139話 密約
その日の夜。
僕とテオドール将軍は、指定された場所で落ち合った。そこには小屋があり、その中に入った。
兵士はお互い僅かしかいない。完全な秘密の交渉だ。明かりさえない。暗闇の中だ。
「やあ、フェイ君」
テオドール将軍はそう言った。壮年の騎士だ。力に満ちた男、という感じか。ただ、少し疲労感もある。
「お久しぶりです、テオドール将軍」
僕はそう言った。
「ふむ、あの議会の時に会ったな。……そういえば、君はどこの出身だね?」
そう聞くテオドール。
「アルパです」
僕は言った。
驚いた顔をするテオドール。
「そうであったか。ふむ。そうであれば話は早いな……」
テオドール将軍はそう言った。
そして意を決しこう言った。
「私はアルパ王国を裏切ろうと思う」
そう言うテオドール。
「……何故です? あなたは将軍で、大権を与えられているでしょう。またどうしてそんなことを?」
僕は聞いた。純粋に疑問だ。
「まあな……。しかし王は十分に軍への支援を行ってもくれん。側近はクズのような連中ばかりで、私の悪口ばかり言っているようだ。ハイランドを落としたのに、私のことを更迭しようとしているという動きもある」
テオドール将軍はそう言った。
「そうなのですか……。酷いですね」
僕は言った。まともな国家とは思えない。
「そう、酷いのだ。……とはいえ、私としても、いきなりファーランドに寝返るのは無理だ。立場もあるし、兵や支配下の街の手前もある。そこでまず、『独立』をしようと思う」
テオドール将軍は言った。
「独立ですか?」
僕は聞いた。
「そう、独立だ。『ハイランド共和国』という国を作る。冗談ではなく、ちゃんとした国だ。既に統治機構も用意しつつある。が、すぐにとはいかん。きっかけがほしい」
テオドール将軍はそう言った。
「きっかけ、と言いますと……?」
僕は聞いた。
「何でもいい。アルパで何かを起こしてくれ。それを合図とする。……もちろん、状況によっては私も違う行動をするかもしれんが、その『合図』に基づいて、独立を宣言する、というケースもあるということだ。確約できないのは申し訳ないがな……」
将軍は言った。
「私としては、それで十分です。しかし将軍、あなたはアルパに希望を持てませんでしたか」
僕は言った。
「そうだ。持てなかった。残念だがな。だが、私は君のような若者が作る新しい国に希望を持ちたいのだ。いつの日か、君の国に加えてくれ」
テオドール将軍はそう言った。
「わかりました。必ずや」
僕は言った。
「うむ……。言うまでもないことだが、今日ここで会ったことは極内密に頼む」
テオドール将軍はそう言った。
「もちろんです」
僕は言った。