16話 怪しいトカゲ男
それからしばらく、僕は食料品店をやることにした。
錬金術は様々なものを作り出すことができるが、変わったものを作っても一般の人々の役には立たない。師匠がいつも言っていた事だ。
僕はパンや米、野菜を売った。それらを加工した食品や、惣菜なんかも売ってみた。ちょっとしたポーションなんかも売る。
はじめは訝しがる人が多く、売り上げも芳しくなかったが、3日目ぐらいからは徐々に客も増え始め、それなりの賑わいを見せるようになった。
「店主さん、このパンいただけます?」
おばちゃんがそう言った。
「ええ。銅貨2枚ですよ」
僕は言った。
「はい、銅貨2枚ね」
そう言ってお金を払ってくれるおばちゃん。
そんな感じで、この店は繁盛しはじめた。そもそもこの国は男性が少なくなっているようだ。戦乱続きだし、兵士に取られているのだろう。
そんな時、突然トカゲ男が入ってきた。
緑のトカゲ顔にレザーアーマーを着ている。剣を下げ、熟練の傭兵と言った感じの男だ。あまりこの店には似つかわしくない。
「いらっしゃいませ。何か?」
僕は警戒しながらもそう言った。
「ああ、すまんのう。何か美味いもんくれや」
そういうリザードマンの男。
独特の方言だ。そういえば、リザードマンは東の七つ島という地域に多くいて、商売をしているらしい。しかし現在では、グランテイル帝国のような厄介な国が増えて、この大陸までやってくるリザードマンは少ない。
「それでは、このソーセージパンはいかがでしょう」
僕は腸詰を挟んだパンを差し出した。
「ほほう。ひとついただこかな」
そう言って食べるリザードマン。美味しそうに食べる。
「なかなか美味いやんか。料金は?」
そう聞くトカゲ男。
「銅貨1枚ですよ」
僕は言った。
「安いな。はい」
そう言って銅貨1枚を渡す男。僕は受け取った。
「それにしてもあんさん、錬金術師なんやろ? 何でまたパン屋の真似事なんぞやっとるんや」
そう聞くリザードマン。
「市井の人々のために役に立ってこそ、真の錬金術師だと師匠にいつも言われていましたからね」
僕は言った。
「大層なこった。せやけど、姫様は不満らしいで。もっと面白いことをやってくれるんちゃうかな、と期待しとったんやろうな」
腕を組み、かっこつけるトカゲ男。
「そうですか……」
姫様の評価を得られていないのはまずいかもしれない。
「ま、それはともかく、姫様からの呼び出しやで。悪いがすぐに来てもらうで」
そういうリザードマン。
「そうですか。ちなみにあなたは?」
僕は聞いた。
「傭兵のドミニクや。お前さんはフェイやったかな」
そういうドミニク。
「よろしく、ドミニクさん。行きましょうか」
僕は荷物を持ち、城へと向かうことにした。