50話 巨大なゾンビ
その次の日、いよいよ僕達はハイランドへ向け出発した!
……酒を飲むことを禁止していなかったので、イリス名産のワインを飲んで二日酔いになっている兵士も居たが、まあ仕方ない。そういうこともあるだろう。
ハイランドは、ファーランド北西部の山の中にある。険しい山の頂上のような場所にエルフたちが住んでいる。
僕達は山岳地帯に差し掛かった。周囲を警戒しながら進む。
川があった。その先に大量の怪物が居た。紫色のドロドロのゾンビたちだ。
「どうします? 隊長」
そう聞くシギス。
「悩むことはないだろう。弓矢で攻撃!」
僕は命じた。
バババ。と矢が放たれる。ゾンビたちに突き刺さる。グチャ……と潰れて行くゾンビたち。
「気持ち悪いですわ……。しかし、どういう原理で動いているのでしょうか?」
そう聞くカンデさん。
「黒魔術の類だね。多分、リーダーとなる存在が居るはずだよ」
ドロテアは言った。
「僕は黒魔術には全く疎いけど、ドロテアは知ってるの?」
僕はそう聞いた。
「無知は感心しないけどね。生きてる人を犠牲にすることもある黒魔術は、最も忌むべき魔術だから、あまり学べないだろうけどね……。私も学ぶ気は無いよ」
そういうドロテア。
「忌まわしい事だ。このような魔術、排除すべきだ」
そういうアドリアンさん。
僕達は前進する。ゾンビたちを射撃し、倒していく。矢が命中すれば倒れるのだから、大した相手ではない。
ほとんどのゾンビを排除し、ハイランドの城壁が見えてきた。無事だろうか?
「おーい!」
僕は叫んだ。
「救援か?」
城壁の上から、エルフの男が弓矢を構え、見ていた。
「コーネリアからの救援やで。セラ様は?」
そう聞くカンタンさん。
「今敵の親玉と戦っておられる。救援を!」
そう言って、門が開かれた。
門の中に入ると、多くの建物が破壊され、エルフが何人か犠牲になっていた。その中央で、巨大な紫色の怪物と、一人のエルフが戦っていた。
剣を構え、切り裂くエルフ。しかし怪物はものともしない。
「あー、うー……」
そんな声を出す怪物。巨大なゾンビのようだ。
「……」
エルフは何も話さず、ただゾンビを切り裂く。
その剣は華麗で、美しかった。無駄のない動きでゾンビを切り裂く。しかしゾンビはドロドロと溶け、その威容をぶつけに行く。
「ちっ……」
エルフはひょい、とかわし、後方に降り立った。周りに手をかざし、あたりの気配を探る。目が見えていないようだ。
「エルフ様、助太刀を!」
僕は叫んだ。弓矢部隊に命じる。
「放て!」
バババ、と矢が放たれ、突き刺さる。しかしそれでもゾンビにはあまり効いていなかった。
「あー、うー……」
変な表情であたりをうかがうゾンビ。攻撃が効いているようには思えない……。
恐ろしい巨大さだ。10メートル以上はある。こんなのと戦うとは……。
「下がれ! 私が何とかする」
そういうエルフの剣士。しかし任せるわけにはいかない……。
「あのゾンビには根幹となる部分があるはず……。しかし、あれだけ巨大だとどこが核かわからない……」
ドロテアはそう言った。
僕は気を静め、敵の気配を探る。禍々しい中心点が見える。
「見つけた……、しかし敵は巨大だし、あのドロドロは邪魔だ。どうしたものか」
僕は言った。
「何か有効な手段があるの?」
ドロテアは聞いた。
「聖水を持ってきた。これを中心点にぶつければ、倒せるはずだ」
僕は聖水を取り出した。3つある。
「そういうことなら、何とかしてみよう」
アドリアンさんが突撃する。
「私もお役に立ちますわ!」
カンデさんも突撃した。槍を構える。
兵士たちも参戦し、剣で攻撃する。敵をズタズタにして行くが、敵は気にも留めず、その巨大な拳で殴りかかる。
「ぐわ!」
「うぐ!」
「うああ!」
凄まじい攻撃に吹っ飛ばされる兵士たち。毒に侵され、苦しんでいる。
「くっ……、何とかならないか……!」
焦るエルフの剣士。
「みんな、離れて!」
ドロテアが叫んだ。
兵士たちとアドリアンさん、カンデさん、そしてエルフの剣士が離れる。
「大地の精霊よ!」
ドロテアは叫んだ。
ドロドロの泥がドロドロのゾンビに襲い掛かった。ゾンビは気にも留めないが、泥が混ざり、体が硬くなっていく。
「風の精霊よ!」
ドロテアが風を巻き起こす。ゾンビは外殻を吹き飛ばされ、中央にある禍々しい魂が露わになった。
「よし! 食らえ!」
僕は聖水を全てぶん投げた。瓶入りの聖水が飛んでいく。その中に、魔力薬の瓶を混ぜた。魔力薬は、衝撃を受けると爆発する。
敵にぶつかると、大爆発が起こり、大量の聖水がぶっかけられた。
「グアアアアアアアアアアアア!」
ジュウー、と焼けるような音がして、魂が傷ついていく。そして浄化され、消滅した。