36話 使えない魚
「さて、それじゃあそろそろ出かけようか」
僕はそう言った。
「いやいや。店があるんじゃないの?」
そう聞くドロテア。
「大丈夫だよ。商会ギルドのおばちゃんが全部やってくれるからね」
そう言う僕。
「それは結構だがフェイ殿。それではそなたは何をなさるので?」
疑問に思うアドリアンさん。
「とりあえずは商品開発かな。やっぱマンネリ化してきてるからね。何か新製品を加えないと」
僕はそう言った。
「確かに食料品店なら、いつも同じものじゃつまんないよね。それで、何かあてはあるの?」
ドロテアは聞いた。
「全くないんだよね。まあそれを探しに行こうと思うんだけど」
僕は言った。
そんなわけで出かける僕達。馬に乗り、草原を駆ける。
「そういやさ、ドロテアは普段どんなものを食べてたわけ?」
僕は聞いた。
「んー、まあ木の実とか果物とかかな。まあ、エルティアのカフェだと、スパゲッティやピザなんかも売ってるけどね」
そう言うドロテア。
「へえ、そりゃどういう料理?」
僕は聞いた。
「知らないの? んー、ピザってのはパンの上に色々乗せて焼く料理だね。スパゲッティってのは細い麺を茹でてソースを絡める感じかな」
ドロテアは言った。
「へえ、そりゃあ良いね。店で出してみたいな」
僕はそう言った。
「良いかもね。私もピザ食べたいよ」
そういうドロテア。
「フェイ殿は、まるで料理人だな」
そういうアドリアンさん。
「まあ料理人は近いかもしれませんね。美味しい料理を作ればみんな喜びますから」
僕はそう言った。
漁村に辿り着いた。多くの舟が猟に出ているようだが、すでに帰ってきた船もあるようだ。一人の屈強なおじさんに話しかけた。
「こんにちは。魚は獲れましたか?」
僕は聞いた。
「ああ、大漁だぜ。と言っても、大半は使えねえ魚だけどな」
そういうおじさん。
「何それ? まずいの?」
そう聞くドロテア。
「いや味は良いんだけどよ、すぐに腐っちまうんだよな。困ったもんだ。良かったら焼いて食わせてやってもいいぜ」
そういうおじさん。
「そりゃありがたいですね。ぜひ」
僕はそう言った。
おじさんの家には炭火と鉄板があり、それで焼いてくれるようだ。絶対に美味しいだろう。
小魚を焼き、出してくれた。ついでにご飯も。
「いただきます」
僕はいただいた。とても美味しい。
「メチャクチャ美味しいじゃん! なにこれ!」
叫ぶドロテア。
「ふむ。これはなかなか……」
アドリアンさんも気に入ったようだ。
「うめえよな。でも保存が難しいんだよ。日干しは天候に左右されるしな。まあ、南の方じゃ変なものを作ってるって話だが」
そういうおじさん。
「変なもの?」
僕は聞いた。
「ああ。何でも、『悪魔の血』なんて呼ぶやつもいるくらいだぜ」
おじさんは言った。
「悪魔の血!? 何それ?」
驚くドロテア。
「詳しくは知らねえけどよ。とにかく臭いし変な味だし食えたもんじゃねえって話だがな。でも好きな奴は好きらしいんだよな。世の中、変わったものがあるもんだ」
そういうおじさん。
「へえ、面白そうですね。南の方ではそういうのが作られてるんですか?」
僕は聞いた。
「南の連中は昔からこのあたりに住んでるらしいからな。ま、田舎者だが……、漁師歴は向こうのほうが上かもな。俺たちは元々農家だったり、遊牧民だったりした一族だから」
そういうおじさん。
「そうですか。南にも足を伸ばしてみますよ」
僕は言った。
「物好きだねえ。まあ、止めはしねえけどよ」
おじさんはそう言った。
 




