46話 深窓の令嬢(後編)
「失礼します」
僕はバレンティナさんの部屋に入った。レフさんから、そうするように頼まれたのだ。何か話でもしてやって欲しいと。
僕は紅茶を持って入った。二人分だ。
彼女はつまらなそうに窓の外の海を見ていたが、紅茶の香りに気づいてこちらに振り返った。
「まあ、良い香り。頂いても?」
そう聞くバレンティナさん。
「ええ、どうぞ」
僕は渡した。
紅茶を飲んだ。これはコーネリア産の紅茶だ。お茶は温暖であればどこでも育つが、元々は山岳地帯のものだったらしい。現在のアルパ大陸ではどこでも作られている。
「良いお茶ですわ。ありがとうございます」
そう言うバレンティナさん。
「いえ。大したことはできなくて、申し訳ないですが」
僕はそう言った。
「あなたは?」
そう聞く彼女。
「アルパ生まれのフェイと申します。錬金術師です」
僕はそう言った。
「まあ、錬金術師? 珍しいですわね」
そう言うバレンティナさん。
「良く言われます。色んなものを作るのは楽しいですよ」
僕はそう言った。
「どのような物を作られるのですか?」
そう聞く彼女。
「ん、そうですね。食べ物、日用品はもとより、薬や武器、鉱石の生成、後は魔道具の類を作ることもありますが」
僕は言った。
「薬ですか……。私の病気も治らないものかしら」
そう言うバレンティナさん。諦め顔だが。
「モノによっては、役に立てるかもしれませんが……」
僕は言った。
「私は生まれつき心の臓が弱く、問題があるようで。お医者様も、生まれつきだからどうしようもないって。どこまで生きられるかわからないのですわ……」
そういうバレンティナさん。
心臓病か……。僕は師匠に貰った、病気の本を調べ始めた。
「それは?」
バレンティナさんが見つめる。
「病気の本ですよ」
僕は言った。
「まあ。本をお持ちなのですか?」
そう聞くバレンティナさん。
「ええ。と言っても、あまり面白い本では無いですけどね」
僕は言った。
「とんでもない! 見た事のない本を読むのは何よりの楽しみですわ。どうか、一つ読ませてくださいませ」
そう言うバレンティナさん。
「それでしたら、食べ物の本でもどうでしょうか」
僕は渡してみた。
「喜んで!」
本当に喜んでくれるバレンティナさん。
僕は病気の本を読んだ。はっきり言って、心臓病を治す薬は存在しないようだ。症状を和らげる薬を作ることはできるが、摂り過ぎると逆効果になる。
僕は壺を取り出し、素材の草を入れた。魔力をともし、薬を作った。
「まあ、それが錬金術? まさに魔法ですね」
そういうバレンティナさん。
「まあ魔法ではありますね」
僕はそう言って、青い薬を取り出し、瓶に入れた。
「一日一回、小さじ一杯まで……、症状を抑えることができます。ただ摂りすぎると、心臓の動きを弱めすぎ危険です。こんな薬しか出せないのは申し訳ないですが……」
僕はそう言った。
「まあ、そんな薬が!? 素晴らしいじゃないですか」
そういうバレンティナさん。
「量もそんなに無いですから、大事に飲んで頂きたいです」
僕は言った。
「ええ、大事にします。ありがとうございます。あなたはまるで天使様ですね」
そういうバレンティナさん。
「そんな、とんでもないです。僕なんて、あまりお役に立てず……」
僕は言った。
「自信を持ってください。私に希望をくださったのですから……。あなたはきっと、色んな方の役に立つ素晴らしい方ですわ。少なくとも、私はあなたに感謝しますし。自信を持って下さらないと、私が情けないじゃないですか」
そういうバレンティナさん。
「そうですね。すいません」
謝る僕。
「ふふ、謝らなくて良いのですよ。私からも、何かお礼をできると良いのですが……。あ、そうだ」
そう言ってバレンティナさんは本を取り出した。
「世界の様々な産物を書いた本ですわ。良かったら、使ってください」
そういうバレンティナさん。
「よろしいのですか? あなたの大事な本では」
僕は言った。
「私が読んでも時間つぶしにしかなりませんわ。あなたがお役に立ててください。私のようなものでも、役に立てるなら嬉しいですわ」
そういうバレンティナさん。謙虚になられると心苦しいな。僕も、もっと自信を持つべき、か……。
「ありがとうございます。必ず役に立てますよ」
僕は自信を持ってそう言った。
「ふふ、頑張ってくださいね」
そう言って彼女は、静かに笑っていた。




