119話 最後の一人
その日の元老院が開始された。
重装備のアルパ兵数人に守られた女性が一人。マリーセ王女だろう。化粧をしているが、歳をとっていて美人とは言えない。つまらなそうに議会を見ていた。
「本日はアルパの客人に来ていただきました。マリーセ王女です」
レフさんが紹介した。拍手される。
「マリーセですわ。私から言いたい事は一つ。速やかに我がアルパ王国に降伏することを望みますわ」
マリーセ王女はそう言った。
ざわざわ……と騒がしくなる議場。
「諸君、私はテオドールと申す者。もしファーランドが降伏した暁には、君たちには危害を加えないと約束しよう」
テオドール将軍はそう言った。
その言葉を聞いて安堵する議員たち。しかし、信用できるだろうか。
「お聞きしたい事があります」
僕は言った。
「何ですの?」
あくまでつまらなそうに聞くマリーセ王女。
「降伏の条件は何でしょうか」
僕はそう聞いた。
「ファーランド北部の割譲。それに加え、異種族を全てグランテイルに追放することですわ」
そういうマリーセ王女。
更に騒がしくなる議場。厳しすぎる条件だ。
「あなたたちにできるのは降伏のみ。さっさと終わりにしてくださいませんこと?」
マリーセ王女はそう言った。
僕は思った。これまでの道程。そして、カランという、新しい街。
色んな人に出会い、別れ、そして育てて来た生徒たちの事を……。
こんな条件、飲めるわけがない。
「その条件は飲めない!」
僕は叫んだ。
「……はあ? つまり、私達とあくまで戦うと?」
そう聞く王女。
「あなたたちは間違っている! 分断や差別からは何も生まれない! 色んな人が、種族が協力してこそ、未来を作り出すことができるんだ! もしあなたが、人を苦しめ、傷つけることをやめないなら、僕は戦う! 最後の一人になっても戦う!」
僕は叫んだ。
それはきっと、僕の、本当の声だった。
「そうだ!」「ファーランドをなめるな!」「俺も戦う!」「思いあがるな! アルパの者ども!」「俺たちはファーランド人だ! お前たちとは違う!」
議員たちは、叫んだ。
「何を馬鹿な……」
狼狽するマリーセ王女。
「王女、下がりましょう」
テオドール将軍は言った。
「あなたたち、覚えておきなさい! あなたたちの運命は、死あるのみだ!」
王女は叫んで、出て行った。