140話 王都奇襲作戦(前編)
戦況は、大分楽になってきた。
少なくとも、最悪の時期から考えれば雲泥の差だ。ベルクランドとの和平が成立したのも大きいが、テオドール将軍との密約の効果も大きかった。互いにあまりまともに戦おうとはしない。前線の兵たちは不思議がっていたが、僕と将軍はその理由を知っているというわけだ。
僕はその日、蒸気船を動かし、イリスへと入港した。ルシールさんと作戦会議をする。
作戦は、アルパ王国首都への奇襲攻撃。
アルパ王国という大国を倒すには、首都への攻撃が必要だ。危険ではあるが、その価値はあるだろう。テオドール将軍との密約もある。何故将軍がアルパで何か合図を起こすことを求めたのかは僕にはよくわからないが、僕達の作戦を察知しているのかもしれない。
僕、ドロテア、アドリアンさん、アーダちゃんの4人は、ルシールさんの屋敷に入った。今回、学生たちは連れてきていない。シルヴィアさんは船に残している。
「よう、フェイ」
ルシールさんはそう言った。僕が総司令官になっても、変わらず接してくれるようだ。
「ルシールさん、こんにちは」
僕は言った。
「まあ、座れよ」
ルシールさんがそう言ったので、僕達は座った。
部屋には、大きな黒板があって、アルパ王都の地図らしきものがある。しかしあまり精細ではなく、適当だ。
「アルパをこれから攻撃するつもりなんだが、イマイチどういう構造の街かわからなくてな……」
そう言うルシールさん。
「僕が描きましょう」
僕は言った。
アルパは僕の生まれ育った町だ。当然、どこに何があるかは完璧に把握している。まさか攻撃を行うことになるとは思わなかったけど……。
端的に言えば、中央に城があって周りに街がある、という感じだ。どこも古い家が多い。
「こんな感じですね」
ある程度精細な地図を描いて、僕は言った。
「ふむ……。城はかなり港から離れているな。となれば、城への攻撃は不可能か……」
ルシールさんはそう言った。
「そうすると、街を攻撃するわけ? 酷いことになると思うんだけど」
ドロテアはそう言った。
「確かに。あまり無辜の民を傷つけるものではありませんぞ」
アドリアンさんはそう言った。
「僕としても、あまりお勧めはしませんね。例え戦略的に有効でも、政治的なダメージが大きすぎる」
僕は言った。
「わかってるよ。ただ、アルパ首都にダメージを与えないと、この戦争は終わらんだろう。やるしかないんだ」
ルシールさんはそう言った。
僕は考える。……いずれにせよ、テオドール将軍との密約もある。やるしかないか……。
「それで、いつ行うんです?」
僕は聞いた。
「お前らさえ良ければ、今夜攻撃をかけようと思う。何、ちょっと港を焼くだけさ」
ルシールさんはそう言った。