は聞いた。
「それは真名。仮の名前はミスティコと言う。もっとも、君が新たに名付けてくれても構わんがね」
そう言って剣を振り、具合を確かめるセラさん。気に入ってくれたようだ。




