17話 護衛
僕とドミニクは、城へと向かった。門番も僕達を信頼し、通してくれる。
城内は相変わらず入り組んでいる。しかしドミニクはすいすいと進んでいく。
「ドミニクさんは長いの? この国」
僕は聞いた。
「さん付けはええで。まあ長いな。生まれも育ちもここやしな」
そういうドミニク。
僕達は玉座の間へと入った。青い髪の王女様が軽快な服装をして玉座に座り、あたりを屈強な親衛隊が固めている。
「お呼び立てして申し訳ありません。でもフェイさん、あんまりじゃないですか?」
そう聞く姫様。
「……と、申されますと?」
僕は聞いた。
「いや、せっかく店まで作ったんだから、もっとこう、大爆発を起こしたり、世界最強の武器を発明したりしても良いんですよ。パン屋なんてやらなくても」
そう言う姫様。
「僕には世界最強の武器は多分作れませんので……。ていうか、そんなもの作っても誰も買わないと思いますが」
僕は言った。
「私が買います!」
宣言する姫様。まあそりゃ買えるんだろうけど……。
「姫様。そのようなことは重要ではございません。本題を」
だるそうにいう側近のミカエルさん。
「そうでした。ところでフェイ様、『氷柱石』というのをご存じですか?」
そう聞く姫様。
「もちろんです。この国の武具を構成する、強固な鉱物だったかと」
そう答える僕。
「そうなのです。そしてその鉱物は、この城の近くの山で産出しているのですわ」
姫様は言った。
「左様ですか。それで?」
僕は聞いた。
「いや、その鉱山に恐ろしい怪物が現れたらしく、ドワーフたちが逃げ出してしまいましてね。このままだとこの国滅びますね」
あっけらかんという姫様。
「ええ、マジですか……」
さすがに簡単に国滅びすぎだと思う。
「滅ぶかは知らんけど、あの鉱山が使えないとロクに武器も作れないし、確かにいずれは滅びるやろな」
そういうドミニク。
「それなら迅速に兵士を動かして取り戻すべきでは?」
僕は言った。
「そうしたいのはやまやまなのですが、私のクソ親父……、じゃなかった、国王陛下が戦争ばっかりしたせいで、各国との関係が悪化して、兵士は国境線に張り付けになっているのです。はっきり言って、動かせる兵士は一人も居ません」
そんなことを言う姫様。大丈夫なのかこの国。
「そういうわけなので、是非ともフェイ様にこの問題を解決していただきたいのです……」
そういうミカエルさん。
「まあ私としても恩はありますし、最大限協力したいとは思いますけど、しかし私はとても弱いので、そういう荒事は無理だと思うのですが……」
僕はそう言った。情けないけど。
「フェイ様が超弱いことはなんとなく想像が付いてますわ。ですので、護衛を付けようかと思いましてね」
姫様が言った。
「まあそういうことやな。護衛とはつまりワイのことや」
そう言うドミニク。確かに強そうだ。
「せっかくだし、私もフェイ様の護衛をやろうかと」
無茶苦茶な事を言う姫様。
「いやありえないですよ! あべこべでしょう。ていうか姫様、戦えるんですか!?」
混乱する僕。
「当然ですわ。この国に生まれ育ったら、姫と言えども剣術を身に着けておりますわよ。魔術だって使えるし、戦闘経験もたっぷりありますからご心配なく」
姫様は本気で僕の護衛をやるようだ。何かが間違っている。
「申し訳ございませんな、フェイ様。私も全力で止めたのですが……」
そういうミカエルさん。何か全身から苦労がにじみ出ている。
「ワイも全力で止めたんやけどなあ……」
そういうドミニク。多分この姫様を止めることはできないのだろう。
「そういうわけなので、さっさと参りましょう。馬の準備を!」
そう命じる姫様。
「はっ!」
走り出す兵士たち。
「姫様の御出陣! 御出陣!」
騒がしくなる城内。本当にこの国大丈夫なんだろうか……?