44話 潮風とコーヒー
僕はひとまず手紙を書いた。姫様宛だ。
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姫様へ。
ファーランドの要請により、ファーランドの都市の救援を続けます。
もし我々からの伝令が途絶えたら、窮地かもしれませんから、助けに来てください。
フェイ
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助けに来てくださいというのもあんまりかっこよくない気もするが、まあ仕方ない。というより、この兵数で任務を続けるのは少し問題があるので、仕方ないんだけど。
この手紙を騎兵に持たせてコーネリアに戻した。
僕はひとまず兵士たちに休暇を与えた。ファーランド本城の住民は疎開していて、今は居ない。
「海だぜ、海!」
「いやー、潮風が気持ちいいなあ!」
「泳ごうぜ!」
そう言う兵士たち。皆内陸育ちなので海は初めてだ。僕はアルパ生まれなので、海は別に珍しくは無いけど。
「フェイ殿、少しよろしいかな」
そう言ってレフさんが話しかけてきた。白い陶器の器を持っている。中には、熱い茶色い不思議な液体が入っていた。
「もちろんです。それは?」
僕は聞いた。
「ああ、コーヒーですぞ。気持ちを落ち着けるにはよいかと」
そう言ってレフさんはコーヒーを置いた。飲むと、苦い。
「苦いですね」
僕は苦笑した。
「まあ、そうですな。しかし香りは良いでしょう」
そう言われたので、僕は香りを確かめた。確かに良い香りだ。
「ふむ、これは良い物ですね。ファーランドにはこう言ったものがあるのですか?」
僕は聞いた。
「まあ。と言っても、これはグランテイルの産物だがね」
そう言うレフさん。
「グランテイル? 敵国のですか?」
僕は少し驚いた。
「グランテイルは、今でこそ敵国だが、かつてはそうではなかった。友好的な時代もあったのだよ。しかし今はそうはいかんがな……。このコーヒーは、その時代にこちらに伝わったものだ」
そう言うレフさん。
「そうでしたか……」
僕はそうつぶやいた。
「フェイ君。君は何を望む?」
そう聞くレフさん。
「……望みですか。難しい質問ですね」
僕は悩んだ。
「悩むのは良い事だよ。若いうちは特にな」
レフさんはそう言った。
「一応、師匠からはエリクサーの生成を任されましたが……。でも僕は、もっと世界を広く見なければならないのかもしれませんね。コーネリアの為になることをしたいという気持ちもありますが、それに縛られてはいけないのかもしれない……。まあ、難しい所ではありますが」
僕はそう言った。
「あの姫君は良い人だよ。もちろん君もな。君はコーネリアの将軍として居ればよい。しかし、広い目線を持つ事も大事だ。君は正しいよ」
そう言うレフさん。
「そうですか。ありがとうございます」
僕は感謝した。
「ふふ、感謝と言うのもおかしなものだがね。まあ、年寄りの言う事はよく聞くものだよ……。君にはまだまだ困難が待ち受けていそうだ。申し訳ないが、我々に力を貸してくれたまえ」
そう言うレフさん。
「もちろんです」
僕はそう言った。