30話 敗退
「あはははははははは!」
笑うドロテア。
「何がおかしい……?」
怒るシギス。
「お前たちはもう終わりだ! 私達は囮だよ。本命は龍人族の方さ」
勝ち誇るドロテア。
「ちっ、そう言う事か……。隊長! どうします!?」
叫ぶシギス。
「とりあえずドロテアは牢へ……。僕達は迅速に姫様の救援に向かおう」
僕はそう言った。
「しかし兵士たちも疲れています。ここは休養を取るべきでは」
そう言うシギスだが。
「いや、恐らく姫様は危機にある。助けに行くべきだ」
僕は言った。
「……まあ、そうですな。行きますか……」
疲れながらも、シギスは命令に従った。
僕達は、疲れた体に鞭打ち、姫様の本陣へと向かう。
龍人族の国、ドラコニア。
西方の大国だ。龍人族は、ドラゴンにも劣らないほどの戦闘力を持つ。コーネリア兵が世界最強と言うのはあくまで人間の間での話。龍人族一人の戦闘力は破滅的に高い。
その反面、彼らは繁殖力が低く、人口は少ない。それでも広大な領土を持っているあたり、恐るべき戦闘力の持ち主だ。極めて危険な相手だ。
その龍人族が、西方から大挙押し寄せている。しかも南方のダークエルフを囮に使っての大戦略だ。まさにコーネリア王国の存亡の危機だろう。
僕達は姫様の本陣を発見し、辿り着いた。陣幕の中に入る。中には姫様やミカエル、ドミニクら主だった将が集合している。
「フェイです」
僕は言った。
「フェイ! よく来てくれました。敵はどうなりました?」
姫様が聞いた。
「撃破し、ダークエルフを一人捕らえました。こちらはどうなっているのですか?」
僕は聞いた。
「戦況は思わしくない。……、いや、正直絶望的だ」
ミカエルさんが言った。
「そこらじゅうで味方が負けてるしな。ここにも近いうち敵が来るんちゃうか」
そう言うドミニク。
テーブルの上に地図と駒が置いてある。戦局を現しているようだ。
「姫様、第三部隊、全滅しました」
「第六師団壊滅、逃亡しています」
「第五旅団が敗退、後退しています」
来る報告は最悪なものばかりのようだ。どこもかしこも負けている。盤上も手の打ちようがないほどにこちらの駒が消えていく。
その時、一人の敵が乱入してきた。騎馬に乗り、こちらに突撃してくる!
「もらった! 死ねえ!」
茶色のトカゲ顔の龍人だ。巨大な剣を振り回し、姫様に襲い掛かる!
「危ない!」
僕は咄嗟に槍を取り出し、馬に突き刺した。落馬する龍人。すぐさま、ミカエルさんとドミニクが滅多刺しにする。
「ぐあああああああ!」
叫び、のたうち回る龍人。そのまま死んだ。
「ふう……」
ため息をつく姫様。何とか敵一人を倒したが、このままだとここも危険だ。
「姫様、ここはひとまず城内に撤退を」
僕は言った。
「! しかし、ここを撤退すればこの国の四分の一を明け渡したも同じですが……」
躊躇する姫様。
「今姫様が死んだらこの国はどうなるんですか! 騎兵も疲労しています。一刻も早く撤退を!」
僕は言った。
「姫様、ここは無理をしてはいけません。撤退を」
ミカエルさんも同意してくれた。
「せやで。引き際ってのも肝心なんやで」
そう言うドミニク。
「……そうですね。わかりました。では退却を!」
姫様は言った。
退却のラッパが鳴らされ、兵士たちは逃げ出した。僕達は陣を引き払い、コーネリアの城下町へと撤退、籠城した。