13話 湖の国コーネリア
湖の国へと入った。
この国は、山々と城塞群に囲まれていて、鉄壁を誇る。しかも世界最強のコーネリア兵が待ち構える。
ただし強国ではない。小国だからだ。最近は、ベルクランド王国と戦争して王が行方不明になり、その勢力も衰えたとされているが……。
湖はとても美しい。それらを囲むように町が点在するが、湖を挟んだ向こう側には白く美しい城が立っている。湖の城、コーネリア城だ。この国の名前も、コーネリア王国と言うのが正式名称だ。
僕達は山道を降りて行き、湖に差し掛かった。爽やかな風が吹く。気持ちいい。
「素晴らしい場所ですね」
僕は言った。
「うむ」
クリフさんはそう言った。
「精霊たちも喜んでいますわ」
イルヴァさんもそう言った。
馬を引き、湖の周りを沿うように歩いていく。時折、畑や牧草地が見える。豊かな土地のようだ。
僕達はコーネリアの城下町へと差し掛かった。城壁で門番に止められる。
「こんにちは。あなたがたは?」
門番が聞いた。
「旅人です。入れていただけませんか?」
僕はまた手形を見せた。
「万国手形ですか。わかりました。ただそういうことなら、一度王城へ向かい、任務の内容を報告していただきますが、よろしいでしょうか」
門番はそう言った。
「もちろんです。ありがとうございます」
僕はそう言った。
僕達は城壁内へと入った。城下町だ。こじんまりとはしているが、賑わいがある。
もう夜が近い。宿を取らなければならないだろう。
「とりあえず王城に向かいましょうか」
僕は言った。エルフ二人も同意する。
城は湖に突き出すように立っている。城へ行く道は一つしかない。まさに無敵の城だ。
城にもまた、門番が居た。
「止まれ! 何用か!」
叫ぶ門番。
「この街の門番に、任務の報告をするようにと言われまして」
僕はそう言って、また手形を見せた。
「万国手形!? しょ、少々お待ちください!」
慌てて城内に走っていく門番。
その後戻ってきた。
「失礼いたしました。早速、姫様に謁見を」
そう言う門番。案内してくれるようだ。
そうして僕達は城内に入った。城の中は何もない。完全武装の兵士だけが満ちている。戦うための城、と言う感じだ。城内も入り組んでいて、正しい道を通らないと奥へは辿り着けないようだ。
そして玉座の間。そこには、美しい姫様が居た。
青い髪、青い瞳、白い肌の若い少女、と言う感じの姫様。白いドレスで着飾っている。泰然としている。
「ようこそいらっしゃいました。このような武骨な城でお出迎えをして、申し訳ございません」
そう言う姫様。
「いえ、とんでもない。むしろ、姫様にお出迎えしていただけるとは……」
恐縮する僕。
「うふふ、ありがとう。それで、あなた方は何をしにここへ?」
そう聞く姫様。
「僕はフェイ、錬金術師です。アルパ王の依頼で、エリクサーの生成を試みようと、世界を旅しています」
僕はそう言った。
「まあ、そうでしたか。しかしエリクサーの生成なんて、可能なんですか?」
そう聞く姫様。
「それはわかりません。僕も力不足かもしれませんし。でも、必ずや成し遂げますよ」
そう言う僕。
「頼もしいですわ。今宵は宴を催しましょう。楽しんでいってくださいね」
そういう姫様。
「いえ、そこまでしてもらうわけには……」
驚く僕。
「エリクサーの生成まで任される錬金術師様を、手ぶらで返すわけには参りませんわ。どうぞごゆるりとお楽しみください」
念を押す姫様。断るわけにはいかなそうだ。
クリフさんとイルヴァさんは黙っている。何かを考えているようだが?
宴が始まった。様々な音楽が流れる。吹奏楽、琴、鍵盤楽器まで。道化師も居て、色々芸をやっているようだ。
料理も並ぶ。肉料理、魚料理、野菜料理、様々な料理が並ぶ。いずれも見たことも無いような素晴らしい料理だ。
「まあ、素敵ですわね」
そういうイルヴァさん。感動しているようだ。
「……確かに、そうだな」
クリフさんは言った。
「楽しんで頂けてますか? 錬金術師様」
そう言う姫様。右から近くに来られ、ドキッとした。
「ありがとうございます。このような宴を……、光栄です」
僕は言った。
「いえいえ。よろしければ、旅のお話などお聞かせくださいな」
そういう姫様。
「お聞かせしたいところですが、僕はまだ旅を始めたばかりで……」
本当に話すことなどない。
「そういうことなら、エルフの気になった事でも聞いていただけぬかな」
そういうクリフさん。
「まあ。エルフ様の気になった事なら、何でもお答えいたしますわ」
笑う姫様。
「では、何故姫様が王様をやっておられるのかな」
そう言うクリフさん。
すっ……とあたりの温度が下がったような感じがした。兵士たちが睨む。姫様も表情を強め、クリフさんを睨んだ。だがすぐに笑顔に戻る。
「うふふ、それは秘密ですわ」
そんなことを言う姫様。
「そうか……」
クリフさんはそう言うと、もう何も語ろうとはしなかった。