35話 仲間と信頼
僕はその日、朝早く起きた。
店の裏手では、食料になりそうなものを育てている。アルパから持ってきた大豆は、育ってはいるのだが、太陽が当たらないところのものはもやしになっている。
見ると、アドリアンさんが剣の素振りをしていた。
「おはようございます。アドリアンさん」
僕はそう言った。
「おはよう、フェイ殿」
アドリアンさんはそう言った。
アドリアンさんの剣筋は見事だ。アルパやコーネリアのものとも少し違うようだ。剣も少し湾曲していて、コーネリアのものとは違う。
「珍しい剣ですね。それに珍しい剣術だ」
僕は言った。
「わかるか。さすがだな」
アドリアンさんはそう言って剣を振るった。庭にあった藁木が切り刻まれた。
「その剣もコーネリアのものとは少し違うみたいですね。見せていただいても良いですか?」
僕は聞いた。
「良かろう。見たまえ」
そういうアドリアンさん。
その剣は驚くほど特徴的だった。切れ味を重視した剣のようだ。素材はもちろん金属だが、鉄ではないようだ。
「竜牙剣とか言われるな。作り方は知らんぞ」
そういうアドリアンさん。
「そうですか。ありがとうございます」
僕は剣を返した。簡単に作れるものでは無いだろう。
「フェイ殿は剣に興味があるのか?」
そう聞くアドリアンさん。
「まあ剣と言うか、武器全般にね。ものを作るのが錬金術師の役割ですから」
僕はそう言った。
「錬金術師か……。しかし何故そんなものに? フェイ殿なら、将軍として身を立てれば良いではないか」
そういうアドリアンさん。
「まあそうかもしれませんが、僕は争い事が好きではないですし、ものを作るのは好きなんですよ。武器よりも、料理とかね。色んな人が喜んでくれるのが何よりの幸せなんです」
僕はそう言った。
「……なるほど。甘いが、優しいな」
そういうアドリアンさん。
「やっほー! 元気してた? フェイ!」
突然、女の子が声をかけてきた。浅黒い肌のドロテアだ。髪型がポニーテールになっている。
「ドロテア、どうしたの?」
僕は聞いた。
「国に小麦とか米を届けてたんだよ。みんな喜んでたよ」
そういうドロテアちゃん。
「そうか、そりゃ良かった」
何よりだ。
「それでさあ。良かったら、私を部下にしてよ」
そういうドロテア。
「部下? そりゃまたどうして?」
僕は聞いた。
「いや、そう言う約束だったしさ。まあ姫様に仕えるのでもいいんだけど、今更あの城に行くのも面倒だし怖いしさ。フェイ君なら大丈夫かなと思って」
そういうドロテアちゃん。
「良いではないか、フェイ殿。ちなみにこのドロテア嬢は名の通った魔術師だぞ」
そういうアドリアンさん。そうなのか?
「魔術師だったの? じゃあその気になれば魔法を使って暴れることもできたのか」
僕は言った。
「まあね。もっとも、あなたたちがどんな連中か見極めたかったし、そんなことはしなかったけどね」
そう言うドロテア。意外と抜け目ないんだな……。
「まあそういうことなら歓迎するよ。ちなみにどんな魔法が使えるの?」
僕はそう聞いた。
「んー、まあ大体の魔法は使えるよ」
そういうドロテア。
「そりゃ凄いな。実は天才なんじゃ?」
僕はそう言った。
「ふふ、まあね。でもさ、魔力がすぐになくなっちゃうから、あんまり乱用はできないけどね」
そう言うドロテア。
「そっか。でもそれなら、僕の魔力ポーションが役に立つかもね」
僕は赤い薬を取り出した。
「へえ、そんなのあるの? いっぱいある?」
聞くドロテア。
「今は3つあるね。でもこれは素材が難しくて、ここではちょっと作れないかな」
僕はそう言った。魔力薬の類はアルパの素材で無いと難しい。
「凄いね! んじゃ一つ頂戴よ」
そう言うドロテア。
「いいよ、はい」
僕は渡した。
「……私が言うのも何だけどさ。フェイ君って甘いよね。私がフェイ君に魔法を撃ったりしたらどうするの?」
そう聞くドロテア。
「まあそれは困るね。死ぬかもしれないし。でも僕は、君を信じたいんだ」
僕は言った。
「どうして?」
ドロテアは聞いた。
「僕は結構、人に裏切られたり、傷つけられたりしてきたけどね。だからこそ、信頼できる人とか、仲間が欲しいんだよ。そのためにまずは信じたいんだ。そうでないと、何も始まらないからね」
僕は言った。
「そっか……。君も苦労してきたんだね。心配しないで。私はあなたを裏切ったりしないから」
ドロテアは言った。
「ありがとう、ドロテア」
僕は感謝した。